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円卓会議 5

「それで、わたくしの質問に関してのご回答はいかがですの? ドラゴンなど、召喚したところで使役できないのでしょう? でしたら、その件で帝国が脅威になることはありませんわ」
「その通りだ。だが、だからこそ問題であると言える。仰る通り、万が一帝国がドラゴンを召喚したとして、それを使役することは絶対に不可能。ではどうなるかと言うと、」
「ドラゴンは野放しになり、人間では到底太刀打ちできないそれに、下手をすれば世界ごと滅ぼされてしまう。……はた迷惑な話ですね」
 発言を遮って続けた青の王に、赤の王が頷く。
「帝国だけならば、いかようにもしようがある。エインストラだけであってもそうだ。だが、不運なことに、今回はその二つが同時に舞い込んできてしまった。帝国とエインストラの力が合わされば、ドラゴンの召喚が成し遂げられてしまう可能性がないとは言い切れなくなってしまう。そして仮にドラゴンが召喚された場合、この世界の存亡が関わる事態にまで発展してしまう」
「つまるところ、世界が滅亡する可能性がゼロじゃなくなっちまった以上、俺たちはその可能性をゼロに戻すために動かなきゃいけないってことですかね。世界が滅亡した場合、この神の塔もどうなるか怪しい。それは、塔の守護を任されている身としては避けたいところだ」
 黄の王の言葉に、赤の王は苦笑した。
「世界の滅亡を回避すると言ってしまうと随分話が大きくなるが、結果的にはそういうことになる。我々が守らねばならんのは、己が国と民、そしてこの塔だが、それを守ることが世界そのものを守ることに繋がってしまうのだからな。……さて、議題が明確になったところで、円卓の統括者たるエルキディタータリエンデ王のご意見を窺いたい。お願いできるだろうか」
 言われ、銀の王は一度目を閉じて深く息を吐き出した。
「概ねお主らのまとめた通りだろう。世界の滅亡は一向に構わぬが、それで民と塔が損なわれるとあれば、看過できることではない。よって、円卓の連合国全てでこの件に対処すべきであると私は判断する。金と赤と橙は互いに協力し、エインストラの可能性があるという人間の守護にあたるのが良いだろう。特に赤は、円卓でも最高戦力を誇る国である。敵の攻撃を受ける可能性が最も高い金の守護を任せるのが得策だ。無論中心となるべきは金であるが、現状の金の軍事力は高いとは言えぬ。エインストラを手に入れるために金が狙われるだろう点を考慮し、特例として赤と橙の戦力の一部を金に常駐させることも一考すべきだろう。薄紅と紫には、自国の政に支障が出ない程度に各国を回り、魔導の痕跡がないかどうかを探って貰いたい。此度の一件のように、空間魔導による強襲を受けては、どうしても後手に回らざるを得なくなる。それを未然に防ぐためにも、薄紅と紫は隠された魔導陣がないかどうかを調べるのだ。幻惑魔法に優れた薄紅と結界魔法に優れた紫が協力すれば、帝国の魔導が想定の範囲を越えぬ限り、成し遂げられよう。青にはその守護と補助を任せよう。魔導陣を見つけた場合すぐさまそれを破壊する役と、その過程で有事が生じた際の対処を頼みたい。薄紅と紫は攻撃魔法が不得手故、青の水魔法が役立つだろう。白には、戦場となった地に人員を派遣して貰い、そこで医療活動に従事して貰いたい。治癒の多くを貴国に一任することになるのは心苦しいが、白以外の国で回復魔法を使える者が稀である以上、そうせざるを得ない点、理解を得られると有難い。緑と萌木には、白の守護に回って貰う。白は回復魔法に長けている反面、それ以外に関しては不安が残る国だ。そしてそれは帝国も熟知しておろう。そのため、帝国が我らの回復手段を潰すために白を狙って来る可能性がある。そうなったとき、緑と萌木で対応するのだ。しかし、この二国から白へ赴くには少々距離がある故、白の緊急時にはまず黄が駆けつけるのが最適だろう。よって、黄には緑と萌木の補助を任せたい。それに加え、有事の際の伝令役にも黄が相応しいであろう。こと情報戦において貴公の右に出る者はいない上、黄の王獣はリアンジュナイル最速の獣。場合によっては、王獣を伝令役に使わざるを得ぬ事態も生じよう。その旨、しかと王獣に伝え、了承を得ておくように。そして黒だが、彼らには帝国へ潜入し情報を引き出すよう依頼をしておこう。円卓会議を欠席しがちな問題国家ではあるが、その隠密能力と偵察能力は本物だ。現地での偵察は黒に一任して問題ないと考える。……概ねの策としてはこんなところか。さて、いかがかね」
 圧巻である。各国の特色を十二分に理解した上での迅速な判断は、これ以上ないほどに的確なものであった。さすがは統括国である銀の国の王と言ったところだろうか。
「ギルガルドとグランデルとテニタグナータが仲良し国家で集まっているのに、妾は北方国に囲まれることになるのねぇ。そこは些か不満だけれど、的確かつ隙のないご判断だと思うわ。ミゼルティア王は美しいから目の保養にもなるし、良しとしましょう」
