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一話

 天空に浮かぶ島々、「宿り木」。
 その中央にある一際大きな島とそこに佇む巨大な城で、様々な種族が会議をしていた。

「一体、どうすれば……」
「しかし、あの術は……」

 困惑し、囁き合う人々。
 今、宿り木では大きな問題が持ち上がっていた。
 資源枯渇問題と耐用年数問題である。
 これは五千年前、聖女ラーグが提唱していたことだ。
 正確には、寿命的に研究が間に合わないから、耐用年数が来る前に対策を見付け出してね☆ と言う事である。
 そして、それはできなかった。
 五千年の間に、凄まじい速度で文明は発達したが、その根底にあったのは聖女ラーグの魔法学と言っていい。
 しかし、その聖女ラーグも、もう命を落としている。五千年も前に。
 これでは、魔力炉の耐久度問題をどうしろというのか。乱立した魔力炉は、暴走すれば多大な悲劇を生むだろう。
 更に、資源の枯渇もまた問題だ。文明が停止・大幅な後退をしてしまう。
 学者達が叩き出した、対策が間に合う最低ラインが今だった。これより後だと、対策方法が見つかっても、対応が間に合わない。
 方法はあった。時を遡り、聖女ラーグを招くこと。もしくは、その時代に技術者が行き、技術を習得・解決策を考えること。
 しかし、時を遡る方法についても、聖女ラーグは言及していた。
 
 ――タイムパラドックス。
 
 聖女をさらえば、文明が退行するのではないか?
 いや、そもそも聖女ラーグは優秀過ぎる。それは未来人がタイムトリップした結果なのでは?
 いつまでもめぐる話し合い。
 しかし、結論は本当は出ている。時の呪文を使うか、文明を諦めるか。
 受け入れたくなくて、話し合いはめぐる。
 その時、精霊が会議場に出現した。
 しかも、時の精霊である。
 各種族の長達は、さっと礼をした。

「お見苦しい所をお見せしてすまない、時の精霊よ」

 天使族を統括する皇帝、シュナーベルが礼をする。

「手詰まりのようだな。ここで、一つ教えてやろう。現時点で、時の旅は行われていない。つまり、未来人はこの発展になんら貢献していない。そして、褒めてやろう。お前たちは、私達を頼らなかった。我が友ラーグの精霊を頼ってはならないという教えをよく守っている証拠だ。で、あるからして、私も安心して手を貸せる」
「時の精霊……? しかし」
「もちろん、人は自分の行いの責任を自分で取るべきだ。だが、私は失いたくないのだよ。友、ラーグの系譜を。君達がラーグの精神を受け継ぐ限り、ね。これは私の我儘として受け取るがいい。……彼のお方も、それを望んでおられる」

 時の精霊が振り返る。顕現する精霊達。そして、精霊がざっと膝まずき、長達、そして皇帝シュナーベルも最高礼を示す。
 神の顕現である。

『タイム・パラドックスは起きません。その時点で世界は分かたれる』
『けれど、分かたれた世界を踏み台にする事を、私は許しません。分かたれた世界もまた、正しく発展せねばなりません』
『そして、与えるチャンスも一度だけ』
『肝に命じなさい。貴方達が出会うのは、偉人となる可能性を持つ者。更なる高みへ辿りつけるかもしれない。凡人として終えるかもしれない。その運命は、容易く変わってしまうでしょう』
『選ばれし者をその時代へ飛ばしましょう。あの子があの子たる最も大事な時期を通過した後に。あの子が栄光にたどり着く様を見守り、導き、さらなる高みへ登らせるのです。ただし、注意しなさい。答えを教えることは導くことではありません。それは試行錯誤という確固たる土台を奪い、失敗に寄る成功という未来を捨て、思考の硬化をさせるでしょう。一週間後、大神殿に道を開きます。お行きなさい。そして、未来人の矜持を今度こそ示すのです。貴方達は、あの子の宿題を五千年も解けなかったのですから』

 神と精霊達が立った後、議会は驚くほど素早く進んだ。
 精霊とも話し合い、向こうの世界からの搾取目的でないなら、また、安定した状況下なら、追加の人員を送ってもいいこととなり、初期は長命種を選ぶこととなった。
 叡智を持つと言われ、ラーグの末裔とされる天使族の皇帝シュナーベル。
 強大な力を持つ、竜族の騎士、ファング。
 天使族の歴史家、リコルド。
 天使族の技術者、マーゴ。
 彼らが選ばれ、時を超えることとなったのである。
 彼らは知らない。
 神と精霊が、荘厳な顔の裏側で大爆笑して、にょにょして反応を伺うつもりであることを。知らないのだ。











 ついに! 俺は! 空を飛んだ!
 ゆったりと旋回して地上に降り立つと、皆が祝福してくれた。

「ハニー、君を祝福させてくれ」
「もちろんだ、ダーリン」
「しかし、才能とは残酷ですね。一回で発案者のラーグよりも遙かに上手く飛んでみせるとは」

 俺とセルウィの喜びに、クレイドルが水を差す。

「技術改良できる者は多いが、一から思いつけるものは少ない。君は立派だよ、ラーグ」

 俺とセルウィの視線の先には、空中戦をするシュナーベル達がいた。
 あんまり不自然なので、出来ないふりもいい加減にしろよ、とぶちきれた結果がこれだ。
 つーかあれ、おかしい。あれというより、あいつらがおかしい。
 あんまり不自然なので、ちょっと探りに食事に誘うことにした。セルウィも心配して護衛とともに同席してくれるという。持つべきものは友だ。
 そして、料理が並べられた時。俺は口を開いた。

