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第4話

入ってきた白衣の男は、白髪が混じった短髪で、年齢は50歳程度。それだけならば特に驚く点はないのだが、その男を目にした瞬間に、ほとんどの者が目を丸くした。

 この国の人間としては高い――百九十センチ近くありそうな身長。

 鍛え上げられている――肩幅の広い体。

 堀の深い――厳つい顔。

 まるで軍人のようなその男は、実習生達が見える位置に立つと、鋭い目で全員を観察するように視線を動かしながら話し始めた。

「……初めまして。私はここ、久重重工第一研究所の総主任である、荒山敬一郎という者だ」

 襟のところにつけられている小型マイクを通し、室内に設置されたスピーカーから聞こえてくる、男――荒山敬一郎の、威圧感のある太く低い声に、ざわついていた実習生達は口を閉ざした。

「さて……今日から一年間、君達にはアーティナル・レイスの研究、開発業務に実際に携わってもらいながら、様々な課題をこなしていってもらうことになるわけだが、その課題や日々のスケジュールは、基本的に全員異なるものになるが――」
「全員異なるって、何か理由があるんですか?」

 前の方の席にいた青年の一人が言葉を遮るように聞くと、荒山の顔がわずかに険しいものになった。

「……まずは話を最後まで聞け。質問時間は後から設ける」
「す、すいません」
「実習や課題がそれぞれ異なるのは、基本的な評価の他に、君達がどのような人間で、どのような適性があるのかを判断させてもらうためだ。遺伝子操作を受け、優れた才能を持って生まれた君達は、すぐにでも即戦力として活躍できるくらいの能力を持っていることだろう」

 聞いていた何名かが、胸を誇らしそうに張ったが……

「……しかし、それだけでは君達の本質――人間性を見出すことはできない。才能を持っていても、それを生かさず殺し、才能を持っていることだけを自慢にするような人間が、君達の中にいないとも限らんからな」

 荒山がそう言うと、すぐに胸を張るのをやめた。

「評価方法について、これはアーティナル・レイスに行わせる。そのため、君達には一人につき一体、第一世代のアーティナル・レイスを与える。そしてそのアーティナル・レイスが、君達の実習や課題、行動等を見て評価し、それをもとに君達の今後を判断させてもらう」
「「「おぉ……」」」

 それを聞いた何名かの実習生が声を漏らした。

「アーティナル・レイスを与える理由は、もう一つある。それは君達の護衛だ。知っての通り、今この世界では戦争が起きている。この研究所も、警備用のアーティナル・レイスがいるとはいえ、絶対に安全とは言い切れん状況だ。それに実習内容によっては、研究所の外へ出なければならない場合もある。そのため、君達に与えるアーティナル・レイスには、護衛プログラムを入れてある。いざという時は、君達人間の盾となってくれるだろう」
「人間の……盾……」

 澄人はうつむくと、小声で呟き始めた。

「澄人?」
「澄人君?」
「なんで……そんなふうに……アーティナル・レイスは……」

 呟く澄人をアキラと良美が見てすぐ。荒山の目も、澄人の方を向いた。

「お、おい。あの人お前を見ているぞ。ブツブツ言うの、止めたほうが……」
「…………」

 だが……なぜか荒山は澄人を注意することはせず、話を続けた。

「……与えるアーティナル・レイスのタイプについてだが、それはこちらで決め、これから君達が生活することになる研究所内の寮の部屋で待たせてある。今後のスケジュール等は、そのアーティナル・レイスから伝えられるが……その通りに動くかどうかは、君達の判断に任せる。さて……何か質問はあるか?」

 荒山がそう言うと、先程注意された青年が手を上げた。

「あの……良いですか?」
「許可する」
「任せるというのは、どういう意味なんでしょうか?」
「言った通りの意味だ」
「言った通りの意味……ですか?」

 よくわからないと言っているかのように、首をかしげる青年を見た荒山は、鼻で短くため息をついた。

「……今回の実習や課題は、ただやれば良いというわけではない。やれるかどうか――やるべきかどうか……よく考えて行動しろということだ。他に質問がある者はいるか?」

 と言ったが、他に手を上げるものはいなかった。

 荒山が言った『君達がどのような人間で、どのような適性があるのかを判断させてもらう』と、質問をした青年に対する返答と態度から、質問をした青年の評価が下がったのではないか? と彼らに恐怖心を与えたからだ。

「……ないようだな。それでは、各自寮の部屋へ行き、自分のアーティナル・レイスの確認をした後、スケジュールを聞け。その後どうするかは、今言ったとおりだ」

 荒山は、会議室から退室していき……実習生達も、荷物を持って寮へと向かい始めた。

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