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十五話

 圧倒的な力で白翼獅子を屠った雷竜扇は、気分が悪いといって足早に茂みへと進んだ。
 何故、あの強さを隠していたのか納得できなくて。たまらず追いかけると、涙を流す雷竜扇を見た。

「力なんて……いらないって思ってたはずなのに……!」

 見てはいけない物を見てしまった気がして、下がる。困惑。怒り。あれほどの才能をいらないと? それは才を持っているから言える事だ。
 俺は血反吐を吐いて訓練してきた。けれど、雷竜扇が薬師課程の勉強や執政課程……それに、神官課程の勉強をしていた事は知っていた。あいつの能力は雷で確定しているのに。
 頭がいいとはいえ、毎日狂ったように勉強していて。普段の付き合いも、将来を見越しての、仕事としての付き合いだと知っていた。
 そんなアイツの事を、否定できるだろうか。そう思う一方で、あの才に嫉妬する。
 俺には兎だってあんなふうに簡単に屠れないだろう。
 剣の冴えが全く違ったのだ。
 少しして、雷竜扇が戻ってきた。一人の男を伴って。
 優しげな顔立ち。おっとりとした雰囲気の、ゆったりとした服を着た男。だが、その足さばきを見て人目で達人と分かった。

「竜虎呼兄上。お願いします」

 竜虎呼。雷竜扇の兄が、何故ここに。
 竜虎呼は、しゃがみこんで剣鬼に手を差し伸べる。
 暖かな光が剣鬼を覆い、剣鬼の傷は綺麗に治っていた。
 なんて強い治癒力。
 雷竜扇は、どこか苦々しい様子でそれを見つめていた。
 ……ああ、雷竜扇も同じなのか。兄が、強い治癒の使い手で。一生懸命、僅かな希望に縋って薬師や神官の勉強をして。
 雷竜扇は、それでも兄の事を心から気遣っている様子だ。
 竜虎呼は、全員の傷を癒してくれた。

「お前、どうして死んだはずの兄貴がこんな所にいるんだよ」

「間違いだって行ったはずだけど。誰も信じないんだから。兄上は、僕が頼めばどこでも来てくれるよ」

「馬車を追いかけさせたのか?」

「……まあ、そうかな」

「お前、兄貴なんだから使用人みたいな真似するなよ。使用人にだってひどい扱いだぞ」

「問題ないよ」

 雷竜扇は竜虎呼に笑いかける。竜虎呼もにこりと笑った。
 紅弓蝶が、ぼんやりと竜虎呼を見ている。
 それはそうだろう。竜虎呼の笑みはとても優しそうで綺麗だった。
 それは、いつも追い詰められた様子の雷竜扇よりずっと癒しの術を行うのに相応しく。
 
「じゃあ、重蹄鹿の所に戻りましょうか」

「……待てよ。これを獲物として提出すればいいだろ? こっちの方が成績高いぜ。それと……ありがとうございました!! ご、ごめんなさい」

 剣鬼が潔く謝罪し、礼を言う。竜虎呼は、にこりと笑って、答えた。

「剣鬼兄上、うまうま」

「竜虎呼兄上、『剣鬼、どういたしまして』です」

 ……どうやら、考えることが苦手だという噂は本当らしい。
 さて、俺も礼を言わないと。治してもらわなければ、後遺症が残ったのかもしれないのだから。
 その後、全員で集合場所にのんびりと向かった。
 地獄絵図となっており、雷竜扇の剣と雷撃、竜虎呼の癒しが再度必要になったのだが。

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