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61話 完封勝利

 ほんのりと明るく光る、岩壁に囲まれた広い空間。ここは迷宮第十階層最奥の部屋。
 あたし達は再び邪龍と対峙している。前回の戦いでは、最終的に勝ちはしたけど、リセットの力が無ければ何度も死んでた。あたし達の中では勝ったという意識はあまり無い。今回も挑戦者のつもりね。

 イングおにいとコルセアさん、二人の1級職人が手掛けた新装備は圧巻だった。
 ここに辿り着くまでに、苦戦らしい苦戦は殆どしなかった。邪龍と同等の防御力を持つ上に、更に各種エンチャントが施された装備はまさに鉄壁。第九階層ギガンテスの❘衝撃鎚矛《インパクト・メイス》の一撃にさえ気を付けていれば問題なかった。
 ギガンテスの相手をする時は、つくづく躱すタンクのスタイルを身に付けておいて良かったと、本当に思うよ。

「おそらく、邪龍の肉弾攻撃も大きな脅威とはならないと思う。ただ、ブレスだけは要注意だね」
 
 そう、メッサーさんが言う通り、ドラゴン同士が戦った場合はブレスの吐き合いになるのだと言う。ブレスでしか効果的なダメージが与えられないからだそうだ。もちろん両者の間に圧倒的な力量差があればその限りではないけれど。
 つまり、ドラゴンのブレスというのは自分の防御力以上の威力を持っているということだ。逆に言えば、それ以外の攻撃、例えば尻尾や爪なんかの直接攻撃は、食らったとしても致命傷にならないということ。
 でも、あたしたちの場合は、質量的な問題で直撃を食らえば吹き飛ばされちゃうから、無条件に食らっていいものでもない。

「あたしがブレスを引き受けます! 任せて下さい!」

 それでも、生まれ変わったあたしの盾、『アブソーバー改』なら耐えられる。そんな確信めいたものがあたしの中にあった。なぜなら、こうして邪龍と対峙していても、以前のような威圧感を感じないから。

「ふふ、頼もしいね、シルト。でもブレスを吐く前の隙はもう見逃さないよ。ブレスを吐かせる事なく完封して見せるさ」

 確かに、前回の戦いで邪龍最大の弱点を見切っているラーヴァお姉ちゃんなら、本当に完封出来るかも知れない。
 そして、作戦の要点はただ一つ。

「邪龍にブレスを使わせる展開に持って行くには二通り。ダメージを与え続けて追い詰めるか。それともブレス以外の攻撃を凌ぎ切ってブレスを使わせるか」

 ブレス以外の攻撃は効かないよって事を思い知らせてやればいいなら、あたしの出番ね!

「後者で。あたしが邪龍の攻撃を受け切ってみせます!」

*****

 私とラーヴァは驚愕していた。シルトは邪龍の攻撃を本当に一人で受け切っていた。何と、アブソーバー改は背中に背負ったまま、❘衝撃鎚矛《インパクト・メイス》を邪龍の攻撃に合わせているのだ。
 手で攻撃すれば手を潰され、尻尾で攻撃すれば尻尾を破壊される。内部に衝撃を叩き込むあのメイスならば、確実に邪龍のヘイトを取れる。そうシルトが判断したのだろう。さすがの邪龍も、攻撃した部位がシルトによって破壊されていくのでは、直接攻撃を続ける訳にはいかない。 こうなると、邪龍に残された手段は長距離砲、つまりブレスしかない。

「こうも鮮やかに抑え込むとはね。君の妹はやはり天才だよ」

 私の言葉に、魔力を練りながらも目を細めて笑みを返してくるラーヴァ。

「あのセンスと不思議なスキル、正体不明の父親譲りなのかなぁ」
「ならば目的地はやはり帝国かな?」
 
 シルトの父親と目される人物は帝国人が着る服装だったという。その上、珍しい黒髪だったというからには、帝国に行けば何らかの手掛かりが得られるかもしれない。

「ですかねぇ……ごめんね、メッサーさん。新婚早々……」
「ふふ、かまわないさ」

《メッサーさん! お姉ちゃん! ブレス来ます!!》

 言葉を交わしながらも、私とラーヴァは最大級の魔法を放つ準備を終えていた。特級冒険者の肩書きにかけても、シルトの作った好機を逃しはしない。

*****

 敢えて言うなら『武器破壊』。それが最もしっくり来る表現かも知れない。
 あたしは、メッサーさんやお姉ちゃんにヘイトが向かない様に、邪龍に接近戦を挑んだ。幸い巨体の邪龍は、攻撃のモーションが大きいので対応はしやすい。手足や牙、尻尾に爪。あたしに攻撃してくる邪龍の『武器』に、悉く❘衝撃鎚矛《インパクト・メイス_》の一撃を合わせてやる。その度に邪龍から悲鳴が上がる。
 どんなに装甲が固かろうが、衝撃が内部に貫通する❘衝撃鎚矛《インパクト・メイス》には関係が無い。

 牙を折られ、手を潰され、尻尾を破壊された邪龍に残された最後の手段はブレス。背中の翼をはためかせ、邪龍はあたしから距離を取った。

「メッサーさん! お姉ちゃん! ブレス来ます!!」

 邪龍が大きく口を開け、周辺の魔力を吸収し始めた。ここまでお膳立てするのがあたしの役目。後は隙だらけの邪龍の大口に、二人の天才――メッサーさんとお姉ちゃん――が魔法をぶち込めばそれで終わる。

 二人が練り上げた尋常ではない魔力量を視た(・・)あたしは、メイスを地面に突き立て、背中のアブソーバー改を前面に構える。
 なんだろう? 邪龍のブレスよりも、あの二人の合体魔法の方がヤバい感じがするのは気のせいかしら? 余波だけでもかなりの破壊力がありそうな気がするわ。

 二人が魔力を開放すると、竜巻を螺旋状に纏った炎蛇が、邪龍の口腔の中へと飛び込み大爆発を起こした。

「すっごい爆発……あたし、アブソーバー改がなかったらリセットのお世話になってたわね」

 これ、最初から撃ち込んでおけばあたしの頑張り必要なかったんじゃないかしら?

「あれだけの威力を出すにはかなりの時間が掛かるし、緻密な魔力制御が必要になってくる。シルトが引き付けてくれなければ無理だね」
「そうそう! ぎゅっと魔力を凝縮させないと、あの威力にはならないんだ。同じ魔力量でも凝縮させないと広く浅い範囲魔法になっちゃうからね。その為には、ものすごい精神力を使うんだ」
 
 あたしの考えを読んだよのか、二人からそんなお言葉をいただいた。うん。確かに二人とも疲労の色が見えなくもない。ともあれ、邪龍は完封出来たし、帰還しますか! 
 

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