「シェンジェアン王はまだ良いじゃないですか。俺なんて自宅待機みてぇなもんですよ? しかもリァンのご機嫌取りまでせにゃならんなんて……」
 リァンというのは、リィンスタットの王獣、リァン・リィンスタットのことである。王獣と王は対等であるため、王が伝令役をこなせと言ったからといって、その通りにするとは限らないのだ。だからこそ、王獣を説得する必要があるのである。
 盛大に溜息を吐いた黄の王だったが、だからと言って銀の王の決定に不満がある訳ではなかった。それは今ここにいる王全員にも言えることで、それを証拠に、銀の王の采配に異を唱える者は誰ひとりとしていない。
「エインストラ候補が真にエインストラである確証はなく、仮にそうだったとして、エインストラの力と帝国の魔導を合わせることでドラゴンの召喚が本当に可能かも判らぬ。しかし、万が一にもそれらの可能性がある以上、その可能性の芽を摘むのが我らの仕事であろう。たとえそれが徒労に終わるとしても、結構なことではないか。万に一つの可能性を見落とし、何もかもが手遅れになるよりはずっと良い」
 銀の王の言葉に、円卓の王たちが頷く。元より、王たちは皆そのつもりだ。
「場合によっては私の過去視も必要になろう。ギルディスティアフォンガルド王の未来視もな。尤も、そこな幼王の未来視は安定しておらぬようだが」
 若干の皮肉を含んだ声に、金の王は素直に浅く頭を下げた。
「申し訳ありません。私の未来視がもっと意識的に引き出せるものであれば、皆様のお役に立てたというのに」
「いいや。ギルディスティアフォンガルド王の未来視は、元より制御不可能なもの。あれは必要なときのみに発動する能力だ。貴殿が気に病むことはあるまい」
 赤の王が言い添えたが、銀の王はやはり冷たい目で幼い王を見た。
「それを考慮したとしても、当代の先視が発動する頻度は低いようだがな」
 その言葉は、紛れもない事実である。唇を噛み締めた金の王は、しかし顔を上げて銀の王を真っ直ぐに見た。
「仰る通りでございます。それも、全て私が未熟であるからこそ。より一層の研鑽に励み、必ずや我が国とリアンジュナイル大陸のお役に立ってみせます」
「……ふん。未来視は研鑽でどうなるものでもない。しかし、お主が成長すれば少しはまともになろう。寧ろお主は、より王としての己を磨くことに専念すべきであろうな。国王とは民を守護すべき存在だ。ひとりひとりの民を尊重し、その未来のために尽くすのが王だ。故に、先のように、ひとりの民を尊ぶ崇高な精神は評価に値する。……だが、発揮する場所を誤ってはならぬぞ。必要であれば、百を救うために十を、千を救うために百を斬り捨てる。その判断を一切の迷いなく下すのも、また王なのだ。お主も王であるというのならば、そのこと、ゆめゆめ忘れてはならぬ」
 そう言った銀の王の目は、相変わらず鋭さがあるものの、そこに常のような嘲りの色はない。そのことに困惑しつつも、金の王は深く頷いた。銀の王の言わんとしていることは、よく判っている。きっとそれは正しく、そして必要なことなのだ。そして、幼い自分ではまだその重荷を背負いきれないことも、金の王はよく判っていた。
 金の王が頷きを返すのを見てから、銀の王は赤の王へと視線を移した。
「お主にはまだ問いたださねばならぬことがあるが、この時期だ。皆早く帰国するに越したことはない。……極限魔法を使ったにも関わらずギルディスティアフォンガルド国を損ねずに済んだ方法については、次の機会に詳しく尋ねることにしよう」
 赤の王としては、極限魔法の件についてはうやむやになってはくれないかと僅かに期待していたのだが、やはりそうはいかないらしい。ちらりと他に目をやれば、どうやらどの王も、この件について興味があるようである。まあそれも当然のことだろう。極限魔法は特に調整が困難な大魔法だ。比較的器用な方である青の王や緑の王を以てしても、精々威力を九割程度に押しとどめるのが限度だろう。つまり、街ひとつ丸ごと吹き飛ぶか、一割だけ残すか程度の調整しかできないのである。だが今回赤の王が発動した極限魔法の最終的な威力は、本来のものの一割程度であると言って良いだろう。円卓の王の中でも最も調整下手な赤の王がそれをやってのけたとあれば、興味も湧こうというものだ。実際は王自身の調整によるものではなく無理矢理に相殺して貰った故の結果なのだが、どうやら炎の極限魔法を抑え込んだ水魔法についてはまだ各国の耳に届いていないらしい。
 それを言うと更に会議が延びそうだと思った赤の王は、銀の王の提案に有難く乗ることにした。どのみち次の会議で追及されるだろうが、それはそのときである。
「ご配慮、感謝する。では、エルキディターリエンデ王のご判断に反対がないようであれば、今後の詳細については各々関連する国とご相談頂くことにして、ここで一度議会を締めることにしよう」
 その言葉に誰も異を唱えないことを確認してから、赤の王はひとつ頷いた。
「この度はご多忙の時期にも関わらずお集まり頂いたこと、改めて感謝申し上げる。それでは、これを以て此度の円卓会議は終結とする」

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