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出勤したら、皆がオレを嗅ぐ。
上京、おまえ記憶に刻め。オレの花出が異常事態だ。

「おいちゃん。いや、生田よ。どうしたか聞くかなあ。人間を止めて花壇を選択とは想定外。いよいよかとうとうか。全社どころか国民相手のテーマパークに成る気かね」
「いいえ、」
「魅惑的な百合の香りがほとばしる。私の鼻が曲がりそうだ。社内に置けない、直ちに可燃ごみ」
「今日は不燃ごみの回収日です」
「口答えかね、恥知らず。美湧く。見目麗しい営業担当で部長補佐。わが社の姿勢が問われる。焼却」
「燃やすのは物騒です。市役所の許可も要りますね。その前に病院で診断書が」
「生田、墓前に収まるのではないぞ。上司を侮ってはならぬぞ、おまえは憎めないのだ、わが補佐よ」
あら
あらら
「花瓶に刺す。会社の出入り口で応対だ。さぞや華やかな受付嬢だろうて」
くっ!
「媚を売りたくなかろう、着替えたまえ、替えならあるだろう、貢がれて盛沢山。把握しているぞ、取引先から何枚貢がれたんだい、部長補佐」
「数十枚です」
「数億に上らないかね。きみは何処のキャバクラ嬢だ。国内屈指のやり手だぞ。自叙伝でも書くかね。売れるぞ、増版を重ねて重版だ。印税生活も悪くなかろう、色男」
く!
「結婚式包材の提示は生田が主役ではない。肝に銘じなさい、色気香りが駄々洩れの管理職め!花弁が満開だぞ。広げない。節度を弁えなさい貞操の危機じゃないかねえ。社内閲覧無料動画は惜しみないねえ」
叩き潰すしかない! 

「では、出かけます」
いつまでも部長の相手をしていられるか。

「生田、直ちに出るな。遺失物だ」
伊藤課長、なんだろう。
「髪が湿気で膨らんでいる。まるで水風船。上司として看過しない。その様では行かせないぞ、生田」
あ、百合のせいか。
水に差した生花だもんな。あいつ畜生。
「ワックスがあるので直して行きます」
「待て」
「何でしょう」
「その香りの由縁をあえて聞かない上司の包容力に謝辞しろ」
は?
「素知らぬ顔か。ならばあえて言うぞ、生田。花盛りの艶男。笑顔満開のおまえの相方だろう、原因は」
う。
「見たぞ。昨日大量の百合を抱えて社内を疾走した天使の様を。何故廃棄しなかった。おまえは何だ、結婚でもしたいのか。上司として祝福しない。おまえは全社を担う男だ。天使に落ちるな全社が号泣だ」
く!
「生田、おまえは最早ただの男ではない。全社の将来を担う。大企業を落とし、今は窓口だ。そして性欲と生活の保証だ。美麗で項の麗しさ、腰回りの淫猥さ、しなやかな足。ただならぬ色気。揉みしだく成る尻。組み敷きたく成る隙。鷲掴みにしたくなるタックカール。理解したな?」
くう!
「おまえが生計を持つ身に成れば全社が揺らぐ傾くぺたんこだ。許すまじ、色男。貞操を守れ!」
もう!
「その髪と漂う百合の香り。高貴で相応。だが上司として断固拒否。着替えて頭髪洗浄! そうでなければ生田よ、」
「何でしょうか」

「大事なものを守る男が花を抱えて取引先へ向かうとは見損なう」

「えっ」
「おまえは人目を誘うと言った! 配慮しろ、部下を守るのは上司の務め。そして男の様を見たいと願う。その想いを抱えて、他人様の祝福のために包材を提供して来い。理解したな?」


営業部を後にして階段を下りると1Fの商品部が見えて来た。
あ、一応お礼を言うかな、上京が百合を頂いたから。
オレは大迷惑だけどな。
パーテンションを開けて「失礼します、営業部の生田です」と一礼すると菊原課長が頷いた。
「おいちゃん、おはよう。素敵な香り」
あなただけですよ、誉めて下さるのは。
「あの、上京が百合を頂いたようで、カサブランカは高価ですよね、そんなものを頂いて」
物凄い量ですが。
確か、1本で530円くらいする。都築部長のところで見かけて仰天した。
生花は高値、是非、卸をしたいくらいだ。
「うちで育てていると話したら、かんちゃんが欲しいと言ったの」
え、栽培が難しいんじゃないか?
後で調べよう。
「おいちゃん? 本当に一緒に帰っていないのね、抱えきれないほど持たせたのよ?」
え、そんなに仰天なさるとは。
「最近残業なので、先に部屋へ帰らせています。待たせるのはあれかな、と思いまして」
「……見失わないで。あなた、違うわよ。無垢なあの子を悲しませたら流石の私も許さないわよ」
「はい?」
「ねえ、いい機会ね。今から結婚式包材の提示でしょう。誰かを幸せにしたいって、素敵な事なの」
なにかな。
百合、か。検索してみようかな。意味があるぞ、菊原課長の事だ。オレと上京の理解者だ。
「部長補佐、それにすっかり囚われたわね。おいちゃん。管理職でも守るべきよ。遠慮させないで」
は、まさかね。
「全社を担うおいちゃん。でも、あなたは誰を守る為にその職位に就いたか思い出してね、ダメね、私は、あなたも庇ってしまう。幸せに成って欲しいから。純粋で威厳を保つかわいい私の部下だしね」

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