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第6話

 スーパーでボクは、鶏のひき肉とショウガとその他の鍋の材料を買って帰った。
 ウチはボクとパパしかいないけど、冬場は鍋を良くやる。
 同じ鍋に、次の日になったら違う材料を入れて違う鍋にしてしまえば、結構イケちゃったりするんだ。
 そういう意味でも手間が無くて、鍋はボクの得意メニューの一つだったりする。
 ただ一つの難点は、土鍋って結構デカくて重いから、洗うのが大変なんだけどね。

「で、なに鍋にするんだよ?」

 ボクに招待されてウチにやってきたシュウイチは、一緒にキッチンに並んで鍋の下準備を手伝ってくれている。

「鳥ダンゴ鍋だよ。ひき肉にショウガをたっぷり入れた方が美味しいんだ」

 おろし器をテーブルの上に動かないように固定して、シュウイチにはショウガをすりおろして貰う事にして、ボクは早速鍋をコンロにかけた。
 co-opで売ってる出汁の素を入れ、それからダイコンとにんじんと白菜の芯を入れる。

「シュウイチ、嫌いなものある?」
「いや、別に」
「良かった。ウチのパパはさぁ、俺は嫌いなモノが無い! なぁんて豪語してるんだけど、ホントはモノスッゴイ偏食なんだよ! 肉ばっかり食べるの」
「じゃあ、その鍋に入ってる野菜をオヤジはどーしてんだよ?」
「そっと避けて食べない」

 ボクの返事に、シュウイチはひどくウケたらしい。
 声に出して、笑ってる。
 でも、そのシュウイチの顔は、すごくミリョクテキだと思った。
 あ、そうだ。
 この間、国語の時間に習ったあの言葉がピッタリだと思う。
 くったくがない笑顔。
 って言ったかなぁ?

「なぁ、ショウガすりおろし終わったぜ」
「じゃあ、このボウルに入れて」

 鳥肉と刻んだネギを入れたボウルにショウガを入れて、念入りにこね混ぜる。

「手慣れたモンだな」
「いっつもやってるモン。そこのタケノコと椎茸も入れて」
「オマエのオヤジ、この肉団子食えるの?」
「刻んであると、気になんないみたい。…ってゆーか、お肉の中にタケノコ入ってないと文句言うよ」
「鍋、煮えてきたぜ。ほかの具、入れとくか?」
「うん」

 ボクが手を洗っている間に、シュウイチは別に分けてあった白菜の葉っぱ部分やキノコみたいなあんまり火を通す必要ない具を鍋に入れておいてくれた。
 ボクは少し大きめのスプーンを持ってきて、こね混ぜたボウルの中身を掬って鍋の中へ投入する。
 鳥肉ダンゴを全部鍋に入れた後に、最後の仕上げは特製の合わせ味噌。

「なぁ、オマエのオヤジって、何時頃帰ってくンの?」

 お鍋の中を覗き込んだシュウイチは、なんだかちょっと嬉しそうな顔でボクを見る。

「特別になんにもなければ、1時間後くらいかなぁ?」
「ええ〜? そんなに待ってらンねェよ!」

 イイ匂いが漂い始めたお鍋を前に待ちきれないって顔してるシュウイチは、なんだか全然オトナって感じがしない。

「別にパパが帰って来るの、待つ必要ないよ? ボクいつも、先に食べちゃうモン」
「だってオマエ、俺はそーいうワケにいかねェだろ?」
「なんで?」
「なんでって……、そりゃあオマエ、大人としてだなぁ…」
「平気だよ。帰ってこない時は、全然帰ってこないし」
「オヤジ、連絡してこねェの? その…遅くなる時…?」
「してこないよ! 相手の生活をカンショウしないっていうのが、テッソクだもん」
「放任主義通り越して、それって無責任なんじゃ……」
「なんでそんなに驚くの? ボクとパパってそんなに変かなぁ?」
「…いや…、もし変だとしたら、それはもう一方的にオヤジの所為だから…」
「お箸、コレ使って。席はそこ座ってね」

 取り皿とお箸を用意して、ボクはシュウイチに席を勧める。
 炊きたてのごはんをお茶碗に盛っていると、玄関の方で音がした。

「ただいま〜」
「あ、パパだ」
「なんかイイニオイしてるな〜、今日は鍋か〜?」

 上機嫌でダイニングに入ってきたパパは、そこに座っているシュウイチを見てちょっと驚いた顔をする。

「こんばんわ」
「あ、どうも…はじめまして…」

 シュウイチに挨拶をして、それからパパはチラッとだけボクの顔を見た。

「あ、シュウイチちょっとゴメンね」

 上着を脱ぎながら奥の部屋に入っていったパパの様子から、無言でボクを呼びつけている空気を感じ取り、ボクはシュウイチをそこに残してパパの後を追う。

「シュウイチ一人にしとくワケにいかないんだから、早くしてよね」

 駆け込んだボクに振り返り、パパはなんだか少し変な顔をしていた。

「カナタ、あのヒト学校の先生かなんかか?」
「ええ? 違うよ! パパ、先生に会った事あるじゃんか。シュウイチは12階に住んでるヒトなんだ。ボク、将来シュウイチと結婚するんだ!」
「はぁ?」
「あんまり待たせるワケにいかないんだから! ボク、行っちゃうよ」

