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下編「演奏、おわります」(2)

 7月17日は「海の日」。ルミナス中・高合同の軽音部校内ライブの日です。

 朝から容赦なく太陽が照り付ける暑い日でした。セミの鳴き声が増幅しあって響いてきます。
 ルミナス女子高校の講堂には、中・高の生徒が300人ほど集まりました、先生方は中・高の校長先生以下あわせて60人ほど。ミカの担任の松本先生の姿も見えます。そして来賓として、ルミナスを運営する「学校法人一条学園」の理事長と理事。あとは「ソヌス」の戸松さんご夫妻。
 戸松さんには、マイもマーちゃんも「ぜひ奥様といらしてください」と念押ししていました。

 司会進行は香川先生。1時になると、最初に理事長のご挨拶。70近くの男性。ルミナスの校是の「一隅を照らす一条の光たれ」について語って、「みなさんは音楽を通じて一隅を照らしてください」と締めくくります。次に高校の校長先生のご挨拶。60近くの女性。「表現の場は自由であるべき」と話し、「みなさんが好きな楽曲を、思い切って演奏してください」と締めくくりました。

 1時半少し前、中学のバンドが演奏を始めます。参加バンドは3つ。それぞれ2曲ずつ、初々しい演奏を披露します。
 休憩を挟んで、2時半から高校のバンド。1年生のバンドは経験者なので、レパートリー3曲を演奏します。続いて2年生のバンドが4曲ずつ演奏します。さらに休憩を挟んで、ミクッツのステージが始まる頃には4時になっていました。

 ミクッツとして演奏するのは3曲。「どぅ?」「天使のメッセージ」「1/2」の順に演奏します。
 終わって、メンバーがミカを残して袖に引き上げました。
 マイクスタンドの前でミカが話し出します。
「さきほどわたしたちがやった、『1/2』は川本真琴さんの曲ですが、今日、来賓でいらっしゃっているスタジオ『ソヌス』の戸松さんご夫妻の、思い出のアーティストなんだそうです」
 場内から「へえ~」の声。
「戸松さんには、みんな練習場所の確保に苦労しているところ、割引プランを作っていただいたり、本当にお世話になっています」
 舞台上では、マイがスタンバイしています。
「戸松さんへの感謝の気持ちをこめて、『1/2』から続けて、川本真琴メドレーをお届けします。メドレー2曲目は、ミクッツのシショーの弾き語りで、『愛の才能』」

 ミカが袖に引き上げると、一呼吸おいて、マイが弾き語りを始めます。
 マイのパフォーマンスは、練習を重ねて、「エンジェル」での演奏からさらに迫力と表現力を増しています。
 会場全体が、マイの歌声とギターの音で満たされます。
 演奏が終わって余韻が消えると、いち早く校長先生が立ち上がって拍手を始めました。理事長も立ち上がって拍手をします。歌詞の内容にいささか戸惑っていた先生方も、ならって拍手をします。

 舞台はルミッコの配置に変えられて、楽器も運び込まれました。OKになったところで、舞台袖でマイがマイクを受け取り、話し始めます。
「それでは川本真琴メドレー最後の曲。ルミッコの演奏に、ミクッツの2代目ミクベーがメインボーカル。ミクピーがサイドボーカル、そしてタイコがタンバリンで参加するコラボステージです。曲目は『DNA』」

 2本のギターを中心に躍動的な特徴的のリズムの前奏のあと、ミカの伸びやかなボーカルが始まります。
 タエコも生き生きとタンバリンを奏でています。
 ヨッシーのサイドボーカル。エコー風のフレーズは練習では苦戦しましたが、しっかりとものにしています。
 サビの高音域の伸びはさすがにミカです。
 戸松さんと奥さんは、顔を見合わせて微笑み合っています。
 そして原曲にはないアレンジでヨッシーのコーラスが入ります。ミカの高音域のメロディーにヨッシーのハモりと、ときどきユニゾンになる2声の旋律。
 5分ちょっとの演奏が終わると、真っ先に戸松さんが立ち上がって拍手をします。奥さんが続いて立ち上がり、場内みんながスタンディングオーベーション。
 こうしてルミッコ、ミクッツ合同の特別ステージが終わりました。

 ルミッコのステージが始まったころにはもう5時近くなっていました。定番曲2曲+カバー1曲+オリジナル1曲の演奏です。
 最初が定番曲のひとつ、クラウドベリージャムの「Walking In My Sleep」。ミカが初めてにルミッコのリハーサルを見たときに、聞いた曲です。
 2曲目はマーちゃん作詞・作曲の「Stay Awake」。2台のギターの掛け合いが印象的な曲です。
 3曲目の植村花菜「この手のひらで」では、3年生が1年の練習生と交代します。マーちゃんとナッチが1年の子にバトンタッチしました。2年生の次期リーダーがアレンジ担当。次世代のお披露目です。
 そして最後の曲。ふたたび3年生が戻って、中・高合同ライブ恒例の、森高千里+カーネーションの「夜の煙突」。生徒みんなが立ち上がって盛り上がります。
 ルミッコの最後の一音が終わったときには、5時半を回っていました。

