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第10話

 ベッドの上に座り込んで、どうしたモンかとボクが悩んでいると、ようやく玄関の方から物音が聞こえてきた。
 パパだっ!
 ボクはベッドから飛び降りると、ソッコウで玄関に飛び出していった。

「おかえりなさいっ!」
「おあっ? カナタ、まだ起きてたのか?」
「パパを待ってたんだよ」

 パパが靴を脱いでいるのを待っているのももどかしくって、ボクはそこに置かれたギターケースを持つと先にさっさと奥に行く。

「こんな時間じゃ、ゴハンはもう食べてきたよね?」
「え…? ああ、うん……、いやあの〜」
「どうしたの?」

 モタモタとボクの後についてきたパパは、なんだかモノスゴク歯切れの悪い返事をする。

「カナタ、あのな…」
「うん、なぁに?」

 やたらと溜息を吐いて、パパはウロウロと落ち着かない様子で椅子に座ったり、立ち上がったりしている。

「パパ?」
「ああ、うん。……あのな、その〜、オマエの友達のシュウイチさんのコトなんだけど…」
「いやだなぁ、パパ。シュウイチは友達じゃなくて、ボクのコイビトだよ!」
「うん、あの〜、そのシュウイチさん…なんだけどな」

 いきなりしゃがみ込んだパパは、急にボクの肩に手を置いてジッとボクの顔を見つめてきた。
 かと思ったらまた立ち上がって、ウロウロ歩き出す。

「パパ?」
「カナタ……。シュウイチさんと一緒に住めたら良いって思うか?」
「そりゃあ、そう出来たら良いに決まってるじゃんか。でも、ボクはまだシュウイチをケイザイテキに面倒見てあげられないし…」
「一緒に住む方法は、他にもあるんだけど…。カナタ的にどうよ?」
「えっ? ホント? どんな?」
「だからその〜…。シュウイチさんとパパと、3人で暮らすっていうのは、どうよ?」

 ボクは一瞬、パパのその意見に諸手を上げて賛成しそうになったけど。
 でも顔色を窺うようにボクを見ながら、同時にどうしてもボクと視線を合わせるのが後ろめたい…って感じで、やたらと目線をさまよわせているパパの態度にフシンを抱いて…。

「どうしてそうなるの? なんかそれって変じゃんか?」
「…いや、あの〜、なぁ……。変…じゃないんだよ。全然変じゃなくてだなぁ……。シュウイチさんも、ちゃんと同意してくれてて…。後は、その〜カナタがな、良いって言えばそれで全員の意見が一致した事になるワケで………」
「なんでボクに聞くのが一番最後なんだよ!」

 ボクはワガママな子供じゃない。
 誰にだって「聞き分けが良い素直なお子さんですね」って言われるぐらい物わかりも良いし、大人に迷惑を掛けたコトなんて全然無い。
 でも、その瞬間、ボクはダダをこねる子供みたいにパパに向かって無分別に叫んでた。

「いや、別にワザとカナタを一番最後にしたワケじゃなくてだな……」

 どんなにパパが言い訳をしたって、ボクにはもう判ってた。
 パパはボクを騙して、出し抜いて、ボクからシュウイチを盗ったんだ!
「パパのバカー!」

 ボクは持っていたギターをケースごとパパに向かって投げつけて、真っ直ぐシュウイチの所に向かった。
 あんなの、パパの一方的な思いこみだっ!
 シュウイチが、あんな同居の話をキョダクしたとは思えない。

 12階まで駆け上がって、ボクは部屋の中に駆け込んだ。

「シュウイチッ!」
「カナタ? どうしたんだ、こんな時間に?」

 驚いた顔で振り返ったシュウイチに、ボクは思わず飛びついていた。
 自分一人で立っているのがやっとなシュウイチは、ボクが飛びついた衝撃で蹌踉めいて、そのまましりもちをつく。

「だって……っ、だってパパがっ!」
「オヤジが、どうしたよ?」

 穏やかな声で先を促してくれたシュウイチは、いつも通りスゴク優しい顔をしてくれていたけど。
 でも、間近に寄ったシュウイチの身体には、パパの匂いが移っていた。
 それに気が付いてしまった瞬間、ボクはもう何にも言えなくなって。
 小さい子供みたいに、ワッと泣き出してしまった。

「おい、カナタ?」
「ズルイッ! ズルイよっ! ………大人なんて、みんなズルイッ!」

 わあわあ泣きながら、ボクは手をメチャクチャに振り回して、シュウイチの事をメクラメッポウに殴った。
 だって、そんなのヒドイよ。
 シュウイチはあんなに優しい顔をして。
 ボクが迎えに来るのを待っているって、言っていたのに。
 一番ボクを騙して、ボクをコドモアツカイしていたのはシュウイチだったんだ。
 ボクの知らないところで、いつの間にかパパはシュウイチをボクから取り上げて。
 シュウイチは知ってるのに、ボクに隠していた。
 ヒドイよ! あんまりだっ!
「カナタ。…おい、カナタ。オマエ、なに泣いてンだよ?」
「だってっ! だって、ズルイよシュウイチ! そんなのズルイよ! シュウイチは、ボクが大きくなるの待ってるって言ったじゃないかっ! ボクよりも、パパの方が好きなの?」
「オマエのオヤジのコトは、面白れェって思ってるよ。…でも、そんだけさ。……ただなぁ、カナタにはまだ解ンねェと思うけど、別にそれほど惚れてる相手じゃなくっても、大人ってのは一緒にいられるんだよ。その方が、いっそ気が楽な事もあるのさ」
「じゃあ、シュウイチはパパよりもボクが好き? ボクが大きくなったら、ボクのお嫁さんになってくれるの?」
「…そりゃ、オマエの努力次第だろ」
「ホントに?!」
「もっとでっかくなったら、もっと色んなコトが解るようになるさ」

 シュウイチはとても綺麗な顔で笑って見せた。
 けど、その顔は笑っているのに、なんだかすごく悲しいような淋しいような感じがして。
 ボクは胸の奥の方がギューッと痛いような気がした。
 でも、そんな風にしていてもシュウイチはスゴク綺麗だった。

「じゃあボク、我慢する。…シュウイチと一緒に暮らせるなら、パパのコト今だけは許してあげる」
「そうだな。…オマエのオヤジはイイヤツだよ」

 そう言って、シュウイチはボクの頭をクシャクシャと撫でた。


 †


 結局、ボクとパパの家財道具を12階のシュウイチの部屋に運んで、ボク達は一緒の生活を始める事になった。
 朝からゴウセイなゴハンが用意されている事や、家に帰るとシュウイチが待っていてくれる環境は、そう悪いモノじゃない。
 というか、パパさえ帰って来なきゃ、こんなリソウテキな生活カンキョウは無いってぐらいだ。
 シュウイチには「パパを許す」って言ったけど。
 ホントは全然許せる気持ちになんて、なれやしない。
 でも、ボクはパパよりもオトナだから、ガキっぽくいつまでも怒ってる態度を表に出したりはしない。
 ボクが大きくなって、パパよりもずっと男前になったら、ボクはちゃんと約束通りシュウイチを迎えに来る。
 それまで、ちょっとの間だけシュウイチをパパに預けておくだけなんだから。
 覚えてろ!


*ボクのコイビト:おわり*

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