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エピローグ

「美咲……俺はたった今、マゼランに決別を告げた。後はどこへなりと消えて、何も出来ないトモヤとして、生きていこうと思う。アトラ、それにお前を巻き込む事は出来ない。お前は向こうの世界で幸せに暮らして欲しい」
「つまり、逃げるんだな」
 クダが斬って捨てる。アトラと美咲は、俺の腕を持って睨みあっていた。
「トモヤ、私、トモヤにどこまでもついて行くよ。何にも出来ない事は慣れてる。ね、トモヤ。私と一緒にいっぱい子供を作ろう。子供達を、全員魔術師にしよう」
 アトラの提案に、俺は顔を顰めた。アトラの事は嫌いじゃない。しかし。
「嫌だよ。それだと束になったら俺より優秀なチームが出来ちゃうじゃないか」
「アトラはマゼランの事を全然わかってないね。自分が一番でいたいマゼランが弟子を取るわけないじゃない」
「余がいるぞ!」
「いるぞー」
 王子と王女が手を上げ、俺は呟いた。
「まあ、一人二人位ならいいけどな」
「じゃあ、その一人二人を作ろうよ! ね! こっちで育てるのでもあたしは構わない。成人したら向こうに送り出せばいいだけだから。あたし、ケントと共に魔王を倒してトモヤに相応しい女になってくるから」
「アトラ……そこまで、俺の事を……けど、俺は……」
「マゼラン、マゼランは私にずっと一緒だって言ってくれたよね。私の為に命を使ってくれたよね。マゼランは、ううんトモヤは、魔術を使ってこそトモヤだよ。魔術を持たないトモヤなんか、それこそトモヤじゃないよ。私はマゼランに、政府直属の魔術師になって、今度こそ栄光を手にして欲しい。私はそれを手伝うよ。また一緒に歩いていこう」
 美咲の説得に、俺は首を振る。
「俺はトモヤだ。もうお前のマゼランじゃないんだ」
 美咲は、笑んだ。
「マゼランは変わらないよ。努力家で、偏屈で、最高の魔術師だから、私は好きになったんだよ。それはずっと変わらない」
「美咲……」
 ミトの日記にあったマゼランへの想い。
 俺は美咲を憎んでいた。でも、今、自分の唯一を見つけてようやく認める事が出来た今、認めよう。
 俺を見ていてくれたのは美咲だけだったと。
「トモヤはもう、貴方とは何も関係が無いんだから!」
 アトラが美咲に言う。
「私はマゼランのパートナーで、トモヤの双子の妹だよ。それで、貴方はなんなの? トモヤの弟子ではないみたいだけれど?」
「……っ私は、私はトモヤの……トモヤは、陛下から私を助け出してくれたもん」
「だー、なんでトモヤがこんなにもてるんだよ。こんなに性格悪いのに!」
「安心しろクダ。こっちじゃ嫌われてる」
 本当に、なんで俺だったんだろうな。
 俺は誰にも何も与えないのに。魔王退治だって、俺は手伝うつもりはないのに。
「とにかく俺は、栄光なんて興味無い。俺が一番だって証拠さえここにあれば十分だ」
 俺は自分の胸を指し示す。
「まあ、バイトでもしてその日暮らしするさ。貧乏暮らしには慣れてる」
「それは無理だと思いますよ」
 ブール―が、そこで口を出した。
「なんでだ?」
「政府の護衛が無くてはここでも向こうでもすぐに浚われるからです。ニュースを見てないんですか?」
 俺は美咲の病室のテレビをつける。
 そこには、外務大臣と握手をする映像や異世界探索の様子が放映されていた。
 俺の姿もばっちり映っている。
[話は終わりましたか、トモヤさん]
[俺の姿がなんでテレビに!?]
[なんでって……言ってませんでしたか? あ、この国で働きたいとの事で、早速国家専属魔術師の職を作っておきました]
[言ってない! 俺はそんな職になんかつかない!]
[ご家族の護衛も怠りなく行うのでご安心ください]
 ……! 
[トモヤ、トモヤに言う事を聞かせようと色んな人が私を狙ってくるだろうけど、ちゃんと守ってね]
 美咲が抱きついた。
「――ゲートザ…………」
 呪文を唱えようとした俺の手を、握りつぶさんばかりにして美咲は笑った。
[私を見捨てるなんて言わないよね、トモヤ。それに、指名手配なら向こうでもされてるじゃない。もう、自分一人こそこそと安全な場所で才能を無駄にして過ごす事は出来ないんだよ]
 それが唯一の俺の生きがいなのに。俺の安息の地はどこだ。


