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63話 帝国からの逃亡者

 皇帝のおっさんに戦いを強要されそうになった俺は、それを一言の元に拒絶し逃亡を決意したが、宮殿からの脱走は困難を極めた。無駄に広くて入り組んだ構造は、内部構造に詳しくない俺にとっては迷路の中をむやみやたらに走り回っているかの様だった。そして走りながら思う。なるほど、この構造は侵入してきた敵にとっては厄介極まりない。

 そんな時、脱走の手助けをしてくれたのがコイツだ。コイツなんて雑な扱いをしているが実は帝国のお姫様だったりする。そして父親の野望の被害者でもある。その一点で俺はコイツを信用する事にした。

「……大丈夫か?」
「はぁ、はぁ、申し訳ありません……ふぅ、はぁ……大丈夫です」

 あんまり大丈夫じゃないよな、これ。必死で息を整え、俺の足手まといにはなるまいと頑張る姿には胸を打たれる。
 着の身着のまま逃げ出して来たお姫様が、山中の逃亡生活で堪えていない訳がない。俺だって少々参っている。だが、このお姫様の心は強い。

「しっ!」

 まだ距離があるが前方に魔物の気配がある。息を潜め身を屈めて気配の主を探る。

「ヤバいな。オーガの群れだ」
「!!」

 お姫さんの表情が恐怖で引き攣る。普通の人間がオーガに遭遇したらまず命は無い。なんせ、鬼だからな。強い硬い速いの三拍子揃ったヤツだ。さて、どうするか……

「……わ、私が囮になります。どうか……あ、貴方だけでも、逃げ延びて下さいまし」
《コツン!》
「あいた!」

 俺はお姫さんの額を軽く小突いた。全く、恐怖で歯をガチガチ言わせながらそんな事言われてもな。

「いいか、あんたは少しの間ここを動くな。そして隙を見て逃げろ」

 くっ……涙目でイヤイヤすんなよな。

「生き残れる確率が一番高い作戦だ。いいな? ――!!」

 その時、オーガと目が合った。

「気付かれた」

 そう言い残し、俺は背中の剣を抜きオーガの群れの前へと躍り出た。

(無事に逃げ切ってくれよ!)

 そう願いながら。

*****

 国境を越え、街道を歩いていたあたし達三人。国境の関所は、冒険者ギルドカードを見せたらあっさり通してくれた。入国目的を問われたけどメッサーさんが『依頼』とだけ答えるとそれ以上は何も聞かれなかった。

「1級以上のパーティともなると、国が絡む依頼を受ける事も多い。当然機密扱いのものもあるからね。たかが下級役人程度ではあれ以上突っ込んで来れないのさ。ただ、帝国には私達が入国したという情報は駆け巡るだろうね」

 メッサーさんがそんな風に説明してくれる。ほうほう、高ランク冒険者って思った以上に重要人物扱いなのね。そう言えば、あたし達は称号持ちだから貴族と同等の扱いなんだっけ。

「早速、きな臭い事に巻き込まれそうな予感がするよ……」

 お姉ちゃんがそう言うと、案の定、さっきから頻繁に騎馬隊や騎士が慌ただしく動いている中の一隊がこちらに近付いて来た。

「おい、お前達! 怪しい二人組を見かけなかったか?」

 騎馬隊の隊長らしき人が話し掛けて来た。

「いや、私達はここまで誰とも会っていないし見かけてもいない。それに、怪しい二人組と言われてもな」

 メッサーさん苦笑。そりゃそうだよね。質問がざっくりしすぎだよ~。

「う、うむ。若い男女で、男の方は珍しい黒髪、女の方は栗色の髪だ。もし見かけたら近くの村の屯所へでも知らせてくれ。それからお前達、今晩の予定はあるのか? よかったら我々と……」
「遠慮する」
「な!? 貴様!」

 バッサリ断ったメッサーさんに、激昂しそうになった隊長さん。でもその隊長さんの目の前にメッサーさんはギルドカードを突き付けた。

「む! な!? と、特級冒険者で称号持ち……? メイズ・ドミネイター……?」
「分かったら私達に関わるな」
「ひ……し、失礼しました!!」

 おお~。隊長さん以下全員脱兎の如しね! それにしてもメッサーさん、カッコよかったなぁ……

「ふっ。称号持ちの貴族特権はこういう時に使うものさ。さて、先に進もうか。怪しい二人組も気になるしね」
「そうそう。珍しい黒髪だってさ、シルト?」

 本当のお父さんと同じ髪の色……そうね。有力な手掛かりかも知れない。

「軍が中央から国境に向けて捜索してるって事は、逃亡してる二人の目的は国外逃亡。でもボクらは誰にも会っていない。って事は山中に潜んでやり過ごしている可能性が高いね」
「ああ。ただし包囲網を敷かれて出るに出られない状況なのかも知れない」

 お姉ちゃんの言葉にメッサーさんが同意する。そして、『怪しい二人組』にとってはあんまりよろしくない状況だ。

「山中って事は魔物の危険もありますね。そう長い事、潜伏していられないかも知れません」
「「!!」」

 あたしが普通に意見を述べたら、メッサーさんとお姉ちゃんがびっくりしてるのよ。なぜ?

「なんです?」
「いや、シルトがね……理論的に推論を述べるなんて。成長したなぁってお姉ちゃん感動した!」

 え?……いや、そこまで?

「そうだ。以前のシルトなら考える事を放棄していたかも知れない」

 ええ……
 ん? 二人が残念評価を下してくれて、ガックリ来たあたしがそれを視た(・・)のは偶然か必然か。山の中で魔力が動いていた。あたしの魔力視のスキルがそれを捉える。収束、放射。そしてまた……

「メッサーさん! お姉ちゃん! あの辺りで魔法が使われてました!」

 山の麓あたりを指差してから、あたしはモーニングスターを手に取り駆け出した。魔力が動いた場所からここまではまだ距離がある。にも拘わらず魔力視に見えたという事は、それなりに大きい魔法を行使したという事だ。

「なるほど。山中で大きな魔法ね……シルトの考察が大当たりか」
「敵か味方か分からないけど、みすみす手掛かりに死なれちゃ困るもんね! メッサーさん、急ごう!」

 脚力強化のエンチャントが施された龍革のブーツは、あたし達をとんでもない速度で走らせる。

「見つけた! オーガの群れです!」

 ありゃりゃ? もしかして大ピンチ? あたしはオーガに向かい星球を飛ばした。

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