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第2話 貴方は誰?ここはどこ?

 美少女をとりあえず、未来の家に運び込んだ。運び込んだあと、未来は自分のベッドに寝かせ、とりあえず先に私服に着替えてから、様子を見ることにした。
 茅尋は、美少女を部屋に運び込んだ後、一旦家に戻って着替えてから戻ってくるとのことだった。
 それからしばらくすると、茅尋が未来の部屋にやってきた。
 茅尋に美少女の具合を聞かれたが、まだ目を覚ましていないことを伝えると、様子を見ながら春休みの宿題に手をつけることにした。

「なんで、春休みの宿題に読書感想文なんてあるの? 普通、こういうのって夏休みの宿題とかじゃない?」
「そういえば、去年の夏休みの宿題に読書感想文なかったね」
「うちの学校って、ちょっとどこかズレてるよね」
「あんたも、ちょっとどころじゃないほどズレてるから、お似合いじゃない?」
「え、そうかなぁ~。えへへ」
「褒めてない」

 照れながらえへへと笑う未来に、茅尋はあきれたようにツッコミを入れた。昔から未来はボケ倒す人種なので、茅尋は大体ツッコミをしていた。

「はぁい、二人とも~。おやつよぉ~」

 元気そうな女性の声が聞こえてきた。
 未来が扉をあけると、扉の前には一人の女性が立っていた。彼女は、未来の母親で、胡桃さんだ。関係ない話だが、未来は元々『未流来』になる予定だったそうだが、父親の反対で未来になったそうだ。
 胡桃さんが持ってきた皿の上には、マグロの頭が乗っていた。

「シュールだな!?」

 思わず声が出てしまった。
 どこからどう見ても普通の主婦が持ってきた皿の上に、マグロの頭があり、さらに飾り付けがされているのがものすごくシュールであった。
 どこの家に、3時のおやつでマグロの頭を出す家があるのか。あ、ここにあった。いや、そもそも、なぜマグロの頭なのか、非常に気になるところだ。

「そういえば、胡桃さんもボケ倒す人種だったな・・・・・・」

 そもそも、マグロの頭をそのまま持ってきても、食べられるはずもない。食べられないところはない、と言われるマグロであるが、それでもキチンと捌いて調理した場合である。頭まるごと持ってこられても食べられるはずがない。

「あの、これはどう食べればいいんですか・・・・・・?」
「こうよ」
「まさかの!?」

 そういって、胡桃さんがマグロの頭にかぶりついた。
 さすがにその食べ方は予想していなかった。いや、頭がまんま持ってこられた時点である意味では予想出来ていたが、あまりの出来事故、現実を逃避したかったのかもしれない。

「普通に捌いて持ってきてください・・・・・・」
「そうねぇ。じゃあ、もう少し待っててねぇ~」

 そう言って、胡桃さんはマグロの頭を持って未来の部屋から出て行った。
 ふと、ベッドの方へ目線をそらすと、先ほどまで横になって眠っていた美少女が目を覚まして、体を起こしていた。

「あ、起きた?」
「ん?」
「???」
「あれ、おーい」

 話しかけてみるが、相手はこちらの言っていることを認識していないのか、それとも、理解出来ていないのか、キョトンとしているだけであった。

「うーん、言葉が通じないのかな」
「ふっふっふ、そういう時はこれだよ!」

 そういって未来は、ババーンとポーズをとって相互翻訳機を取り出した。
 ここ数年、家電量販店などでよく見かける相互翻訳機だ。

「あ、私日本語喋れます」
「いや、しゃべれるんかい!」

 唐突に美少女が口を開けて喋り始めた。
 さっきの翻訳機のくだりいらないじゃないか・・・・・・。いや、ていうかそれ以前に、なんでさっき話しかけた時に反応しなかったのだろうか。
 そんなことを考えていると、目をシイタケみたいにキラキラさせた未来が、美少女にズリズリと迫っていた。

「好奇心は猫をも殺す、か」

 茅尋は美少女に迫っていた未来を引っぺがした。
 それから三人は、テーブルを囲むように座ってお互いに挨拶を交わした。

「私の名前は、パメラ・ガーネット。ガーネット王国の王女です」
「へー。王女さま・・・・・・王女さま!?」
「へー、すごいね、王女さまって」

 正直ガーネット王国など聞いたことがないが、目の前にいるのが王女さまだというならば、不遜な態度は取れない。
 そんな戦々恐々とした態度をとる茅尋とは裏腹に、未来は王女さまに再びズリズリとすり寄っていた。

「おい、相手は一国の王女・・・・・・姫君だぞ。そんな態度を取るなってば」
「えー、いいじゃん。別に、私は王女さまだからって気にしないよ?」
「いや、未来が気にするか気にしないかではなくて、相手はどう思うかだから」

 茅尋は、未来の首根っこをつかんで部屋の隅へ移動してコソコソと内緒話を始めた。

「あ、あのー?」
「あ、すいません、王女さま。この、バカが失礼なことを」
「え。あ、いえいえ。私は気にしていませんので」
「ほらー、気にしてないってよ?」
「お前は少しは気にしろ!」
「ふふふ」

 二人の漫才のようなやりとりに、パメラ王女は笑みを浮かべ、クスクスと笑っていた。これで、少なくとも不敬罪みたいなことで打ち首になることはなさそうだ、と茅尋は考えていた。

「ところで、ここはどこです? 私、確か魔法の練習をしていたハズなんですが・・・・・・」
「あー、ここは・・・・・・」

 茅尋は、パメラ王女に今居るのは日本の東京都であること、この世界にはガーネット王国は存在しないことなどを説明した。

「そんな・・・・・・ガーネット王国は滅亡してしまったのですね・・・・・・」
「いや、そんなことは一言も・・・・・・」
「そして、私は未来に飛ばされてしまったと・・・・・・」
「そんなことも言ってないんだけど・・・・・・」
「ああ、私って不幸・・・・・・」

 ここまで来て、茅尋は一つの事に気がついた。
 ああ、こいつもボケ倒すタイプの人種か。
 どうやら、茅尋と仲良くなる人は大体ボケ倒すタイプの人種のようであった。

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