[魔王にも人権はあるぞー]
[魔物の肉の工場はどうするつもりだー]
[魔物絶滅はんたーい!]
 デモ隊がなにやら騒いでいるのを、俺は冷たく見降ろした。そして、息を吸う。
[我は大魔道士マゼラン! 神々とキストラン帝国王子殿下バークレイ様の命により、今代の勇者ケント、魔法使いアトラを導き、魔王を倒す! 平和の為に!! 地球の人間は魔力を持たぬまっずい肉でも食ってろ]
 俺はいらない一言を最後に付け加え、人々の罵声を一身に浴びる。
「もう、トモヤったら……」
 アトラが苦笑して俺に寄り添った。ケントが、刀を掲げる。


『げっブール―!』
 呼ばれて新米外交官であり、日本政府の最終兵器であるブール―は顔を上げ、笑んだ。
『楽しい会談をしましょう、大使殿?』
 陰謀はその性質上、体が光ったりはしない。
 ブール―と会談を行う者は知らぬうちに心を見破られる恐怖と相対せねばならないのだ。
 ブール―は外交官を獲物を見る目で見ながら、ケント達に想いをはせた。今頃、出発した頃だろうか?


「――ゲートザゲート」
 予想した通り、アトラに強化された巨大な扉は魔王の本拠地に開いた。
 王子が、興味深げにその辺を見まわしてから、号令をした。
[ゆけいっケント!]
 自衛隊が扉の中に進軍していく。ケントとアトラはそれについて行く。梅雨払いは自衛隊がしてくれる。ケントとアトラは、魔王を倒す事だけ考えればいい。
 竜を見つけ、自衛官達が眼の色を変えた。
 自衛隊の護衛する学者集団の中には、動物学者や養殖業者、料理人が混じっている。
 彼らも眼の色を変え、小さな魔物を追いかけ始めた。些細な傷など気にしない。
 今は、目の前の御馳走を平らげる事で頭がいっぱいだから。


[さあ、世紀の料理対決! 軍配はどちらに上がるのかー!]
「神に勝つぞ!」
「「「「「オー!!」」」」」
 日本、中国、イタリア、フランス、インドの五国の天才コック達が拳を振り上げる。
 料理長は一人、包丁を吟味し、にやりと笑った。
 あるテレビ番組で企画された料理対決。天才コック達と、料理に極振りしたコックとの対決。それは、天才コック達にとって正しく神への反逆だった。
 奇跡を起こすべく、地球産の才能を見せ付けるべく、コック達は戦う。
 料理長にも、負けられない理由はあった。
 魔王を倒した祝勝会には、勝った方の料理がふるまわれる。
 勇者とアトラに、そしてトモヤに、最高の料理を。


俺は自衛隊を見送った。次々と囚われた魔物が運ばれてくる。
扉が、襲撃される。自衛隊が俺の盾となる。俺が死ねば扉は永遠に失われるから。
魔物が放つレーザーのような物が閃き、俺は自衛官の人に突き飛ばされた。閃光。
銃声。
「くそっ腕がやられた!」
「ロケットランチャーを持ってこい!」
 王子が、不安そうに俺の服の裾を掴んだ。
 ケント、そう長くは持たないぞ。早く戻ってこい。


