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この世への復讐【完結】

五月雨が投身自殺を図った瞬間を見た幽鬼と吉井そして鬼塚は言葉を失い呆然と立ち尽くしていた。そんな様子を見ていた耐えかねた饗庭が声をかけた。

「僕がいてこんな結果になって申し訳ない。止めることが出来ず悔しい。」

饗庭の謝罪に、幽鬼はそっと話しかけた。

「こればかりはしょうがない。誰も止められなかった。たとえ五月雨に自殺の意思がなくとも、怨霊と化した樹を遭遇させてはいけなかった。もっぱら彼女を一人にしてしまった俺の判断が間違っていた。悪いのは俺だ。饗庭さんが謝る必要はない。」

幽鬼の話を聞き、鬼塚が話しかけた。

「幽鬼が謝ることはない。俺に霊媒師としての、いや除霊能力があれば、五月雨に憑いていた樹の呪いを取り払うことが出来た。ここで誰が犯人だとか言い合っても、無駄だ。そんなことをしているうちに、俺たちは樹の仕掛けたトラップにはまってしまう。」と語ると吉井は「五月雨の死が樹のトラップだというのなら、孫の饗庭さんはどうなるんだ?いくら面識はないと言っても孫まで襲ってくるか?爺ちゃんだよ?」と聞くと、饗庭から意外な答えが返ってきた。

「ここに来てしまっている以上、身内だろうが関係はないって事だろう。ここは自殺の名所で樹の御霊だけが眠っているわけじゃない、仲間を増やそうとして集合体で寄り集まって襲って取り憑いた可能性だって考えられるんだ。無論俺だって憑かれてしまう危険性は十分にあるんだ。孫だろうが関係はない。」

そう話すと、「幽鬼さんや鬼塚さん、吉井さんは帰っていただいて結構です。後は僕が説明します。」と気遣うが、幽鬼は「俺も、鬼塚も吉井も残って説明します。」と話すと、幽鬼は鬼塚と吉井の表情を伺うと二人は口を揃えて「いいよ。」と返事をしたのを見て、饗庭は「ありがとう。」と言って答えた。

再び警察が来るまでの間、鬼塚はある質問を饗庭にした。

「警官の割には、霊の存在を信じているって珍しいですね。」

鬼塚の何気ない質問に饗庭は答えた。

「うちは代々、霊感が強いんだよ。多分、恐らく望月の家系の血筋だろうと思う。だから事件現場なんかに行ったときに、中には死んだことすら理解できず昇天されたのか御霊だけが部屋中を彷徨っているのを見かけたりする。僕は目には見えない存在はこの世の中には存在していると思っている。」

饗庭の答えに鬼塚は「なかなかだね。例えば人が死ぬ前に、死期が近付いている人ほど魂が幽体離脱をしているのが見えるというのが、霊感が強い人ほどわかるというのはあるが、そういうのって見えたりするのか?」と聞くと、饗庭は「そうだな、もうじき死ぬだろうなあという人は写真を見ただけでもわかる。魂が抜けて生気がないのを見たら大体ね。」と答えると、幽鬼が思わず発言をした。

「それって僕よりも、相当強い霊能力を持っているってことだよ。」

そう話しているうちに一度撤退をしていたパトカーが再度やってきた。

「饗庭、まだいたのか?」

その問いに「ええ。事情聴取のために残っていました。」と話すと、「一人警官がいて、自殺の現場を見届けるってどういうことだ!?」と叱責され、「すみません。引き留めようとしましたが、一瞬で止められませんでした。」と言って謝罪をした。

幽鬼と鬼塚と吉井が、警察から再び事情聴取を受ける中、幽鬼にある電話がかかってきた。電話の相手は宅間だった。

「幽鬼、ゆっくり休んでいるか?16日に収録した七ツ釜の事なんだけど、次の”禁断の地へようこそ”の番組収録が21日になるんだけど、その際に16日にロケ収録した七ツ釜を取り上げようと思って、編集の作業をしていたら不自然なシーンがあった。」

幽鬼がその話を聞くと、「それって一体何なんですか?」と質問した。

宅間は「YouTubeやTikTok、ニコニコ動画で動画はアップロードはされているから検索をして見たらわかるだろう。幽鬼の背後にあり得ないのが写っている。取り憑かれているかもしれない。早々に御祓いを受けるべきだ。」と答えた。

幽鬼は宅間から聞くとこの目で確認をしなければ気が済まなくなり、「わかりました。ご指摘ありがとうございました。」といって電話を切った後、YouTubeであげられている動画を検索し動画を見てみることにした。

すると、七ツ釜を背に映る幽鬼の背後に、立っていたらおかしい人のようなものが映りだされていた。幽鬼は気になり、さらに再生を一時停止した後、その人がいったい何者かをズームでアップできないかと思いアップをしたところ、段々とその人の正体がつかめてきた。

