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第67話 ヤバい子と聖女、観覧車で二人

 タケシの「トロイノイ放置でいいのか」という言葉を受けてか否か、どちらかがトイレへ行くとき以外、トロイノイからあまり離れなくなったマギヤ。
 マギヤ持ち込みの晴雨兼用の傘を相合い傘して歩いたり、トロイノイに夫婦善哉(めおとぜんざい)かカップルドリンクどちらがいいか聞いてきたりと、謎のラブラブアピールがすごくなっていた。

 ところでテーマパーク及び遊園地の締めといえば観覧車である。
 観覧車があるパークなら、どうしても高所や乗り物全般がダメな者を除けば誰もが乗らざるを得ない。
 特に密を避けないといけない理由は無いというのに、一ゴンドラにつき最大二人しか乗れない制限があったため、青赤緑(モンス島式グーチョキパー)で別れた結果、一人観覧車のタケシ、マギヤとヴィーシニャ、トロイノイとメルテルの三グループに別れて乗ることとなった。


 今日の昼食でライスがあのお方のシルエットだったからという理由で、白い服を着ているのにカレーを注文し、あのお方のシルエットが隅に描かれた紙エプロンをもらって、服もエプロンも汚さずカレーを食べ、エプロンをカバンにしまったマギヤと、
 ウリッツァ班からマギヤが出ていく前、ウリッツァの悩みに全く気付けず、ウリッツァからも何も言われなかった一方、マギヤがウリッツァ班員でなくなってから比較的すぐに、トロイノイからマギヤと交際してることを報告されたヴィーシニャが、ゴンドラの中で二人っきりである。
 マギヤの黒いカバンに下げられた、タケシがマギヤのベッドスペースで何度か見かけた、あの三つの円状石のキーホルダーが揺れる。
 その石の色は三つとも黒色に染まりつつあった。

「そういえば、あれからウリッツァとはどうですか」
「え……どう、っていうと?」
「なにか進展はありませんでしたか? 例えば……キス以上のことをしたとか」
「え、えっと特には……」
 そうですか、と淡々と答えるマギヤをよそに、石の黒が広がる。

「もう一つ聞きたいんですが、ヴィーシニャさんって、もしウリッツァが浮気してるかもと思ったらどうしますか?」
 回答に詰まるヴィーシニャを無表情で見つめるマギヤをよそに、石の黒が広がる。

「マギヤはどうするの……トロイノイが浮気してるかもって思ったら?」
「……トロイノイがそんなことをするとは、あまり考えたくありませんが、そうですね……まずトロイノイに監視魔法を仕込んで、相手しか好いていないようならそいつの処理をして、トロイノイがあれを好いていたら……現場に乗り込んであれを凍らせ、心中でもしましょうか」
 石の黒が広がる。

「し、心中?! トロイノイの意思は……?!」
「まずトロイノイと一つになって――――」
 いつかどこかであの人がマギヤをヤバい子と称した理由がよく分かる言葉の数々で、石の黒が――底に達する。


 ――ゴンドラのドアが開く少し前、ヴィーシニャはボーッとしていたが、マギヤの声かけで意識を取り戻す。
「ほら、降りますよ」
 そう言って、薄っすら笑って手を差し伸べるマギヤ。
 そのカバンに下げられたキーホルダーの三つ石の色は、三つとも赤みがかったオレンジ色だった。

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