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3.優しい嘘

 僕はシンクたちと再会した。
 考えられる中で、もっとも最悪な形で――

「あっ……あぁ……」

 僕は恐怖で足が竦んでしまった。
 全身から冷たい汗が止まらない。
 寒くもないはずなのに、身体がブルブル震えて止まってくれない。
 呼吸もゼーゼーいって苦しくなってきた。
 頭が回る……おかしくなりそうだ。

「落ち着くのだ! ルークよ!」

「はぁ……はぁ……」

 ほんの二分くらいだったと思う。
 いろんな症状が一気に押し寄せてきて、疲れたように膝が崩れた。
 まだ汗は止まらないし、呼吸も苦しいままだけど、少しだけ治まったような気がする。

「無理もない。仲間の死を前にして、平然としていられる方がおかしいのだ」

「僕は……僕は……」

「何も言うな。自分を責める必要はない。逃げたことも恥ではないのだ」

 王様はそう言って僕を励ましてくれた。
 後でわかったことだけど、どうやら王様は僕が皆と一緒に魔王と戦って、なんとか逃げ残ったのだと勘違いしているらしい。
 ここで訂正できればよかったんだけど、そんな余裕も勇気もなかった。
 ただ、現実の残酷さに打ちのめされ、何もできなかった。

「ゆっくりと休むが良い。これからのことは、また考えるとしよう」

 一人で立ち上がれない僕を、衛兵が担いで部屋まで運んでくれた。
 王様が用意してくれた部屋はとても豪華で、ベッドもふかふかで気持ち良いものだった。
 普段ならすぐに寝入ってしまう僕も、この時ばかりは違った。
 悲しいと感じるより、信じられないという気持ちが膨れ上がって涙も出ない。
 横になっても眠れない。
 休もうにも休めないし、そもそも休みたいとも思えなかった。
 目を瞑ると、無残な姿になった彼らの顔が浮かんでしまう。
 衝撃的な光景が、僕の瞼に張り付いて消えてくれない。
 目を瞑れば何度でも、何回でも見えてしまう。
 血の気が引いて、彫刻のように硬くなった彼らの頭……そして、耳元につけられたピアスに気付いた。

「あれは……あのピアスは……」

 そうだ――

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「何作ってるんだ?」

「あっ、シンク。ちょっとしたアクセサリーだよ。綺麗な石があったから」

「へぇ~ ルークは器用だな。そうだ! それ俺たちの分も作ってくれよ!」

「えっ、いいけど……どうして?」

「仲間の証だよ。そういうのあってもいいかなって」

 シンクは照れくさそうに言った。
 そんな彼を見て、一緒にいたマリアとロードが笑った。

「ふふっ、それいいわね。私からもお願いできるかしら?」

「少し恥ずかしい……が、まぁいいだろう」

 二人もそう言ったので、僕はみんなの分も作った。
 ただの石を材料にしてから、何の効果もないただのピアスだ。
 魔王討伐には不要のガラクタを、みんなは嬉しそうに付けてくれた。

「仲間の証……」

「そうだ! これを付けている限り、俺たちは仲間だからな!」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 彼らが身につけていたピアスは、旅の途中で僕が作ったものだ。
 僕も同じものをつけている。
 追放されてからもずっと……そして、皆もそうだった。

 ああ、そうだったんだ。
 やっとわかったよ。
 どうして急に冷たくなったのか、何で僕を追放したのか――

「僕を……守るため……だったのか」

 いつも優しかった彼らは、最後まで優しかったんだ。
 僕は足手まといで、あのまま旅を続けて魔王と戦えば、確実に死んでいただろう。
 それがわかっていたから、皆は僕を遠ざけたんだ。
 最後の最後まで、僕を仲間だと思ってくれていたんだ。
 そうじゃなきゃ、こんな僕と一緒で役に立たないピアスなんて、とっくの昔に捨てているはずだ。
 何で、何ですぐに気付けなかったんだ。
 どうして僕は生き残ってしまったんだよ。

「皆……みんっ……うぅ……」

 大雨のように涙がこぼれた。
 追放されたときに流した涙は、もっと冷たくて痛かった。
 今流れている涙はもっと痛い。
 痛くて、辛くて、悲しくて……暖かい。
 涙を流している間、彼らとの思い出が、まるで走馬灯のように脳裏に映し出された。
 辛いこともたくさんあった……けど楽しかった。
 皆がいたから、この旅は楽しかった。
 あふれ出る涙の暖かさが、そうだったと言い聞かせてくるようだ。
 
 僕は最後に彼らと交わした言葉を思い出した。
 あのときは気付かなかった。
 ただ否定されて、置いていかれただけだと思っていた。
 だけど本当は、全部嘘だったんだ。
 
 彼らが僕に残した言葉は優しい嘘だった。
 受け取った僕ですら、聞き間違えだと思えるほど辛い一言だったけど……。

 とても優しくて――悲しい嘘だった。
 

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