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闇の国、過去の罪

1
数日振りに闇の国に帰ってきた花音達が城に着くと、直ぐに王達の部屋へ呼ばれた。
「失礼します」
夜天が部屋のドアを開け、花音達は彼に続いて入る。
「父上、用というのは」
「うむ。実はお前達が光の一族の所へ行ってる間に使者が来てな。その者の話だと陰の一族が火の国へ侵攻を始めたそうだ」
「えっ!?」
王の言葉に思わず声を上げる。
はっとして口を押さえ回りを見ると、風夜と光輝は顔をしかめ、火焔に至っては顔色が悪かった。
「父上、それは本当なんですか?」
「ああ。使者から話を聞いた後、我々も事実を確認したが間違いない」
そう言って王は花音達の方へ、正確には火焔の方へ歩いてきて一通の封筒を取り出した。
「これは使者が火の国の王から預かってきた手紙だ。後で読むといい」
差し出された封筒を火焔が受け取る。
その後、花音達は王の部屋を退室した。
「火焔くん、大丈夫かな?」
一人離れた場所で渡された手紙を読んでいる火焔を見て、花音は心配そうに呟く。
手紙に何が書かれているのかわからないが、火焔の顔色は冴えないままだった。
「それにしても、火の国に侵攻を始めたとなると、既に風の国は奴等の物になったってことか。あまりゆっくりしてはいられないかもな」
メイドが用意してくれた紅茶を飲みながら光輝が言う。
「うん。まだ宝珠も一つだけだし、急いだ方がいいよね」
視線を火焔に向けたまま返すと、読み終わったらしい火焔が掌に炎を宿し、手紙をその中へ入れてしまった。
炎に包まれ、手紙はあっという間に燃えてなくなる。
それを確認して息をついた火焔に風夜が近づいていくのがわかった。
「火焔、手紙は何て書いてあったんだ?」
手紙の内容を聞こうと風夜が声を掛ける。
だが、火焔は口を開こうとしない。
「おい!何て書いてあったか言えないのか!?」
「ちょっ、風夜!」
声を荒げた風夜を慌てて止める。
火の国へ侵攻を始めたということは風の国は完全に陰の一族の手におちたということで、風夜も少し冷静さを失っているようだった。
それでも口を開こうとしない火焔に風夜が舌打ちする。
彼はそのまま部屋を出ていってしまい、花音は火焔を見た。
「火焔くん」
「……悪い。少し考えたいことがあるんだ。一人にしてくれ」
そう言って、火焔も出ていき、入れ替わるように夜天が入ってきた。

「あれ?あとの二人は?」
少し大きめの荷物を持った夜天が部屋の中に花音と光輝の姿しかないのを見て訊ねてくる。
「火焔くんはちょっと一人にしてくれって。風夜もそんな感じだよ」
「そうか」
「それより、もう行くのか?」
夜天の荷物を見て光輝が聞くと夜天は頷き、花音に説明するように口を開いた。
「ああ。この国の宝珠は迷いの森って呼ばれてる森にあるんだ。宝珠のある場所までの道が複雑で、視界も悪い。順調にいっても往復三日はかかる」
「そ、そうなの?」
「そう。だから、風夜達にもきちんと説明してから行きたかったんだけどな」
そう言い、夜天は溜め息をつく。
そこで不意に光輝がそれまで座っていた椅子から立ち上がった。
「夜天」
「ん?」
「姉上のことを頼む」
そう言い頭を下げた光輝に夜天は笑みを浮かべた。
「わかってるよ。……さぁ、出発しよう」
「うん。……光輝、私と夜天くんがいない間、風夜達と喧嘩したら駄目だよ」
「わ、わかってるよ。姉上」
光輝が答えるのを聞いて、花音は笑みを浮かべた。
「じゃあ、行ってくるね」
「二人共、気をつけてな」
そう光輝に見送られ、二人は迷いの森へ出発した。
城を出発してから数時間後、花音と夜天は森の入口に来ていた。
「何か不気味なところだね」
「ああ。宝珠は森の最奥にある。そこまでの道は俺が知ってるけど、複雑だからはぐれるなよ。それと」
「何?」
「さっきは言わなかったけど、ここは盗賊達が潜んでいることもある。俺も警戒しているけど、背後とか気を付けろ」
「う、うん」
「じゃあ、行くぞ」
そう言い夜天は歩き出す。花音もその後をついて、森の中へ足を踏み出した。
(何だかもう帰りたくなってきたかも)
光が入らない薄暗い森の中、辺りを落ち着きなく見回しながら花音はそう思う。
森に入ってから夜天はずっと警戒しているらしく、ピリピリとした雰囲気を纏っていて話し掛けにくかった。
「どうした?疲れたのか?」
花音が思わずついてしまった溜め息に夜天が聞いてくる。
「えっ!?ううん、大丈夫だよ」
「そうか。まぁ、どうせ後少ししたら今日は進めなくなるだろうから、もう少し頑張ろう」
「進めなくなるってどうして?」
「この森はこの通りあまり光が入らないだろう。だから、日が落ちると余計に暗くなり、何も見えなくなるからな」
花音の疑問に答えるように夜天はそう言った。
そんな会話をして一時間。
夜天が言った通り、日が落ちてしまった森の中は真っ暗で視界が悪くなっていた。
「ほら」
「ありがとう」
火を起こし、その傍にいた花音は夜天が持ってきたパンを受け取る。
「ねえ、今日はどの辺りまで来られたの?」
「丁度半分を越えた辺りだ。明日、朝早くから移動すれば宝珠のある場所に昼までには着くはずだ」
火が消えないように時々木の枝を火の中に入れながら夜天が答える。
「そう」
パンを口にしながら、城を出てきた時を思い出す。
(あの三人で明後日まで大丈夫かなぁ)
まだ馴染んでいない光輝とピリピリした空気を纏っていた風夜と火焔を思い出し溜め息をつく。
「どうした?」
「ううん。何でもないよ」
「そうか。なら、食べ終わったら火の番は俺がするから休めよ」
「えっ、でも」
「いいから。お前より俺の方が体力あるし、お前はこういうの慣れてないだろ」
夜天にそう言われ、花音は頷くしかなかった。

