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5.地獄巡り

「プラム……真祖?」

「うむ、そうじゃ。畏れるがよい人間!」

「……」

「むぅ……その顔は信じておらぬな?」

「いや、信じるも何も……よくわからなくて……。真祖なんて言葉も初めて聞いたし」

「あー、なんじゃそういうことか。まぁ仕方ないじゃろ。ワシがこうなってから三百年は経過しておるわけじゃし」

「三百年!?」

 一体何の話をしているのか、僕には理解できなかった。
 だけど、理解のできない何かが起きている……そんな予感はしていた。

「そう警戒するでないぞ。ワシはお主の敵ではない。むしろ味方じゃ」

「味方……?」

「そうじゃ。のう……主よ、魔王に復讐したいとは思わぬか?」

「っ――!!」

 彼女の言葉が、僕の胸に鋭く突き刺さったような気がした。

「主の仲間を殺したにっくき魔王を……この手で滅ぼしたいと――そうは思わぬか?」

 畳み掛ける言葉が、くすぶっていた感情を刺激していく。
 シンクたちへの贖罪、彼らを殺した魔王への憎しみ、そして何もできなかった自分の弱さへの怒り。
 様々な感情が大きな釜でかき回されているような感覚。

「……でも僕じゃ……」

「違う。そんな答えは必要ない。復讐したいと思うのか、思わないのか――どちらかを選べ!」

 プラムは力強く、真剣な眼差しで見つめながら尋ねてきた。
 彼女の質問に対する回答……そんなの決まっているだろう?

「思うよ。僕は魔王を許せない!」

「うむ、良い答えじゃ」

「だけど僕は弱いんだ。復讐したくても、僕の力じゃ届かないよ」

「知っておるよ。じゃからワシが協力してやろう」

 そう言ってプラムはどや顔をした。

「ついてくるのじゃ」

 そして彼女は僕のほうへ歩いてきた。
 そのまま僕を通りすぎて、さらに進んでいく。
 ついてこいと言われたので、僕はその通りに彼女の後を追った。
 彼女が向かった先は王城だった。
 すでに時刻は零時を過ぎていて、見回りの衛兵の数も減っている。
 僕たちは衛兵の目を盗み、地下室へ続く階段へ移動した。

「こっちじゃ」

「この先って地下室だよね? 確かいろんな書物とかが保管されてる」

「よく知っておるのう。ああ、国王の小僧に聞いたか」

「小僧って……陛下のほうが年上じゃ……」

「何を言っておるのじゃ? ワシは当の昔に二千歳を超えておるぞ?」

「えっ……」

「言っておくが嘘ではないぞ? 言ったじゃろ、ワシは真祖じゃと。真祖は現代で亜人や魔族と呼ばれている種族の祖。やつらの遺伝子も、元を辿ればワシの一族に繋がるのじゃ」

「そ、そうなんだ……じゃあ人間は?」

「人間は別じゃ。あれは――っと、もう到着したぞ」

 話の途中でプラムは立ち止まった。
 到着したというけど、目の前にあるのは壁だけだ。

「行き止まり?」

「いいや、この先にあるんじゃよ」

 そう言い、プラムが壁に触れた。
 すると壁一面に巨大な魔法陣が現れ、地響きと共に真ん中が割れていった。
 その先は暗くてよく見えないけど、廊下があって奥に続いているようだ。

「隠し通路……」

「そういうことじゃ。ほれ、そんな所につってないで入るぞ」

 プラムが暗闇に消えていく。
 僕も慌てて後を追った。
 廊下は明りもなく真っ暗で、かすかに見えるプラムの後姿だけを頼りに進んだ。
 そして――

「ここじゃ」

 暗闇の先には一つだけ部屋があった。
 廊下とは違って、青白く光るランプが設置されている。
 中央には台座のようなものがあって、その上には黒い小さな箱が置いてあった。

「何だ……これ――」

 外見は真っ黒の小さな箱だ。
 だけど、確実にただの箱じゃないとわかった。
 見ているだけで気力が抜き取られていくようだ。
 もし触れようものなら、一瞬で命を奪われてしまうのではないかと錯覚するほど、その存在感は異常だった。

「これは入り口じゃ。地獄の試練への入り口なんじゃよ」

「地獄の試練?」

「比喩ではないぞ。文字通り、地獄へ通じておるからのう……。主は八大地獄という言葉を知っておるか?」

「えっと、確か……生前に犯した罪によって、八段階の地獄へ送られるって言うあれ?」

「まぁ正解じゃよ。八大地獄へ向かい、その全てを超え耐え抜いた者に力を授ける――それが【地獄巡り】という試練なのじゃ」

 プラムの説明に、僕は首を傾げた。
 そもそも地獄なんて場所が存在するのか?
 地獄巡り?
 耐え抜くって、力って何だよ。

「要するに、生きた身で地獄へ落ち、八つの拷問に耐え抜き生還すれば、強力なスキルが手に入るということじゃよ」

「なる……ほど? じゃあこの箱は、魔道具か何かなの?」

「魔道具ではない。どちらかといえば呪具じゃ」

「呪の道具ってこと!? そんな物がどうして王城の地下に?」

「それは後で説明してやる。じゃがその前に、主の覚悟を聞かせてもらおうか?」

 プラムはそう言いながら僕を見た。

「主よ……この試練を受ける覚悟はあるか?」

「もちろんあるよ! それで強くなれるなら!」

「失敗すれば、二度と戻ってこれないとしても?」

「うっ……」

 僕はすぐに答えられなかった。
 こういうとき、自分の心の弱さを実感させられる。
 さらに彼女は、追い討ちをかけるように続ける。

「最初に言っておくが、かつてこの試練に挑んだ者が六人おる。その全員が失敗し、二度と帰ってくることはなかった」

「そんな……」

「ワシも試練の詳しい内容は知らぬ。じゃがこれだけはハッキリと言える。もし試練に失敗すれば、主は地獄から逃れられない。何千、何万年もの間……地獄の拷問を受け続けることになるじゃろう」

 僕はごくりと息を飲んだ。
 地獄の拷問なんて知らないし、想像もできない。
 だけど、そう言っている彼女の表情は深刻で、本気だった。
 きっと想像を絶する苦しみを受け続けることになるんだろう。
 いや、そもそも試練を受けるということは……地獄に行くということは、そういう意味なんだろう。

「もう一度聞くぞ? 主に――地獄へおちる覚悟はあるか?」

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