 片づけが終わると、全員で「JUJU]へ。去年まではファミレスで打ち上げでしたが、今年はヨッシーが半澤さんに頼んで、「JUJU]で開催。40人近くなので、夜7時から9時まで、貸切です。
 会費ひとり500円で、好きなセットにドリンク飲み放題。
「ほんとにいいんですか?」とマイが半澤さんに聞く。
「大丈夫。足りない分は吉野さんに...」
「あの~、店長。私、何時間強制労働ですか?」
「冗談、冗談。さあ、みんな。ポテトのおかわりもどんどん頼んでね」
 40人分のバーガーとポテト、ドリンクの準備に店長以下スタッフがフル稼働です。注文の品を運ぶのに、ヨッシーも手伝いに入ります。

 最初は今日のライブの話で持ちきりですが、そのうち話題はいろんなところに向かいます。
「そういえば、ミクッツは8月11日にライブするんだよね」とマーちゃん。
「うん。付属病院のホール」
「ルミッコのフェアウェルライブよりあとにライブをやる3年生バンドは、軽音部始まって以来かもしれない」とマーちゃん。
「入場自由だから、お盆の時期だけど来れる人は見に来てね」とマイ。
「絶対行くよ」と言ったとき、マーちゃんの電話が鳴りました。
 入口のほうに向かいながらマーちゃんが話をします。ときどきマイやミカのほうを見ます。

 5分くらいして戻ってきました。
「マイたち、朗報」とマーちゃん。
「誰から?」とマイ。
「戸松さんの業務連絡。私らのフェアウェルライブで、『DNA』を演奏するようにって」
「ええ?」とヨッシーとミカのユニゾン。
「なのでミクッツがサポート出演」
「もう一回、『エンジェル』のステージに立てるんだ~」と大喜びのヨッシー。
「欣喜雀躍」とタエコ。
「それでね、マイには、ぜひギターで参加してほしいって」
「譜面どうしよう」とマイ。
「いいよ、コード進行頭入ってるでしょ。即興っぽいほうがきっと楽しいよ」とマーちゃん。
「賛成!」とナッチ。
「校外の人にコラボ聞いてもらえる。うれしいなあ」とミカ。

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 ルミッコのフェアウェルライブは、人気が高くて、立ち見枠まで完売状態です。
 ミクッツの4人は、出演者扱いになったので、チケット不要で入れることになりました。
 4人は自分のチケットを、だれかに渡して、来てもらうことができます。
 マイは付属病院の福田さんに、日ごろの感謝を込めて渡しました。
 ヨッシーは「JUJU」の半澤さんに。
 タエコはタエコ兄に。

 7月26日水曜日、ノエルは退院しました。

 ミカは病院に行って退院の手伝いをしたあと、「エンジェル」のチケットを渡しました。
「サポート出演で、1曲だけだけどね」とマイ。
「例のコラボ?」
「うん」
「よかった。ライブで聞けるんだ」

 背中の肩甲骨のあたりが、少しムズムズしたような気がしました。

 7月29日土曜日、ルミッコのフェアウェルライブの日です。朝からカンカン照りです。

 3時。ミクッツ4人も会場入りしました。今日はルミッコに合わせて、私服でのステージです。
 マイがギターを持って開演前のチューニングをします。タエコは備品のタンバリンを軽く試してみます。ミカとヨッシーもルミッコのみんなに声をかけました、
 3時半開場。店の外には行列ができていたようで、開場と同時に続々とお客さんが入ってきます。ミクッツの4人は「関係者」ということで、ドリンクカウンター近くに、オーナーと戸松さんと並びます。

 マイが戸松さんに聞きます。
「『DNA』、原曲にないコーラスを入れたんですけれど、大丈夫でしたか?」
「あれはマイちゃんのアレンジ?」
「はい」
「マイちゃん本当に高校で音楽やめるの?」
「やめるつもりですけれど」
「もったいないなあ。2声のハモりとユニゾンの絶妙なバランス。コーラスもきれいな旋律になってるし。マイちゃんの愛の才能、じゃなくて音楽の才能、半端ないよ」
「戸松さんにそこまで言っていただけるなんて。音楽やっててほんとによかったです」
「大学入って落ち着いたら、また始めることをお勧めするよ」
「はい。考えてみます」

 4時開演。定番3曲+3曲の合計6曲に、特別コラボライブの「DNA」が4曲目と5曲目の間に入ります。

 今日の1曲目は「Walking In My Sleep」。ミクッツ加入を決めた日に聞いたミカには懐かしい曲です。
 1曲目が終わるとマイは戸松さんに囁きます。
「でもやっぱり、バンドの格としては、ルミッコが数段上ですね」
「ミクッツはバンド初心者3人、うち楽器初心者2人で高校から始めたうえに、途中メンバー交代もあったんだから。自信持って」

