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ふるさと町とは

 総人口4000人弱のふるさと町に建っている一軒の家。全部を足し合わせると、四〇畳くらいになるだろうか。正確に測っているわけではないので、実数値とのずれは大きいかもしれない。

 家の広さに比例するかのように、部屋の数も多くなっている。自宅は合計で六部屋もある。三部屋もあれば充分かなと思うだけに、半分くらいは取り壊したい気分になる。使わない部屋をたくさん持っていても、ありがたみをまったく感じない。ゆっくりとできる部屋を一つ持てばストレス解消できる。

 自宅の広さの最大の欠点となるのは、掃除のときに大変な思いをすること。部屋にいなくとも、埃は少しずつたまっていくため、定期的な清掃を必要とする。

 掃除機をかけるだけなら一部屋で一〇分もかからないけど、物置部屋は色々なもので溢れかえっている。使わなくなったコート、ジャンバーに加え、季節に合わないスーツなどをハンガーにかけている。

 他には客用の布団なども置かれている。田舎では顧客を接待するための寝具を持っている家庭は多く、家族とは別に5~10人分くらいを常備している。昔ながらの伝統を未だに引き継いでいると思わせる一面だ。近年ではお泊り会などは激減したので、布団を処分してもよいと思う。

 机にはアルバム、表彰状、過去の問題集といったものが置いたままになっている。室内にゆとりがあるために、処分せずに放置してある。我が家ではよほど不要と判断されない限り、空き部屋に置く習慣がついてしまった。

 我が家の恒例行事となっている掃除を他人に任せられれば、どんなに楽だろうか。室内を奇麗に掃除してくれる、心優しい人は現れないかな。お金のかからないボランティアならさらいい。
浴室は通常のスペースである。温泉のように、五人、一〇人と入浴可能な広さではなく、一人用となっている。家庭内で大浴場というのはほとんど見かけない。

 台所、洗面場も同じくらいのスペース。部屋の数の多さは際立っているものの、それ以外は一般家庭と同じだ。

 我が家はアパート暮らしをしている人からすれば、相当なスペースを誇っている。大学時代に下宿生活していたとき、自分の家の広さを目に見える形でわからされた。

 大学時代に住んでいたアパートより格段に広くとも、地方においてはごくごく標準的といえるのではなかろうか。平均に達していない可能性も大いにある。この地域では我が家に負けない広さを持つ家庭も少なくない。

 全体的に広めな家を持っている地域において、一番といえるのは地主。家を三軒、ガレージを五つも持っている。全国を見渡しても、ガレージを五つも持っている家庭はなかなかないのではなかろうか。

 ガレージを五つも所持しているにもかかわらず、車の所持数は一台にとどまっている。地主は高齢により免許証を五年前に返上したため、乗車することはなくなった。

 地主の乗っていた軽トラなどは息子に引き継がれることはなかった。MT(マニュアル)車にこだわりをもっていたため、オートマチックに慣れてしまった息子には運転は難しかったようだ。大吉もMT免許を所持しているものの、試験に合格してからは一度たりとも乗車していない。運転する立場になったら、まともに公道を走れるかわからない。

 余ったガレージは他の人に貸して貸賃料を徴収している。空きガレージというのは貴重なため、借り手はすぐに見つかったようだ。陸の孤島さながらに、ポカーンと浮いてしまう状況にはなりづらい。

 墓の数も圧倒的に多い。一般家庭では直系の両親くらいであるのに対し、地主の家では6代くらいにわたって墓を建てている。先祖を敬うのもいいけど、ここまでやる意味はあるのかな。

 地主は山の所有権も持っている。どれくらいの面積なのかは、まったくわからない。1000坪、10000坪、もしくはそれ以上あるのかな。これだけの土地を持っていれば、どれくらいの人間が住居を確保できるだろうか。10000人、20000人は普通に住めそうだ。森林を伐採したあとの世界を見てみたくなる。