「……音、花音!」
「……?何……?」
軽い食事のあと、夜天に言われるまま横になっていた花音は
身体を揺すられ目を開ける。
まだ夜中だと思われる暗さだったが、いつの間にか火は消されていて、目の前の夜天の緊迫した表情から何かあったのはわかった。
「どうしたの?」
「……盗賊だ。やっぱりこの森に潜んでいたらしい。ここまで接近されるまで気付かなかった」
夜天がそう言って、少し離れた位置を見る。
まだ姿は見えなかったが、すぐ近くから幾つかの気配を花音も感じる。
段々と足音もはっきりと聞こえてきて、花音達の前方の木々が揺れる。
現れた盗賊達は嫌悪感を感じる笑みを浮かべていて、それは何故か夜天の姿を目にした時深められたのがわかった。
「これはこれは、皇子様が何故このような森に?」
「……お前達には関係ないことだ」
嫌な笑みを浮かべる盗賊達に夜天は冷たく返す。
すると盗賊のリーダーらしい男が花音に気付き、ニヤニヤと笑って口を開いた。
「見たことない顔だな。お嬢ちゃん、その皇子様がどんな方か知っているのかい?」
「えっ!?」
盗賊のリーダーの言葉に首を傾げる。
「お頭、知らないようですよ」
「なら、教えてやろうか。そいつがどんな危険な奴か」
その言葉に横にいる夜天の表情が強ばるのがわかった。
「夜天くん?」
少し青ざめているようにも見えて声をかけたが、夜天は何も言わない。
盗賊達はそれをニヤニヤと見ながら口を開いた。
「そいつはなぁ、幼い頃力を暴発させ、人を何人か殺しているんだよ」
「えっ!?」
一瞬何を言われたのかわからなかった。
「もう一度言おうか。そいつは殺人をした皇子様なんだよ。しかもその時に……」
「……めろ……」
「実の弟も殺したんだ。可哀想になぁ。まだ幼かったのに実の兄に殺され、王室からも存在を消されたんだからな」
「しかも当時、城にいてそのことを知っている者は解雇。王や王妃は事件自体を揉み消した。お陰で俺達が城に盗みにはいったことも揉み消されたってわけだ」
「そのことでは感謝してるんですよ。皇子様のお陰で俺達は取り締まられずにすんだんだからな。いっそのこと俺達が仕事の度にそのような事件を起こしてくれたら、全部揉み消してもらえるのに」
そう言い、盗賊達はゲラゲラと笑う。
その時、ふと夜天の雰囲気が変わった気がした。
「夜天くん!」
夜天の力が高まるのを感じ、花音は彼の名を呼ぶ。
だがその声は夜天に届いていないようで、盗賊達もまた夜天の異変には気付いていないようだった。
夜天の手が剣の柄にかかっても、盗賊達は気付かず笑っている。
「そうだ!皇子様、俺達の仲間にならないか?あんたが、邪魔な奴等を殺してくれれば俺らは手を汚さず、金目のものが手に入る。あんたの罪は王と王妃が揉み消してくれるだろ。うまくいけば」
「黙れ!」
盗賊の言葉を遮り、夜天が低い声で言う。
それと同時に夜天の掌から黒い霧のようなものが放たれ、盗賊達の動きを封じ込めた。
「なっ!?」
「うぐっ!」
「駄目!夜天くん!」
動きを封じ込めた盗賊達に剣を抜いた夜天の後ろから抱き付くようにして引き止める。
「離せ!」
「駄目、駄目だよ!夜天くん!」
今まで見たことのない冷たい目をした夜天に言われたが、離すわけにはいかなかった。
そのまま盗賊達の方に手を伸ばし、盗賊達の動きを封じている闇の力を消し飛ばし叫ぶ。
「早く何処かに行って!死にたくないでしょ!もう夜天くんに関わらないで!」
必死にそう叫ぶと盗賊達は慌てて逃げ去っていった。
「くそっ、離せ!」
「駄目だって!きゃあぁ!?」
夜天が花音を振り払おうと腕を振り、バランスを崩した花音は地面に倒れこむ。
「痛っ!」
「あっ……」
倒れ方が悪かったのか、右足首に痛みが走る。
花音が思わず声を上げると、夜天が小さく声を上げたのが聞こえてきた。
彼の方を見ると、先程までの冷たい目ではなくなっていたが今度は何かに怯えているようにも見える光を失った虚ろな目をしていた。
「夜天くん?」
「お、俺、また……」
「夜天くん!」
足の痛みを堪えて立ち上がり、少し強めに声を掛ける。
そのことで夜天の目に光は戻ったが、視線を逸らされ目が合うことはなかった。

