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11.焦熱/大焦熱地獄

 俺は四つ目と五つ目の形相を超えた。
 本当に奇跡としか言いようがない。
 これは予想でしかないけど、おそらく先人たちはこの地獄でリタイアしたんだと思う。
 それほど拷問の質が一気に跳ね上がった。
 
 もし、これを奇跡じゃないとするならば……。
 俺の中に、シンクたちとの思い出が残っていたからだろう。
 どれだけ精神が磨り減り変貌しても、心の奥底にはちゃんと残っている。
 俺は何のためにここへ来たのか。
 その理由を見失わない限り、俺が諦めることはない。
 
 俺は自分にそう言い聞かせながら、次の形相へと落下した。

 【焦熱地獄】の拷問は、二つ目の形相【黒縄地獄】に似ていた。
 熱せられた鉄板の上に放り投げられ、四肢をバラバラに切り刻まれ、それぞれが炎で焼かれるというものだ。
 違うのはやはり炎の強さ、これまで浴びせられた熱や炎が、まるで雪のように冷たく感じられるほどだった。
 ここでの寿命は一万六千歳である。
 在獄期間は最初と比べ物にならないほど長くなっていた。
 だが、さっきの形相を抜けた経験からか、今回の拷問はそれほど辛く感じられない。
 もちろん拷問はキツイものなんだけど、耐えられないと感じるほどではなかった。
 
 続く【大焦熱地獄】では、一つ前の形相とまったく同じ拷問を受けるのだが、更なる極熱で焼かれて焦げることになった。
 寿命はなんと三万二千歳。
 炎の強さは焦熱の十倍、期間は二倍だ。
 しかしこれも耐えられないとは感じなかった。
 俺が思うに、一番のピークは【叫喚地獄】だったのではないか?
 あの形相を境に、拷問の質が跳ね上がったわけで、俺はそれにも耐え抜いた。
 この拷問を乗り切れば、残る形相は最下層の【無間地獄】のみ。
 ここまでこれた俺ならば、必ず耐えぬけられる!

 まるで確信したようにそう思っていた。
 この考えがどれだけ甘いのか。
 地獄の最下層が、どれほど恐ろしく無慈悲な場所なのかを知らなかった。
 それを知って後悔するまで、まだ何千年も時間がかかる。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 ルークが七つ目の形相に挑んでいる最中、現世でも大きな動きがあった。
 以前から囁かれていたあの噂が、どうやら確定してしまったらしいのだ。

「今日で七日……か」

 ワシは地下室で呪具を眺めながら呟いた。
 実はこうして悠長に待っていられるのも、あと三日になってしまった。
 魔王軍の侵攻が噂ではなく事実と確定し、王国へ向かって確実に距離をつめているのだ。
 ワシの想定では、早ければ残り三日でここへ到達する。
 仮にルークが試練を乗り越えても、この国が滅んでしまえば最後じゃ。

「じゃから早う戻って来るのじゃ」

 ワシの声はあ奴には届かない。
 祈るだけしかできないのじゃ。

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