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さくらまじまじ甘えがち2

――宮津さんが部屋に遊びに来た日を覚えて居る。何故なら、花の春を迎えて、まだ朝は気温の低い春を待つ2月の終わり。寒くて布団の中で足を擦り合わせようとしたら、何かに絡まった。反射的に飛び起きたら、俺と同じ顔が隣で寝て居る。まさかだ、俺は双子の兄・郁(いく)といたしたのか?

「おはよう、英。寒かったから抱き締め合って寝ようかと」
「ぼけ。俺はあんたに何かされたかと思って、心臓が」

郁に右の胸を押された。
そう。俺の心臓は右にある。一卵性双生児で生まれた郁は左、俺は映し鏡のように心臓が逆にある。これが先天性の病気として「20歳までは生きられ無い」と医者に宣告されたのが4歳だった。絶望はしなかった。そうなのか、じゃあ、20歳までは生きられる確定かなと曲解した。

別に不幸とは思わない、EDと診断された郁の方が気の毒だ。一卵性の双子とはリスクを背負って生まれるらしい。郁は親元を離れて俺と暮らしながら治療をすすめている。

「英、奇麗な顔して『あんた』は無いぞ? 暴言が目に余る。自暴自棄はよくない」
同じ顔のくせに奇麗・と言った。ナルシストに成らないよう祈る。

「治療はどう?」
すぐに治るものでも無いらしいが。これも先天性。
「薬を飲むより実践じゃね?」

淫らだが、そうかも。じいのし過ぎには注意と言われたとのことで、思春期は葛藤して居るのが側で見て居て分かったから、抑圧するより解放した方がいいとは思う。お薬も副作用があり眠気を誘うし。ああ、だから俺のベッドへ潜りこんだか。……人肌を求めるなら、お外へ行け。

「フジッリのサラダ食べたいなあ」

ぼんやりして、俺のカールの髪を見て思っただけだろ。螺旋状のショートパスタは常備して居ないぞ。

「ああ、そうそう。今日はお客さんを呼んだんだ。お風呂入ろうっと」
あのマイペース。同居して居る俺に一言相談しろ。もう、今日は室内着で過ごそうと思ったのに、お客さんが来るのなら身支度しなくては。
あ、おもてなしに料理を拵えないと。今日の御飯担当は俺だ。

「郁、何を作ればいい?」
「そうだなあ。先ず、タオル取って」
裸で現れず下着は履いて出てくれ。いくら身内でも品が無い。タオルくらい持っていけ。本当にだらしない。

「まさか。お客さんの前で、そんな恰好をして無いだろうな」
「オレはそこまで落ちて無い。献立は有り合わせでいいよ、残り物でサーモンがあったろ」
明日へ残す食材を買うなと言うのに。

「それでサーモンアボカド丼とかさ。そうそう、今日来る子なあ、オレたちと同じで名前が訓読みするとアヤなんだ」
へえ、何だかかわいい子のイメージ。
「背はオレたちより10センチ以上低いかなあ」
おお、それでも結構あるな。俺は178センチ。モデル張りの子が来るのか?
「それに年上」
いいじゃないか。
「だが、男」
そっち?


ほどなくして宮津さんが現れた。初見では、特徴の無い顔だが髪型が拘って居て、前髪重めのウースマッシュで赤褐色のハイライト。ショップのスタッフをして居ると聞いて納得した。しかし、変わった服をお召しだな。ワンピースに見えるがまさかだろう。

「弟の英、な、よく似てるだろ」
兄とか弟って、届け出でも書いて無いから。あんたが後から生まれただけ。
「顎のとがった奇麗どころだなあ。へえ、これは凄い、いずれ劣らぬ眩しい美貌だ。神様が作られた奇跡を目の当たりにするよ。それで? お付き合いする人も似てるのかい?」
それは全然違うな。好みが違うから、同じ人を好きになったことが無い。しかし、双子ということでの驚きは無さそう? この人、視点が違うのかな。
「初めての……ファーストキスの相手ってどんな人?」
嫌な話題。
「兄弟だよなっ! おまえが好奇心丸出しで迫ったんだ」
「違う。母さんにのせられて写真を撮ったんだよ。忘れろって。5歳の誕生日だろ」
「覚えて居たか、嬉しいぞ。はい、ハッピバースデー・あーきちゃーん。23歳のお誕生日おめでとうっ」
はああ? 同じ誕生日だろ。何をくれたんだ。
「ありがとう。開けていい?」と袋から出すとサイズ大きめのニット。しかもアシンメトリー、モード系か。……あまり着ない系統なんだが。
「宮津さんが勤める『スケルトンハニー』で買ったんだ。ほら、駅前のゴスロリショップの隣のお店」
知らん。
「でも、ありがとう」と腕を引っ張り、顔を寄せてキスする振りをした。冗談だったのに、キスされて平手打ちした。
「ひどい、この弟。慰めてくれ」
「よーしよし。アハハ」
ふうん。ぼけの郁に、いいリズムで会話をする人だなあ。