 クダは神主の服装をして赤子を抱き、神に祈る。
「キュロス様、この子にポイントを」
 クダは白い空間にまたたく間に移動した。
 キュロスが現れ、ため息をつく。
「やれやれ、またですか。確かに一日一回呼びかけに答えると言いましたが、こう毎日は……。申請の手続きも面倒なのですよ。それで、この子に与えられた才能ですが、全て奪う事になりますが構いませんか。見た所、絵の才能が高いようですが」
「両方よこせだそうだ」
「我儘ですねぇ。申請は却下します」
「だよなぁ。祈りに答えてくれてサンキュな」
 クダは子供を親に帰すと、諭す。
[この子は素晴らしい絵の才能を持っているので奪うのは忍びないそうです。申請は却下されました]
[そんな! そこを両方! なんとかなりませんか、生まれる前から予約してたのに]
[才能かポイント、どちらかしか選べないと言っていたはずです。神に無理を言って、両方の才能を奪われても知りませんよ。才能があるのがわかっただけ、喜んであげて下さい]
 親を何とか納得させ、返す。トモヤの呪文の予約も溜まっている。トモヤが帰ったら、さぞ驚くだろう。クダはトモヤを想い、空を見上げた。


 歓声が起きる。
 ついに魔王を倒したのか。
「ケント……」
 俺は駆ける。
 笑顔の自衛官が、トラックを持ってこいといった。
 竜の巨体がその後ろにあり、俺は座り込む。
[なんだ、竜か……]
[竜かじゃないですよ。竜を売ったお金は防衛省に入る予定になっているんです。この巨体、魔王退治で高騰する値段を考えたら一兆はいける!]
[それはそうだけど……無事かなぁ、ケント達]
[無事に決まっている。余の部下なのだから!]


 ケントは剣を振るう。高い金属音。
 魔王はさすがに硬かった。やはり、剣術八千ポイントでは低すぎる。一万ポイント必要だった。ケントは子供の頃、人語理解にパラメーターを振ってしまった事に後悔する。
 あれは究極の無駄振りだった。人語など、誰でも育つうちに習得するのだから。
 しかし、赤子の頃の事を言っても仕方ない。
 彼の主が首を長くして魔王を倒すのを待っている。
 それに、早くしないとトモヤが魔物の餌になってしまうかもしれない。
 ケントは剣を握り直した。

 
 悲鳴。まさか、ケントが。俺が顔を上げると、はるか遠くから魔王を倒した、というケントの声が聞こえた。
[ああ、もう竜肉が食べられないのか……]
 悲嘆にくれる人々。そこに、一人の料理人の歓喜の叫びが響き渡った。
[魔王は……うーまーいーぞー! 竜肉以上だ!]
 食ったのかよ!! ちょっと待てそこの料理人!
 あがる歓声。
[いや、魔王はちょっと]
[なんだよ、俺は食うぞ]
[わー、俺らだけで食おーぜ―]
[駄目だ、売って新しい戦闘機を買うんだ!]
[貧乏って悲しいっすね、先輩……]
 俺はため息をついてそれを見守る。
 ケントがアトラに支えられて現れ、駆け寄った。
「トモヤ、バーク様……やった、やったよ!」
「ああ、お前達は俺の誇りだよ」
「ケント、アトラ、褒めてつかわす!」


『ミスターアトル。この方は大切な方なのです。この方の手腕により、戦争が防げる可能性が高くなるのです。どうか、回復を』
『わかっています』
アトルは呪文を唱える。包帯でミイラのお化けのようになってしまった要人に向かって。
 魔法陣が光り輝き、傷が癒えていく。要人は起き上り、頭を押さえた。
『ここは……』
『貴方の傷は癒しました。今日は扉の開通日なので、僕はこれで失礼します』
 アトルは走った。まだ魔王との戦いは続いているのだろうか。
 いた。
 ケントだ、無事だ。アトルは口の中で呪文を唱えた。


[アンティセルト王女殿下、魔王退治成功と五歳のお誕生日おめでとうございます!]
[アンティセルト王女殿下はパラメーターはいかがなさいますか?]
[アンティセルト王女!]
 着飾り、ブールーにエスコートされた小さな王女様は笑って答えた。
「私はもう使うパラメーターを決めてあります。それは……」