「これは・・・幽幽がアップロードをした動画に映っていた樹に似ている。まさか樹の御霊が映し出されたのだろうか。」

動画を見て思わず身震いをしてしまった。

まさか、俺に憑いていた樹の呪いが、五月雨に伝染してしまったのか。

しかし気が付いたときにはもうすでに手遅れだった。

幽鬼が振り返り、海を眺めた時だった。

複数の手が幽鬼の足首を掴み始めると引きずり込まれるように海へと引っ張られていく。あっという間だったので、悲鳴を上げることも出来ず、幽鬼は落ちてしまった。

吉井が鬼塚に「幽鬼がスマートフォンを置いた状態でいなくなった!」というと、幽鬼のスマートフォンが置かれた場所にまで近づき海を見ると、ハッとなって吉井の元へと近付いた。

「幽鬼が海に浮いている。」

そう話すと吉井が我が目で確認をしようと思い近付くと、思わず腰が上がらなくなりしゃがみ込むような形で絶句してしまった。

気が付いた饗庭が何事かと思い、近付くと声を上げた。

「吉井さん!逃げてください!樹が近付いて来ています!」

饗庭に言われ、吉井は立ち上がろうとしたその瞬間だった。

吉井の前に顔面の左側が陥没骨折をした形跡のあるあの何者かが岩壁を這い上がってきた。鋭い目線で睨み付けると同時に左足首を掴まれ、一瞬で海へ落ちてしまった。

鬼塚が「饗庭さん、大変です!この場にいる警官も退散させたほうがいい!」というとその場にいた他の3名の警官が「どうした!いったい何事だ!?」と駆けつけてきたが、饗庭は鬼塚に「樹の呪いの伝染が起きている。これ以上この場にいたら危険だ。」と話しているうちに、近付いて状況を確認した3名の警官も樹の犠牲者になった。樹を中心に取り囲む複数に伸びる白い腕が無数にも海から伸びてくるとあっという間に3名の警官は海に引きずられ、助ける余地はなかった。鬼塚と饗庭は一目散に七ツ釜を後にし、駐車場へと戻ってきた。

鬼塚は「今さっきの出来事をどう説明するんだ?」と饗庭に聞くが、「正直に話しても、俺達が見た事は信じてはもらえない。不注意で海に落ちた、水難事故として扱われるだろう。」と答えた。

鬼塚は「俺と饗庭さんだけが生き残ったのはどうしてだろう?俺たちのほうが霊能力もあるわけだから狙われて当然なはずなのにどうして俺達を狙ってこない?」と話し始めたが、饗庭は「樹はあえて狙ってこなかったのかもしれない。もうすでに自殺の名所として知られているこの場だからこそ生者のエネルギーを大量に吸収して蓄えを持っているのだから、俺たちのような強いエネルギーを持つ人間を必要としないということだろう。裕の時を思い出すよ。」と語った。

鬼塚は「裕の時って一体何なんですか?」と聞くと、饗庭は答えた。

「昨年、フェニックス・マテリアルの社員で新人社員だった如月優光という若者が、あのYouTubeで幽幽というアカウントで染澤潤一郎や望月裕、望月樹の生前の姿を映し出した8mmフィルムの動画をアップロードをした人物だよ。その如月という人物がかつて裕が自害した観音の滝にTikTokでライブ配信をした状態で投身自殺したんだ。その後を追うように彼の上司だった秋池靖、稲見由紀子が相次いで観音の滝で自殺をすると、同期の徳川航星が同じ場所で自殺をすると、その後輩だった加藤優磨も後を追うような形で自殺した。皆、観音の滝の滝面に勢いよくダイブをするような形でね、同じことだよ。裕による呪いの伝染が起きたんだ。」

饗庭の話を聞いた鬼塚は絶句して言葉を失った。

饗庭が鬼塚の様子を伺いながらゆっくりと解説をする。

「あの観音の滝はね、”観音の滝”という名称を傷つけないために、明らかな自殺であっても水難事故として扱われた。しかし、幽幽が自殺を遂げる様子をアップロードをしたのもあって、幽幽のファンだった人々が集い始めると、後追い自殺が立て続けに起こったんだ。さすがに行政として見過ごせないと見て、自殺対策のブルーライトや看板なども立てたが、効果はゼロだった。後追いもあった、だけど同時に裕が明らかに引きずり込み水難事故として扱われたケースもあった。警官も犠牲になった。裕が自決をした観音の滝も危険だが、最も危険な場所はほかにある。」と話した。

