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 ―――――――!!
 風が一筋吹き抜けた。
 危険な香りを乗せて―

「見つけた」
「ようだな」

 私の言葉に闘華が続ける。
 と、不意に闇が襲い掛かってきた。
 さっきまでの青空も、草原の緑も木々の色も何もかもが黒に染まる。

「闘華!!」
 とっさにお互いに手を掴んでいた。
 ポッと目の前に光が灯る。

「おやおや。仲の良い事で」
 男の声があたりに響いた。

「何処にいるのよ。姿を現しなさい!」
 叫びが闇に木霊する。

「クククッ……。ここだよ」
 嫌な笑いが傍で聞こえた。
 どうしようもない不安が広がる。

「貴夜。下」
 闘華が足元を見ながら冷静に私に言った。

「な……によ。これ?」
 そこには光に照らされた影があった。
 私たちの影と、もう一つあるはずの無い影。
 視線を影の元に伝っていくが、そこには闇の空間が広がるばかり。
 光がゆらりと揺れると同時に影も同じく揺れる。

「何ってこれが研究所が作った僕の姿さ。紗屡夢の様に不完全な姿だけどね」
「研究所……?」

 呟いた私の声に彼は言う。
「そう、研究所のおかげで
 紗屡夢は光の力を。僕…紗覇屡(シャハル)は闇の力を手に入れた」

「……!!研究所はあんた達のような物まで作ってたのか?」
 驚きの声を上げる闘華にあざける声が答える。

「実験動物として―いや。兵器としてかな。僕達は作られた。
 君と同じようにね」

 影が指差す先には闘華がいる。

「兵器?」

 私から顔をそむける闘華。
 不気味な声だけがあたりに木霊する。

「そう、最適な殺人手段。あらゆる兵器の使用法と応用。
 全ての情報が頭の中にインプットされている。
 そして―殺す事が快楽」

 ビクリと闘華の体が震える。


「そうだろう?闘華?」


 威圧感のある声。
 まるで命令するかのような。

「闘華?」
 闘華の手がするりと離される。
 その瞳は赤く―出逢った時の様に冷たい。

「闘華!!」
 私の声が聞こえないのか、闘華が大地の力を私に使う。
 小石が私に向かって鋭く投げられる。
 氷が私を守るように壁を作った。

「紗覇屡!!闘華に何をしたの!?」
 影に向かって叫ぶ。

「何も、ただプログラムを実行させてるだけよ。クククッ」
 はっと気づくと氷の壁を突き破って小石が飛んでくる。

「っつ!!」
 と、同時に炎が闘華に向かう。

「だめーーーーー!!」
 私はとっさにそれを止めた。
 闘華を傷つける訳にはいかない。

「風。闘華を抑えて」
 が、闘華の力の方が強くて抑えられない。

 嫌だ。いや。闘華と戦うなんてイヤ……
 小石が飛んでくるのも構わず私は闘華に向かう。


「闘華!!」


 その手を伸ばして、闘華に触れる直前。



「貴夜!!」

 闘華が私を庇う様に覆い被さる。
 赤い赤い華が闇に散った。


 全てがスローモーションのようで
 とても長い夢のようで

 そして刹那の事だった




「と……闘華?」
 呆然と問う声に微かに顔が上がった。

「よかっ…た。…無事…で」
 呼吸は荒く、息を吐くごとに胸が上下する。
 背にはべったりと血が付いていた。

「何?…どうして?」
 頭が混乱してる。
 冷静にならなきゃと思えば思うほど困惑が広がる。

「しくじったみたいだね。最初に君を狙うはずだったのに」
 目の前の影がゆらりと揺れた。
 頭の中で何かが(うごめ)く。

「怒ってるのかい?大丈夫。すぐ君も……」
 光が広がる―

「なっ……」
 七色に輝いてあたりの闇を蹴散らして――

「なるほどね。全て…コマを最初……操…て……」

 声がやみの彼方から微かに届く。

「君……の……」

 闇が消えた後には―
 私は振り返り闘華に駆け寄る。


「―――闘華ぁぁ――――――――」


 叫びは虚しく空を舞い、
 抱きしめた躯は冷たく
 頬を伝う涙が心に凍みる。



 風が戸惑い肌を擽る。
 水が優しく頬に触れる。
 炎が迷いながら見つめる。
 大地が静かに慰める。


 夜になって星が瞬き始めた頃、
 私は大地に闘華を還した。

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