「――アースザゲート」
「ケント! バークレイ王子殿下。どうしたのですか、そのぼろぼろの服は」
「最高司祭様……キュロス様の奴……。まあ、いいか。最高司祭様、魔王を倒しました」
 俺が言うと、最高司祭様は眼を見開いた。
「魔王を!? それは確かですか!」
「あらかたの強い魔物は狩りましたので、確認しに闇武官を向かわせてはいかがですか」
 アトラが言うと、最高司祭様はじりじりと後ずさる。
「パレードだ……! パレードの準備を!」
「え、そんな……あ、行っちゃった」
「二人で楽しめよ、アトラ、ケント、バーク様。俺はここで見てるから」
「バーク様とトモヤも一緒に……」
「ここで見守っていたいんだ。お前達の雄姿を」
「余もここで見ているぞ。余は命じただけだからな」
「トモヤ……ああ、行ってくる」
 ケントが、アトラの肩を抱いて向かった。


[……こうして、勇者マゼランと従者ミトは魔王を倒したのです。だからみんな、極振りって大事なんだよ。わかった?]
[[[[[はーい]]]]]
 美咲は子供達に祝勝会の様子を見せる。
[明後日、勇者様達が帰ってくるから、そしたら皆に会わせてあげる]
 子供達……向こうの世界から引き取ってきた性格の悪そうな……トモヤと精神融合した子供達に、美咲は笑いかける。彼らはCチーム。美咲の担当の、愛しいマゼランの分身たち。
 その周囲には科学者達が、カルテを持って立っていた。
 顔には笑顔を張り付け、冷静な眼差しで子供達を見つめながら。
 パラメーターの細かな数値を聞いてはいけない? 科学者達に、そんなルールは関係ない。パラメーターという不可思議な機能の解明を。そして日本に、優秀な人材を。
 魔術のパラメーターはこちらでは役に立たずとも、他のパラメーターは役立てる事が出来るのだから。


 ケントとアトラが煌びやかな服を着て武官や文官に傅かれ、大きな馬車に引かれて手を振っていた。
 それを俺は眩しいものを見る目で見つめる。
 こんなはずじゃなかった。けれど、俺の子供達、弟子達はこんなにも立派に育ち、輝いている。
 これが、幸せというものなのだろう。
 アトラが俺に気づき、いっそう激しく手を振る。俺は苦笑をしながら手を振り返した。
 二人の姿が見えなくなり、俺は手を振るのをやめた。
 アトルに、王子と一緒にお菓子を買いに行かせる。
 子供達、弟子達はこんなにも立派に育ち、俺を超えてしまった。
 魔術知識では俺が一番だけど、そんなものは関係ないと思わせる何かが子供達、弟子達にはあった。
 俺がパラメーターを封じた子達は何人もいる。その子達は、一人ぐらい特殊呪文を覚える者もいるだろう。この世界との橋渡しは、そいつらに任せる。
 俺は、俺の一番になれる世界で、今度こそひっそりと過ごそう。それが俺の幸せだ。
「――ゲートザゲート」
 俺はわかりやすい場所にありったけの魔力を込めて扉を出現させる。
 通じたのは、新宿駅の前。人々が、興味深げに扉を覗いてくる。
 ここからならケントもアトラも無事に帰れるだろう。
 戻るかどうかはお前達が決めるがいい、ケント、アトラ。
 そして俺はもう一つ扉を開ける。更なる異世界への扉を。
「――ゲートザゲート」
 いっぱいの幸せなるものを抱きしめて、俺は平安を手にする為に、波乱の世界へと飛び込む。
 小さな影が、目に入った。
「バーク様!?」
「余も連れて行け、トモヤ」
「だって……アンティ様はいいのか!?」
「アンティは知っておる。そなたと精神融合していたのだぞ。その上で余を送り出したのだ。アンティセルトは強い女だ」
 王子は胸を張った。
「回復役がいて、損はないでしょ。僕ならどこでも必要とされるし」
 アトルが笑った。
「どこでも狙われるの間違いだろ、どうするんだよ」
「まあまあ、もし何かあったらゲートザゲートで逃げればいいだけの話じゃない。マジックポーションは持ってきてあるんでしょ」
「まぁな。でも、ダーツを放つのがキュロスだぞ。意地の悪い場所に投げるに決まってる」
 俺が言うと、白い空間に入って小さな少年……キュロスが殿下と呼んでいた者が現れた。
「心配無いぞ。キュロスは忙しいから、余が投げる」
「げっ」
 殿下は小さな紅葉のような手で目隠しをし、ダーツを投げる。
「まっ……」
 俺が止める間もなく、殿下はダーツを投げる。ダーツは星々の間をすり抜け、どこまでも深い暗闇に落ちていった。
「マゼランよ! そなたの行き先が決まったぞ」
「どう見ても外れてるんだが」
「うむ! そなたの行き先は、地獄だ!」
「何―!! ちょっと待て殿下!」
 俺とアトルと王子は、真っ暗闇に投げ出された。
 空中に出た扉から、俺とアトルと王子は順番に投げ出される。
 そこでは、蝙蝠の羽をはやした赤子を庇った、狼の頭をした傷だらけの男が化け物に囲まれて立ち往生していた。
「――ラグルピース」
『なに、傷が癒えてゆく!? これはもしや伝説の、神々が使うという技! そなたらは一体……いや、誰でもいい。頼む。この方はこの国の第一王女。どうか助けてくれ』
 おお、念話のようなものか?
「魔力はある世界のようだな。問題ない範囲か。とりあえず、移動する。――アウェイザゲート」