「お前ら、未来人なのか?」
「げほげほげほげほっ」
「ぐ、ぐほっ」
「げげっ」
「ほほう……。さすがはラーグ様」

 え、図星? 何それ怖い。
 って、ふざけている場合じゃないか。うーん。

「時を操る呪文は普通禁呪とされると思うんだが……。何か事件でもあったのか、お前ら犯罪者なのか? どっちにしろ、俺はそれなりに重要人物になるらしいな」
「未来人とはなんだ?」
「その名の通り、未来から時を遡ってきた人達の事だ」

 セルウィの質問に答えると、セルウィは興味深げに四人を見た。

「何年先なんだ?」
「五千年でございます、ラーグ様。貴方様が残した宿題が解決できず、我らの世界は未曾有の危機に陥っています。それゆえ、宿題を出した当人に答えを聞きに来たのです」

 俺とセルウィは大いに驚いた。
 マーゴが冊子を取り出し、俺はそれをパラ見した。
 言語とか異世界の言葉と日本語が混在していて更に時の流れが追加されているらしく、言語が物凄く解り難い。でもなんか原子炉っぽい? 魔力だから魔力炉か。

「これ、一度稼働したら止められないんじゃないか? 問題のある廃棄物が出るとか」
「ま、まさか既に構想を練られていたのですか!? そうなのです。もう耐久性が限界なのです。安全に新しいものと差し替えることが出来なければ、それに資源の枯渇問題も……!」

 マーゴが勢いこんで問う。
 おお、すげーな未来の俺。原子炉もどきを作ったのか。

「リサイクル技術は進んでいるのか?」
「リサイクル?」
「一度使ったものを加工して資源に戻して、また加工して使うことだ。他にも、新しい資源を発見したり、作り出すことが必要だな。資源は消費されるもの。資源の保存や、新しく作る事、新しい種類の資源を発見・それを利用できるように技術を育てることはしているか?」
「資源に再加工……なるほど。ですが、試せることは全て試しました。私達にはもはや待つ時間はないのです」
「おいおい……」

 まあ、確かに現代でも、ちゃんと後始末する技術がないのに原子炉使ってるしな。しかし、散々利益を得ていて、先祖に後始末をお願いする子孫って……。課題を子孫に丸投げする先祖も先祖だけどさあ。

「俺が生涯かけても、お前らが五千年掛けても、それでも解決できなかった問題だろ? 今の無知な俺にどうしろっていうんだよ。そもそも、お前ら何者だ」
「これはこれは申し遅れました。私は天使族のマーゴと申します。ドワーフ族には負けますが、技術者としてそれなりに名を残しております」
「竜族の騎士、ファングだ」
「天使族の歴史家、リカルドです」
「天使族の皇帝で、賢帝セルウィと聖女ラーグの子孫……と言われている。まあ、こちらにきて私のルーツが木っ端微塵となったわけだが……。私の祖先がどちらか一方だけのもの、あるいは両方関係ない、あるいは二人のそれぞれの子供が結ばれた、という線はあるが」
「ダーリン! 俺達の子よ! いや、さすがに性転換技術に興味はないかなぁ。それぞれの子供が結ばれた、って線が濃厚じゃないか? 後は養子とか」
「ハニー、君の魅力に驚きを通り越して困惑気味だよ。……話を総合すると、少なくとも私とラーグの名が五千年残るということか。ホモ疑惑ごと。天使族とか竜族、ドワーフ族とは一体?」
「作ったんだろ? 俺が。確かにそういうのがいたら楽しいとは思っていたし。ってことは、化けてるってことか? 真の姿が見たい」

 ちなみにここは俺の部屋なので、化け物が現れても騒ぎになることはない。俺の言葉に、頷いた四人は、見目麗しい天使と竜人に変わった。
 竜人も鱗が輝いて美しいが、何より天使だ。
 ふわりと巻き上がる羽毛は美しく、まるで神話のようだ。
 スタンディングオベーションをする俺。さすがにセルウィも目を点にして、護衛たちは腰を抜かしたり剣を手にかけたりしている。

「恐ろしいな……」
「格好良いじゃん! そうだよ、折角生まれ変わったんだからそれぐらいの役得はな!」
「なんと……つまり、私達は作られた生き物、と言うことですか……? ラーグ様、貴方様は一体……」
「今の俺に聞かれてもなぁ。どうやったのかさっぱりだな。とにかく、そちらの話は分かった。そちらが持つ技術と、俺が今後開発した技術の交換ということでどうだ? ただし俺は好き勝手やる。俺が本当に優れた学者になるって言うなら、それでも破格の条件だろ?」
「……わかりました」

 そして、俺達は握手した。
 後、翼と鱗に触る権もついでに貰った。
 でもどうしよう。現時点だと、こいつら作るのに人の遺伝子と動物の遺伝子混ぜるしか思いつかない。
 それってすっげー禁呪じゃね?

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