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10.叫喚/大叫喚地獄

 ワシの存在を知る者は、ルークを以外にはおらぬ。
 行動できる時間帯も、呪具の影響でこの娘が寝入る夜に限定されておる。
 あ奴が地獄へ旅立ってから三日目の夜が今じゃ。
 ワシは毎晩、この地下室に訪れて呪具を見張っておる。

「首尾よく進んでおれば、じきに四つ目の形相に到着しておる頃合じゃのう……」

 ワシの予測からすると、最初の三つの形相はまだ緩い。
 おそらく本当の地獄はそこからじゃ。
 気張れよ……小僧。
 できれば最短時間で戻ってきてもらいたいところじゃ。
 というのも、勇者パーティー全滅によって勢いづいた魔王軍が、この国に侵攻しているという噂が流れておるのじゃ。
 まだ確定ではないが、もし現状で攻め込まれればこの国は終わる。
 生き残れる可能性は――

「主だけじゃぞ」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 衆合地獄を超えた俺は、次なる形相に向けて落下していった。
 あの拷問の影響で、異様に女性という存在が怖くなったよ。
 いや、女性だけじゃなくて、他人を信じられなくなりそうだった。
 シンクたちと出会ってなければ、きっと疑心暗鬼になって終わってたんだろうな。

「それにしても長い……」

 移動時間はさらに増すばかりだった。
 四つ目ともなると、移動だけで数百年以上必要になるらしい。
 そうして次なる形相、【叫喚地獄】に落ちた。
 
 そして拷問はすぐに開始された。

「うっ、あああぁぁぁああ熱い……ぐああぁ……」

 落下地点には大きな釜が設置されていて、俺は熱せられた液体の中に入った。
 その熱は、黒縄地獄で受けた鉄板の熱が冷たく感じられるほどで、俺の全身はものの数秒で溶けた。
 当然溶けた後も肉体は復活し、さらに釜の中で熱せられる。
 釜から出ようと試みても、赤い服を着た巨大な獄卒が罪人を追い回して弓矢で射る。焼けた鉄の地面を走らされ、鉄の棒で打ち砕かれる。
 といった更なる拷問に課せられてしまう。

 これが【叫喚地獄】、酒に溺れた者や、酒に毒を入れて殺しを働いた者が落ちる形相。
 ここでの寿命は四千年。

 そして、続く【大叫喚地獄】では、まったく同じ拷問を受けるのだが……。

 その暑さは、叫喚地獄の比ではなかった。
 どう表現すればいいのか、後になってわからない。
 ここまでの地獄が天国に感じられるようだった。
 それが八千年も続いたのだ。
 前の地獄から合算して、俺は一万二千年もの間、巨大な釜で茹でられていた。

 終わることには身体だけじゃなくて、魂までも溶かされてしまいそうだった。
 このとき俺は、どうして先代の挑戦者たちが失敗したのか理解した。
 未だ形相は五つ目で、この後も地獄は続いていく。
 それも上の形相よりも過酷で、長い時間を耐え抜かなければならない。
 とてもじゃないけど、まともな精神状態ではいられない。

 俺が乗り越えられたのは、奇跡としか言いようがなかった。

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