バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

5 私はこれで全てのつきあいをやめました

 親しい友人がいた。よく友人の家へ遊びにいった。
 友人の母に気に入られ、友人の姉や姉と親しい女Mとも知りあいになった。

 ある日、友人の母が私に、Mのことをどう思うか訊いた。
 私はMにまったく興味が無かった。

 理由の一つはMの性格だった。悪い人ではなさそうなのだが、話の端々に、私とは相容れないもの見え隠れしている気がした。噂話で他人をけなすようなことを話したかと思うと、言い訳するように話題の対象になった人物を、
「とはいってもあの人、悪い人じゃないわ。良い面もあるわよ」
 などと捕捉するのである。

 もう一つの理由は顔と目だ。
 私の母は鼻筋が通ったちょっと上を向いたような鼻をしている。父の鼻は上を向いていないが鼻筋が通り鼻梁が高い。父も母も小鼻は拡がってはいない。そしてふたりとも、目は日本人特有の濃いめの茶色だ。母の顔はヘップバーンに似ているといわれる。父は髭のない森鴎外の鼻筋をまっすぐにしたような顔だ。
 Mの鼻は、わずかながら、俗にいう鷲鼻、つまり魔女鼻だ。そして目の色は茶色がかった灰色。小顔の顎は細く先端がとがった印象だ。これまでの私の記憶にMのような人はいなかった。

 友人の母は、Mのことをどう思う?と私に訊いた。
 私は、なにも思わない、と答えた。

 数日後、友人から連絡があり、友人の家を訪ねると友人の母が、
「今日は、Mとふたりで出かけてきて欲しい」
 と言った。
 友人の母が何を考えているか私はわかった。Mを私とくっつけようというのである。私は折をみて、Mとつきあう気はない、と話そうと思い、その日はMを車に乗せて出かけた。友人の母親の魂胆に対する私の気配を察してか、Mは、車中、言葉少なだった。

 遠出から帰るとMは私に、家に上がって休んでいってくれという。
 Mとはつきあう気がない私は、このまま帰ると話した。すると、そういわずに上がれというから、家にはいった。

 居間の座卓に鍋物が用意されていた。Mは最初から、帰宅したら私と和やかに食卓を囲む気だったらしいが、車中の私を感じ、考えを変えたらしかった。
 私はしばらく休んだら帰ろうと思い、座ったまま、何もせずいた。
 すると、何を思ったのか、Mが鍋物を小鉢によそって座卓の私の前に置いた、私は黙ってそれだけを食べ、礼を言ってMの家を出た。

 後日、友人の家へ行くと友人の母がいった。
「Mには弟がいてね。Mが何でもしてあげてたのよ。おかずも皿によそってあげたり、何でもしてあげたの。あなたにも、鍋物を小鉢によそってあげたんだってね。
 やっと弟を自立させたと思ったら、あなたも弟みたいで、とてもじゃないけど、つきあいきれないといってたわ・・・・。
 それから、息子といっしょに、あなたの実家を調べさせてもらったわ。あなた、幼いとき、心臓が悪かったそうね。お祖母さんがそういってたと、近所の人が話してたわよ・・・」
 友人の母は私を目の前にして、いけしゃあしゃあと言い放った。
 友人は傍で苦笑いしていた。

 私の実家は、近郷で最初に苗字を名乗ること許された、十三代続いた農家だ。そして、祖母は私をとてつもなく熱い風呂に入れ、私が耐えきれなくなって湯船からでると、この子は心臓が弱くて熱い湯には入れない、など言っていた。今で言う自己中女だ。

 そして、ここにも、私の考えを聞こうともせずに、自分の考えだけで物事を進め、勝手に判断を下す自己中の女が、二人もいた。

 私は、
『コイツら私を目の前にしていながら、私のことを確かめもせずに、勝手なことをするヤツらなんだ!』
 と思い、友人にも母親にも何も話さずにいた。
 この日を境に、私がその友人を訪ねることはなかった。

(了)

しおり