鬼塚がはっと我に返り、「まさか、潤一郎ですか?」と聞くと、饗庭は「その通りだ。俺の親父は潤一郎の餌食になってしまった。裕もそして樹も自殺の名所でリーダーシップを発揮できるのだから相当強い負のパワーを持っているし、それこそ集団になって襲い掛かることも出来る。危険なのは間違いない。だが潤一郎の危険度は桁違いだ。たとえ霊能力者が行ったとしても犠牲になるのは間違いない。あそこを立入禁止区域にするのには判断が遅すぎた。あの旧染澤邸には、科学では、いや物証では説明の示しがつかないことが立て続けに起きているのだからね。潤一郎の邪悪に満ちた御霊を地下の閉ざされた部屋に封印したと言われているが、あの部屋は悪魔崇拝に関する本が沢山並んであったことから、潤一郎の御霊を封印するためにではない、潤一郎が悪魔崇拝にのめり込むためにあの部屋は作られたんだ。そして潤一郎の死後、母のセツが潤一郎の御霊をあの部屋に封印し閉じ込めたんだ。それで益々潤一郎に宿る悪のパワーが更に強くなり、凶悪さが増してきた。もう誰が御祓いを行っても効果は皆無に等しいだろう。潤一郎は完全に悪魔だ。憑かれたらおしまいだ。」


饗庭の話を聞き、「これから先、俺たちどうなるんだ?」と聞くと、饗庭は「俺たちは俺たちの出来ることをしていくしかない。そのためにも、福冨克哉が遺した8mmフィルムの行方を虹の松原で必死になって探さなければいけない。隠した金庫には、闇に葬られた真実が眠っている。そこに潤一郎の事件の真相も、裕の事件のこともあるだろう。福冨は福冨なりに出来ることを、やってくれたんだ。福冨が伝えたかったことは何か?それを探り、真実をこの世に伝えなければいけない。」と答えた。

鬼塚は「それをしても、刑法で裁くことはできないんだよね?」と聞くと、饗庭は「ごもっとも。民法で裁くにしても、どの会社がやったのかが定かでない以上、今の俺達が出来るのは、事実を公にすることだ。きっと生前の幽幽はあの動画をアップロードをしたのには理由がある。それは恐らく、隠された真実によりクローズアップをしてほしいと世の中に訴えているのかもしれない。その結果、裕に憑かれた。霊能力のある俺達がタッグを組むことで、より事の真相を追求することに専念しなければならない。」と語りだした。

鬼塚は饗庭の言葉を受け、じっくりと考えた。

親友だった五月雨や幽鬼、そして吉井の死を目の当たりにして自分のできることは何か。それは饗庭の言うとおりに従うことこそが、樹の犠牲になった五月雨や幽鬼、そして吉井の弔いになるのなら、饗庭と組むしかなかった。

「饗庭さん、俺たちは改めて同志になりましたね。僕は樹によって仲間を呪い殺された、饗庭さんだってお父さんが潤一郎の犠牲になった。呪いが新たな呪いを産むとはこのことを言うんですね。恨んでもどうしようもないことですが、彼らの怨みの念を鎮めることに僕たちは専念するしかありませんね。」

鬼塚がそう話すと、饗庭は「辛いのは俺だって同じことだ。」と話すとそっと鬼塚を抱きしめた。鬼塚も抱きしめられて饗庭を力一杯抱きしめた。

「何としてでも隠された8mmフィルムを見つけ出してやるんだ!」

鬼塚は饗庭にそう話すと、饗庭も「俺も頑張る。」と答えた。

辺りは夜の闇に包まれていき、これ以上この場に居れば危険だと判断をした二人はその場を後にして、鬼塚は饗庭と共に警察へと向かった後、饗庭の家へと招かれた。

饗庭の家に到着をした鬼塚は「明日の朝を待って、捜査をするしかないね。今応援の警察が来ても犠牲者が増えるだけだろうな。怒りの感情をじっと鎮まるのを待つしかない。」と話すと、饗庭は「辛いけど、今の俺達には何も打つ術がない。明日の朝、静かになった時を見計らい、遺体を回収するしかない。」と答え、明くる日2月19日になるのを待って、早めに2人は就寝することにした。

明くる日に再び七ツ釜に現れた2人は状況を確認すると、現地には通報を受けて複数の警察官が現場で捜査に入っていた。

饗庭が「どうしたんですか?」と近付き話を聞くと、一人の警官が「饗庭じゃないか。そっちこそどうして来たんだ?応援か?」と聞くと、「昨日の出来事がどうなったのかが気になったので一緒にいた心霊現象研究家の鬼塚さんと共に来ました。」と話すと、「饗庭。その場にいたのならどうしてこんな地獄絵図が広がっている?どうして防げられなかった?一度見て説明をしてくれ。」と言われ、饗庭は下で遺体の引き揚げ作業を行う様子をしゃがみ込んで見て目の当たりにした。

「すみません、僕が助けに行こうとしましたが一瞬であっという間のため救えませんでした。力不足で申し訳ありません。」

饗庭がそう話すと立ち上がり、後を去ろうとした時だった。

下の海のほうからロケットが発射されるような勢いで樹が近付いてきた。樹の足元にはこの地で最期を遂げたであろう、数多の御霊がこれでもかとばかりにくっついて猛スピードで這い上がってきた。

「お爺ちゃん、悪いけど俺は犠牲になったりしない。」

饗庭がそう言い放つと予め持ってきたお清めの塩を下の海に撒き始め難を逃れた。

そして鬼塚の元へと戻ってくるとこう話した。

「樹のこの世への復讐はまだまだ終わりそうにない。」

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