 なんだか要領を得ないパパに痺れを切らして、ボクはダイニングに戻った。
 後ろの方で、なんだかパパがまだボクの事を引き留めていたけど、お客さんであるシュウイチをいつまでも放っておくワケにいかないじゃないか。
 全く、パパは本当にイザって時に気が利かないよ!
「お待たせ。ゴメンね、シュウイチ」
「オマエのオヤジ、俺のコト不審に思ったんだろ? やっぱ、イキナリってのは不味かったって」

 苦笑するシュウイチに、ボクは慌てて首を横に振る。

「違うよ! パパはホンットだらしなくって、何処になにがしまってあるか判らないからいっつもボクに訊くんだよ」

 盛りかけたお茶碗を手にとって、ボクは改めてゴハンを盛りつけるとシュウイチの前に置く。
 ボクがパパの分とボクの分のゴハンを用意し終わる頃に、パパがダイニングに戻ってきた。

「どうしたの? 新しいスウェットなんかおろして…」
「ちょっと、見あたらなかったんだよ」

 先刻と同じようにちょっといつもとは違う変な顔で答えると、パパはシュウイチと斜向かいの席に座る。
 でも変だなぁ。
 パパは新しい服が大の苦手で、どんなに柔らかいスウェットでもフリースでも着慣れた物を捨てて新しいのにしておくと、それを着慣れるまでずっと文句を言っているのに。
 自分から進んで新しいのに袖を通したのなんて、初めてだよ!
「えーと、あの、初めまして。俺、あの〜、カナタの父親でハルカって言います」
「俺はカナタの友達で、シュウイチって言います」
「友達? …あの…失礼ですけど、シュウイチさんがカナタの…?」
「違うよ、友達じゃないよ!」

 パパが勘違いしてしまう前に、ボクは慌てて訂正する。

「ボク、大きくなったらシュウイチをお嫁に貰うんだ!」

 ビックリ顔のパパはともかく、シュウイチはなんだか激しく咳き込んでいる。
 やっぱり、ちょっと恥ずかしかったのかな?
 でも、どんなに照れくさくたってちゃんとしておくところはしておかなくちゃね。

「カナタ、オマエなぁ。男同士は結婚出来ないんだぞ?」
「なに言ってンだよ! アメリカの一部の州とイギリスやスペインじゃ男同士の結婚は法律で認められてるんだって、パパが言ったんじゃんか。それにパパはいつも自分がカイショナシだからママが逃げちゃって、キズモノのパパじゃお嫁には行けないんだって言ってるの忘れたの?」
「え…っ! ちが……っ! オマエそれはジョーダンで…」
「ええ〜? じゃあウソだったの? パパってばボクにウソは言わないって約束だったじゃないか!」
「ウソ…いやあの、ウソってゆーのとは違ってだなぁ…」
「ボクもう決めたんだ、大きくなったらシュウイチのコトをお嫁さんにする。今はまだ、ボクはケイザイテキにパパの援助がないとやっていけないけど、ボクが就職して自立したらシュウイチのコト迎えに行くからね」

 スッゴク格好良くプロポーズを決めた! って思ったのに。
 なぜかシュウイチは、肩を震わせて笑ってる。
 パパが今まで見た事もないようなトホホな顔でシュウイチを見た時、シュウイチはもうガマンの限界を超えたみたいに声に出して笑い始めた。

「いや、悪ィ……。…でも、ダメだとまらねェや!」

 しばらく笑い転げた後に、シュウイチはパパの顔を見る。

「カナタの方が、筋が通ってるぜ?」
「いや、あの、筋がどうってモンダイじゃなくて…」
「悪いのは、アンタだろ?」

 パパに向かって笑って見せたシュウイチの顔は、なんだかスッゴク意地が悪い感じがした。
 でも、いっつもボクをやりこめるパパがシュウイチにやりこめられているのは、胸がスッとする!
「じゃあ俺は、カナタが迎えに来てくれるのをじっくり待たせて貰うかな」

 そういって、シュウイチは右手をテーブルについて少しだけ椅子から立ち上がると、ボクのほっぺにチュってキスしてくれた。
 シュウイチが離れていった後も、なんだかスゴクイイ匂いが鼻の奥に残ってて。
 ボクは心臓がドキドキしてしまった。

「ンな顔すんなよ。カナタが成人するまで後何年かかると思ってンだ?」

 目をまん丸にしてるパパに向かって、シュウイチはまるでボクがそれまでにシュウイチを諦めるみたいな言い方をしたけど。
 こんなにステキなお嫁さんを、ボクが諦めるはず無いじゃないか。
 きっとシュウイチは、自分がどんなにミリョクテキなのか、全然判ってないんだな。

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