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30.ケルベロス

 しばらく森を進んでいくと、次第に荒れ模様が変化していった。
 不思議なことに、木々の緑が増えていったのだ。
 プラムに調べてもらうと、どうやらこの辺りの環境は極めて特殊らしく、植物の成長が異常に速くなっているらしい。
 その影響で破壊された緑が再生し、元の姿へ戻ろうとしているようだ。
 さらに奥へ進んでしまえば、視界を遮るくらいの緑が復活していた。
 
 そしてこの辺りからだろう。
 俺とプラムは、俺たちを観察している視線に気付いていた。
 誘い出すためにあえて気付かないフリをして進んだが、十分ほど経過しても襲ってくる気配はない。

「敵じゃないのか?」

「まだわからぬぞ。視線の中には敵意も感じ取れるのじゃ。警戒を怠るでない」

「了解」

 俺はプラムと小声で話し、さり気なくルリアを守れるように配慮しながら進んだ。

「プラム」

「うむ、視線が変わったのう」

「えっ何? どうしたの?」

 俺たちは立ち止まった。
 急に視線の敵意が強くなり、ものすごい勢いで接近してきている。

「来るぞ!」

 プラムが叫んだ。
 その直後、強靭な牙をもつ獣が俺たちに襲い掛かってきた。
 俺はルリアを抱きかかえ、プラムと一緒に後方へ跳び避ける。
 衝撃で舞い上がった土煙が薄れていくにつれ、恐ろしい姿が露になる。
 その獣には黒い毛並みの狼の頭が、一つの胴体に三つのっている。

「ケルベロスじゃな」

「魔王軍が使役してた大魔獣か」

 以前に一度だけ、シンクたちと一緒に戦ったことがある。
 ケルベロスは魔王軍によって強化されていて、野生の個体よりも素早く、特殊な攻撃を使ってくる。
 勇者であるシンクでも、苦戦を強いられた強敵だ。

「プラム、ルリアを頼めるか」

「ワシがやってもよいのじゃぞ?」

「いいや俺がやる。俺がやりたいんだ」

「ふっ、ならば任せよう。気を抜くなよ」

「そっちもな」

 プラムにルリアを頼んだ俺は、ケルベロスのほうへ目を向けた。
 唸りながら威嚇している様を見ていると、かつて感じた恐怖を思い出した。
 あの時の俺は弱くて、シンクたちの足手纏いにしかなってなかった。
 だけど―― 

「今の俺は違うぜ! さぁかかってこいよ!」

 俺の挑発に応じるように、ケルベロスは強く地面を蹴って突っ込んできた。
 両脚から伸びる鋭い爪でひっかくように攻撃してくる。
 俺はその攻撃を横に跳んで回避して、自身も攻撃に転じようとした。

「いない!?」

 しかし回避で一瞬目を離した隙に、ケルベロスの巨体は視界から消えていた。
 次に捉えたときには、俺の右側へ移動していて、そこからもう一度飛び掛って攻撃してくる。
 今度も横に飛び避けたつもりが完全な回避が間に合わず、前に構えた両腕に鋭い爪が痕を残した。

「ぐっ――『等活』!」

 すかさずスキルを発動し、受けたダメージを返す。
 相手が人型でない場合、類似した場所にダメージは返される。
 ケルベロスの両前脚に、俺と同じ爪痕が浮かび上がった。
 それにより一瞬怯みはしたものの、以前素早い動きは衰えなかった。
 眼でギリギリ追うことができる速度で、俺の周りを縦横無尽に駆け回っていく。

 くそっ、不用意に攻めてこなくなったぞ。
 まさかさっきの発動で勘付かれたか?
 俊敏に動き回って俺の視界から外れようとしてやがる。
 あの動き……明らかに俺の隙を伺ってる動きだぞ。
 
 俺のスキル『等活』は、当たり前だが発動させなければ効果を発揮できない。
 つまり俺が一撃で死んでしまえばダメージを返せないのだ。
 首でも食いちぎられたら即死だ。
 そうなる前に、この素早い魔物を捕らえなければならない。

「だったらあれを使うか」

 俺はあえて大きな隙をつくった。
 強大な力を持つケルベロスも、所詮は獣でしかない。
 明らかな隙ができれば、そこを目掛けて飛び込んでくる。
 そして予想通り、俺が見せた隙をつき、背後から強靭な顎を開いて襲いかかってきた。

「『異異回転(いいかいてん)』!」

 相手と自分の位置を入れ替えるスキルを発動。
 それによってケルベロスは勢いよく地面を抉った。
 突然視界が変化したことによる混乱で、コンマ数秒の隙が生まれる。
 その隙を今度は俺が見逃さない。
 入れ替わったことで背後についた俺は、右手をケルベロスに向けてかざす。

「『黒縄(こくじょう)』」

 俺の腕から漆黒の縄が伸びる。
 縄はケルベロスの胴体や首に巻きつき締め付けた。
 そして締め付けた部位がドロドロに溶けていく。

 激痛で悲鳴をあげるケルベロス。

 八大地獄第二のスキル『黒縄』。
 このスキルで生成された縄には、あらゆる物質を溶かす高熱が付与さており、拘束した部位をドロドロに溶解してしまう。
 一度絡まってしまえば最後、身体がバラバラになっていくのを止めることはできない。
 
 目の前のケルベロスのように――

「二人とも終わったぞ」

「凶悪なスキルじゃな」 

「私……ちょっとだけケルベロスに同情しちゃったよ」

 さっきまで元気に走り回っていた魔獣は、首と胴体が切り離され、その胴体もさらに分裂しているという。
 見るも無残な姿に変貌していた。
 さすがにこの光景は、ルリアにはよくなかったかな。
 と、反省をしつつ、俺は別の場所に目を向けた。

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