 トモヤが消えてから十年が立とうとしていた。
 誰もが、トモヤの事は諦めろという。そして、子供達に特殊呪文に極振りさせる事に躍起になっている。けれども、アトラと美咲とアンティセルト、彼女ら三人は信じていた。己が半身達の帰還を。
 確信がある。彼らが死ねば、必ずわかる。それほどに絆は深い。
 今、彼らは元気なはずだ。そして三人は夢を見る。太陽も昇らぬ暗黒の国の冒険譚を。
「アンティセルト王女殿下、アトラ! 非常警報です! 某国がミサイルを発射してきました、ご出動を」
「――パラドルグ」
 アトラの放つ単体強化呪文がアンティセルトを強化し。
「――ラーズロートバズン」
 アンティセルトが広範囲防御呪文を唱える。
 それは上空を広く広く包み、ミサイルを遮断した。既に神の域でしかあり得ない、その魔術。
 マジックポーションは残りわずかだ。魔術を参考にしたバリアの開発が急がれている。
 バリア開発の主力はもちろん、バリア作成技術に極振りしたCチームの子供達だ。
 日本はアンティセルトのお陰で、日本本国にミサイルを撃ち込まれても問題にしないようになった。安全保障的に、頭の痛い事だとアンティセルトは思う。
 アンティセルトは政治家になる予定だ。
 この国を守りたいと思って覚えた防御呪文だが、上手く守りすぎて出来てしまった平和ボケを何とかしたいのだ。
 防御呪文以外何もないアンティセルトだが、周囲はそこを努力してなんとかするのが地球人で、アンティセルトは地球人だと言ってくれている。
 一つ息をついて、アンティセルトは言う。
「兄様は元気にしてるかの……」


 トモヤは、王族御用達のお茶を飲んでのんびりとしていた。アトルは治療に出かけている。ここにいるのは二人きり。ようやく手に入れた平穏。トモヤは知らない。トモヤの影に、常に魔族の護衛兼監視が張り付いている事を。
「なぁ、バーク様。そろそろ教えてくれたっていいだろう。何にパラメーターを振ったのか」
 王子は、苦笑する。
「実は余は、まだ振っていないのだ。これから振ろうと思っているのだが、優柔不断でな」
 そして、王子は振りむいて言った。
「だから、そなたが決めてくれ。余が生まれてから、ずっと見守ってきてくれたそなたが。余は、それに応えよう」

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