(なんか気まずいなぁ)
宝珠を取った帰り道、花音は横を歩く夜天の顔をチラリと見る。
表情こそいつもと変わらなかったが、視線だけはどこか遠くを見ていて声をかけられなかった。
森を出て飛竜に乗ってからも会話はないまま城についてしまい、城についたのが夜中だった為、夜天とはそのまま別れてしまった。
「はぁ……」
部屋まで戻ってきて溜め息をつく。
ベッドに横になっても疲れているはずなのになかなか眠ることが出来なくて、花音は静かに部屋を出た。
暗く静まりかえっている城の中を静かに歩く。
不気味に思える静けさも今は気にならなかった。
「……のか?」
「……でしょ?……わ」
中庭の近くに来た時、聞こえてきた声に足を止める。
(火焔くん?)
聞こえてきた一つの声が火焔のものだと気付き、相手が誰か気になって少し近付くと、そこにいるのが聖だとわかった。
(!?どうして、火焔くんと聖ちゃんが)
そう思っていると話が終わったのか、火焔が歩いてくる。
それを見て、花音は二人にばれないようにその場を立ち去った。
(結局、あんまり眠れなかった……)
夜天のことだけでなく、聖と密会のようなことをしていた火焔のことも気になってしまい眠れなかった花音は、少しでも眠気をさまそうと中庭に来ていた。
そこで先客がいるのに気付く。
「あれ?夜天くん?」
「……花音か」
「何処か行くの?」
夜天が片手に持っている花を見て聞くと、夜天は頷く。
「ああ。ちょうど今日なんだ」
「……私も一緒に行ってもいいかな?」
何が今日なのかはすぐに思い付いて花音が聞くと、夜天は少し考えてから頷いた。

「……ここだ」
飛竜に乗って三十分も経たないうちに着いたのは、眺めのいい丘だった。
そこに建っていた碑に夜天が近付き、花を置いて目を閉じる。
「これは?」
「……俺の暴走で犠牲になった人達の碑だ。……この下で眠っている奴は誰もいないけどな」
そこまで夜天は花音を振り返った。
「……悪かったな」
「えっ?」
「俺が無理に振り払ったから、足痛めたんだろ」
「だ、大丈夫だよ。このくらい」
「それに……」
言いながら夜天は顔を歪めた。
「恐い思いさせたよな。……あいつらに図星をつかれたからってまた暴走しそうになった。あの時みたいに。……人殺しって言われても仕方ないのにな。……恐かった、いや、恐いだろ?俺のこと」
「そんなことないよ!」
言いながら夜天が泣きそうに笑うのを見て、花音は咄嗟にそう言っていた。
「えっ!?」
「夜天くんは優しいよ。前に私が迷ってた時も気にかけてくれてたし、光輝のことだって……」
「でも……」
「それに夜天くんは忘れてないんでしょ。そして今も苦しんでる。……罪が消えることはないんだろうけど、夜天くんのことを人殺しだとは思わないよ。私にとっては、ううん、風夜達にとっても夜天くんは大切な仲間で友達、ただそれだけだよ」
「……お前も光輝と同じこと言うんだな」
「えっ?」
「光輝にも話した時、同じようなこと言われたんだ。……まぁ、その時はまだ全然割りきれてなかったから怒られもしたけどな。……さてと、そろそろ帰るか。朝食に遅れたら何か言われそうだからな」
「そうだね」
そう言うと、花音と夜天は再び飛竜に乗った。
二人が中庭に戻って来ると、そこには荷物を持った火焔がいた。
「何だ、二人で何処か行ってたのか?」
「ああ。ちょっとな。火焔、お前はどうしたんだ?」
「……火の国に戻ろうと思ってな。手紙にも書いてあったし。お前達は、次は雷の国へ行くんだろ?」
「うん。多分そうなると思う」
「そうか。夜天、お前はこのままついていくのか?」
火焔が夜天を見る。
「そのつもりだけどな」
「なら、雷牙によろしく言っといてくれ」
そう言い飛竜に飛び乗った火焔に花音は慌てて口を開いた。
「火焔くん!あのさ、夜……」
「……夜?」
「何かあったのか?」
首を傾げた火焔と聞こえた夜天の声に我に返って首を振る。
「な、何でもない。……気を付けてね」
「ああ。……そっちこそ、色々気を付けろよ」
そう言うと火焔は今度こそ行ってしまった。

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