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序 賞金稼ぎの男

 場違いな所に来た。スティーブン・ホワイトが最初にこの屋敷に足を踏み入れた時に思ったのはそれだった。

 エントランスには巨大で豪華なシャンデリアが下がり、そこらじゅうに高級だとわかる調度品があちこちに飾られている。ターゲットの泥棒が見たら涙を流して喜ぶだろう。

 きびきびとしたメイドに案内され、応接室に入る。そこもまたきらびやかだった。

「待っていましたよ、ホワイトさん」

 そこにいたのは雇い主の男だけではなかった。男にそっくりな青年が側に立っている。きっと雇い主の息子なのだろう。

「息子がどうしてもって言って聞かなくて」

 彼の息子は貴族にするように丁寧に挨拶してくれる。

 貴族の中には平民をあからさまに見下してくる者もいる。雇い主が優しそうな人間で本当にラッキーだとスティーブンは思った。

 このイシアルでは、犯罪者をとらえるために、高い報酬をかけて腕っ節の強い者を雇うという事が一部の貴族の間で流行していた。その手柄は雇った貴族のものになる。だが、与えられる報酬が多いのでこの職業は庶民の男の間で人気があった。
 スティーブンが相手する泥棒も何度もそういう危機をくぐり抜けて来たのだという。ということは強敵なのだろう。

「その泥棒の基本情報はいただけますか?」
「ああ、もちろん。この紙にまとめてある。あとで読むといい」

 この国の識字率はあまり高くない。きっと試されているのだろう。文字が読めてよかったと安堵する。

「ありがとうございます」

 それだけ言う。

「期待していますよ、ホワイトさん」

 最後にずっと黙っていた雇い主の息子がそう言った。
 その目に宿っているのは好奇心だ、とスティーブンは即座に理解した。

「わかりました。必ず期待に応えましょう」

 絶対にあの泥棒は自分が捕まえる。そう決心していたスティーブンは、雇い主の息子が彼を嘲るようにこっそりと唇の端を上げた事に気づかなかった。

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