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28.国境線を超えて

 嘘で塗り固められた街、グロールでの戦いを終えた俺たちは、次なる目的地に向けて歩いていた。
 あれから数箇所の街を巡り、今までと同じように救ったり滅ぼしたりして、かれこれ二週間は経ったはずだ。
 ここまで来ると慣れも生じてきて、劇的な毎日であることは事実なのに、代わり映えなさを感じてしまう自分がいた。
 そんな代わり映えのない日々に、ある変化が起きていた。

「……おいルリア、さすがにくっつきすぎだろ」

「えぇ~」

「えぇ~じゃない。そんな感じで腕に絡まれると歩きにくいんだよ」

「いいでしょこれくらい。それにこっちのほうが守りやすいじゃん」

 勇者シンクの妹ルリア。
 彼女は兄を殺された恨みから、俺に対して敵意を向けていた。
 一緒に旅を始めてからも、ツンツン刺々しい態度ばかりとっていた。
 それがグロールでの一件を経て、さらには連日の戦いも影響し、その態度が軟化していった。

 結果、彼女はデレた。

 口を開けば罵声を吐き散らしていた彼女が、今ではニコニコしながら俺の腕に絡まっている。
 何度も俺の名前を連呼したり、必要以上に身体を擦り付けてきたりもする。
 宿屋も別が良いとわめいていたけど、最近は一緒じゃなきゃ嫌だと駄々をこねる始末だ。

「ルーク」

「何だ?」

「えっへへ、何でもない。呼んでみただけ」

 明らかな敵意を向けていた彼女が、あからさまな好意を現している。
 この変わりようには、さすがの俺も若干引いている。
 そして、そんな彼女を見ていてわかったこともあった。

 ルリアは馬鹿だ。

 しかも確実に人生で失敗するタイプの馬鹿だ。
 もともとこういう性格だったのだろうか。
 シンクからは細かく聞いていなかったけど、彼がいつも心配していた理由がこれなら納得がいく。
 どんな恨みや怒りを抱いても、きっかけさえあれば簡単になびいてしまう。
 それは彼女の優しさや素直さの象徴であると同時に、騙され利用されやすいという危うさでもある。

「……やれやれ、とんだ拾い物をしちゃったな」

「ん? 何か言った?」

「なんでもないよ」

 ああ……でも、やっぱり放ってはおけないな。
 多少の後悔はしてるけど、見捨てたくないって気持ちのほうが強い。
 そしてきっと、こんな感情をシンクたちは抱いていたんだと理解した。
 今のルリアとかつての俺はよく似ているんだ。
 だからこそ、放っておけないのかもしれない。
 自己愛というやつか、もしも今の俺がかつてのままだったら、きっと痛々しくて見ていられなかっただろう。
 変わることができたから、こうして愛おしく見ていられるんだと思う。
 
 そんなことをしみじみと考えながら、俺たちは街道を進んだ。

「ねぇ、あれって……」

 ルリアが気付いた。
 街道を進んだ先に、一階建ての石レンガで造られた建造物があった。
 まるで小さな門のように、真ん中が通れるように吹き抜けている。

「そう、あそこが国境だ」

「やっぱり! じゃああれが関所なんだね」

 俺たちは関所に近づいた。
 ここから向こう側は、王国の領地ではなくなる。
 本来なら管理者がいて、定められた手順をふまないと超えられないのだが……。

「誰もおらんではないか」

 プラムが俺の影から現れそう言った。
 関所に人の気配はない。
 魔王軍が待ち伏せている、というわけでもないようだ。
 とはいえ荒らされた形跡は残っている。
 屋根が半壊していて、壁や床には抉られた痕もある。

「もう殺されてるな」

「……」

「まっ、当然かのう」

 王国に侵攻していた魔王軍は、今日までの戦いで全て排除することができた。
 この国で俺がやるべきことはもう終わったのだ。
 俺は床に落ちていた用紙に自分の名前を書いた。
 続けてルリアも書いて、プラムも流れにのってそうした。
 俺たちは簡易的に手順を済ませ、亡くなった人たちに敬意を払いつつ、国境線ギリギリに立った。
 そしてプラムが言う。

「ここから先はもっと厳しい旅になるぞ。覚悟はできておるな?」

「覚悟なら十万年以上前から出来ているよ」

「私はルークについていく! 何があっても離れないからね!」

 俺は二人の顔を見て、その眼に迷いがないことを確かめた。

「それじゃ――行こうか」

 そうして俺たちは国境線を踏み越えた。

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