 ふるさと町の特徴としてあげられるのは自然の多さ。外出するときは当然のこと、家の中にいたとしても、緑を視界で捉えることもある。
 
 ふるさと町は日本海側の地方なので、冬には多くの積雪を見込む。雪解け水は農業において大いに役立ち、質のいいコメ、キャベツ、タマネギなどを育てるのに適した環境となっている。

 自然の恵みを生かして、農業に取り組む家庭は少なくない。店で販売するのではなく、自分の家で食べるケースも多い。手間暇をかけて作っただけに、世界で一番おいしく感じられる。

 豊かな雪を利用して、スキー場経営も行われる。かつては「ふるさとの森スキー場」、「スノーパークふるさと」、「雪の公園スキー場」の三つのスキー場が運営しており、それぞれでにぎわっていた。

 現在は「ふるさとの森スキー場」のみのオープンとなっている。「スノーパークふるさと」は一三年前、「雪の公園スキー場」は八年前にそれぞれ閉鎖することとなった。主な理由はスキー
人口の減少による経営難。二〇年前は溢れんばかりの客でにぎわっていたものの、近年は利用客が減ったことで採算を取れなくなってしまった。スポンサーも続々と撤退し、スキー場の経営から手を引かざるを得なかった。

「ふるさとの森スキー場」が生き残ることとなったのは、ゲレンデの広さ、リフトの設備、駐車場のスペースなどで圧倒的に勝っていたため。五年前にゴンドラリフトを整備するなど、順調な経営を続けている。スキー場における60~70パーセントが赤字経営で撤退を余儀なくされている中、奮闘しているといえるのではなかろうか、
 
 利益を設備に還元した、「ふるさとの森スキー場」の土台も急激にぐらつき始めているという噂も流れている。スキー場はスキー人口の減少だけでなく、自然との戦いを強いられるようになった。

「ふるさとの森」は三つのスキー場の中でも積雪量は多く、二〇年前は一二月前半には営業を開始していた。過去には一一月にオープンすることもあるなど、雪に大いに恵まれていた。

 環境に恵まれてきた「ふるさとの森」は、近年は一二月後半もしくは一月初旬にならないとオープンできない。暖冬の影響で積雪量は大いに減少することとなった。

 今年度に至っては、例年にない暖冬の影響でオープンは二月までずれ込むこととなった。わずか三週間しか経営できなかったため、大赤字を抱えることになったと思われる。人件費はカットできたとしても、土地代、リフトのメンテナンス料といった固定費は免除されない。収入は変動
制であるのに対し、支出は一定の水準で推移する。

 二月オープンが痛恨となるのは、児童の利用を見込めなくなること。地方では冬の体育は全部スキーにあてがわれる。小学生の全児童を三〇〇人と仮定すると、二〇〇〇*三〇〇*一〇(授業数)の収入となる。六〇〇万円は無視できない数値となる。

 ちなみにスキーが授業に組み込まれるのは一月。二月からオープンできたとしても、間に合わない。児童から入るはずの収入は全て吹っ飛んでしまった。

 スキー以外の名物といえばふるさと牛があげられる。品質のいいものは、一等で一千万円を超えることもある。農家は高い値で取引されるのを夢見て、牛を懸命に育て上げている。

 ふるさと町は水が奇麗な地域。ミネラルをたっぷり含んだ水を飲ませることで、牛の生育に大いに役立てる。よい牛を出荷するために、水は欠かせない。

 良い環境で育てられているからか、牛乳の質もよい。市場では一リットルで三〇〇円~四〇〇円前後の値段がつく。

 牛は栄養失調にすることで、高ランクになりやすいという性質を持つ。栄養素の偏った餌を与えられた牛の一部は失明していることもあるようだ。人間なら虐待になりかねないやり方を取ることで、レートをあげていくというのは訊いていると寂しくなる。訴えられないとはいえ、立派な虐待であることに変わりはない。知らぬは仏といわれるけど、牛の生育方法については畜産業に営んでいる人以外は知らなくてもよい。

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