 プログラムが進んで3曲目が終わりました。4人は、横の廊下から控室に入ってスタンバイします。
 4曲目が終わると、中央と右後ろにマイクスタンドが並べられます。マイがアコースティックギター、タエコがタンバリンを持って、ミクッツの4人がステージに登場します。
 マーちゃんのMC。
「今日は、ルミッコとしては6曲の予定だったんですけれど、音楽担当アドバイザーの戸松さんの業務命令で、急遽コラボステージを入れることになりました。サポートしてくれるのは、ルミ女軽音部の3年生のバンド、ミクッツのみんな。ライバルとして、切磋琢磨してきました。彼女らは8月の11日 付属病院のホールでワンマンライブやるそうですから、みなさんぜひ、聞きに行ってくださいね」

 マイの直前チューニングが終わったようです。マーちゃんが続けます」
「では、ミクッツのみんなを紹介します。まずはこの曲のメインボーカル、二代目ミクベー!」
 場内から拍手が起こります。
「サイドボーカルは、ミクピーちゃん!」
 さらに拍手。
「この二人のハモり、最高ですからね。それから、ふだんはドラムスで、今日はタンバリンで盛り上げてくれる、タイコ!」
 タエコ兄の大きな拍手が響きます。
「そして、ミクッツのリーダーで、メンバーの音楽の師匠。その名も、シショー!」
 戸松さんが大きな拍手を送ります。
「ギター歴5年の彼女が、3本目のギターでサウンドに厚みを加えてくれます」
 一息ついてマーちゃん。
「ああ、こんな編成で演奏できるなんて、夢のようです。それでは聞いてください! 川本真琴さんの『DNA』」

 前奏が始まります。ギター3本はさすがに圧巻です。
 そしてミカのボーカル。

 最後のワンフレーズを歌い終わったあと、後奏を聞きながら、ミカは全身がゾクゾクしました。とてつもない感動です。

 ミカとヨッシーのハモりも最高に上手くいきました。ヨッシーが右後ろのポジションから中央に小走りでやってきた、ミカとハグします。会場ほぼ全員が立ち上がり、拍手が一段と高まります。ナッチがミカに笑顔で拍手を送ってくれます。全員で揃って、お辞儀。拍手はしばらく鳴りやみませんでした。
 ミカは、客席のノエルと視線を交します。ニッコリと微笑みを投げかけてくれました。

 プログラム5曲目、通算6曲目のaiko「カブトムシ」が終わると、3年生の「ルミッコ卒業」メンバー二人が挨拶をします。
 最初にナッチ。
「aikoさんの『カブトムシ』、卒業試験のつもりで歌いました。どうだったですか? ...ええと、中学からバンド5年とちょっとやってきました。才能もないのに、ずっと「自分には音楽ができる」って勘違いでやってきたと思います。そしてルミッコに入れてもらって、ますます勘違いして、高校出たら東京に出て、プロのミュージシャンになりたいと考えています。自分の勘違いがどこまで通用するか、やれるだけやってみたいと思います。みなさんに、私の音を聞いてもらえるようになれればいいな、と思っています。お世話になったみなさんに、お礼あるのみです。ありがとうございました!」
 会場から激励の拍手が送られます。
 そしてマーちゃん。
「MCでいろいろ話したので、そんなに言うことはありませんが、中学の頃から『ルミッコ』に憧れて、オーディション受けて入れてもらって、2年半。教えていただいた先輩の方々や、助けてくれた同期や後輩のみんな、顧問の香川先生、オーナー、そして「ソヌス」の戸松さん、いろんな方々のおかげで、音楽とともに歩んだ楽しい高校生活を送ることができました。本当に...感謝の言葉しかありません。進路とか全然白紙ですけど、音楽を続けたいな、と思っています。どこかで私のライブをお見せできたら、と思います。本当に、ありがとうございました!」
 暖かい拍手がおこります。

 マーちゃんがMCに戻ります。改めてルミッコメンバーを紹介します。
 呼吸を整えるように一息つくとマーちゃんのラストMCです。
「それでは、最後の曲。みんないっしょに盛り上がりましょう! いきます! 『夜の煙突』!」
 前奏が始まるやいなや、会場は総立ちになります。
 後ろのドリンクカウンターのところにいた4人も会場真ん中で聴衆に加わります。
 跳び上がったり、体を揺らしたり、拍手をしたり、みんな思い思いの方法で、バンドとの一体感に浸ります。

 こうして、ルミナス女子高校軽音部伝統のバンド、「ルミッコ」第21代メンバーのフェアウェルライブは終わりました。

しおり