「お食事の準備がしてあります」
並べて居ると宮津さんが袋を取り出し、その中身が零れたので拾ったが、落ちた食パンより、宮津さんの足にある青あざに驚いた。
「有難う。……ああ、これなら平気。寝ているときに壁にぶつけたらしくて。アハハ」
いいの? 痛く無いのかな。
「誰しも脛に傷あり・と言うじゃ無いか、なあ!」
意味が違うから。
「手土産に、デイジーさんのクロワッサンBCと焼きカレーパン持ってきたよ」

「ありがとう」「ありがとうございます」

「声が揃うんだ、ふーん、気が合うんだね」
双子だからありがちなんだけど、あまり驚かれ無いな。興味が無いとか?
「食べて、沢山あるんだ」
焼きカレーパンをいただく、玉ねぎ多めらしく甘くて美味。スパイスが効いて居るが、くどく無く食が進んで1個平らげた。
「ごちそうさまです」
クロワッサンBCの方は、クロワッサン生地の中にアーモンドケーキが入って居ると言う。郁がマッシュルームみたいな形のそれを半分に割って見せた。ふうん、人気がありそう。
「甘いものが好きなんだ。舌がお子様なんだよ」
へえ? だから、カレーパンでも甘い味。これならお子さんでもいけるかな。

「コーヒーあるから飲めば? 英がいれたんだ」
なんか、躊躇して居るな。コーヒーが苦手なんじゃないか?
「おう、そういえば、いただき物の甘味があり」
和菓子だったよな。もしかして豆類がだめとか? アレルギーかも知れない。無理に勧めたらよくないぞ。
「あとな、グレープフルーツがあるんだ。これさあ、手で剥いた方が美味しいんだよな」
足に青あざのある人だよ。痛み止めを飲んで居たらグレープフルーツは相性が悪い。もう、郁を止めないと。あ、飛沫が。

「宮津さん、俺の部屋を観ませんか。インテリアに拘って居て」
さりげなく連れ出す。郁はデリカシーが無いからな。俺の部屋はリビングと同じで北欧風の家具だが、色合いに拘って居る。タモ天然木無垢のダークブラウン系パソコンデスクとか。もしも趣味が同じだったら楽しめるかな。

「俺のシャツでよければ着替えてください、くつろいでいる間に洗濯します。果汁はシミになりやすいので」
1枚手渡そうとしたが「果汁は飛んでないから平気」と断られる。

「あきちゃん、サラリーマンだって?」
俺のことを話したんだな。
「僕は目より口のほうが大きいから、会話が生業になる接客業が向いて居ると上司から言われてる」
ああ、言われてみたらお口が大きいけど。つぶらな瞳ってやつか。
しかし、初見だ。俺と郁を見比べず、『双子』とも驚かない人。同じ顔だろう? 不思議じゃないのかな。何も聞かなかった。これがかえって、俺の気を引いている。


スマホを手放さず、画面を目で追う宮津さんに話しかける隙も無い。手持無沙汰でどうしたものか。
「あきちゃん。会社の人もSNSをやったりするの? なに目的?」
呟くだけだけど。妙なことを聞くなあ。
「普段、思うこととかですね」
「かっこつけたり?」

何か、へんてこな人だな。気取ってはいないが、著名人をフォローして、ツイートにコメントを付けてRTしたら遥か遠くまで飛ばされたことがある。言葉に気をつけねばと感じた。

「いつの時代でも、心は正しく誠がなければ滅びていくと思うんです。偽らざる思いで人と接したいと心がけていますが」

これが正しいのかは分からない。あなたを見ていると違う気がする。相手を見て、態度を変える自分が透けて見えそう。より良い態度で、と自分では心がけて居たが、それこそ第三者から見たら自分を見失ったもの。自己が無い。

「共感するよ。人を欺けば当然、自分も欺かれる。誠実をもって人と接するのが正しいと思う」
同じ感性かな?
「でも、世間は嘘がまかり通る。SNSって便利な交流ツールだけど、フェイクばかり、それが受ける世の中で息詰まる。ぼくは嘘をつかない人がいい。きみも挫けないようにね」
どういうこと。
「真面目過ぎると、全部を正直に受け止めて、心が疲弊するからさ。嘘にまみれると疲れない?」
あ、分かる。言葉でも何となく気分がすぐれないが、フェイクって一時の感情で煮え立つからな。
「自分やフォローしている人が話し言葉のまま打ち込んだ文字って、言葉が激しいなって感じない?」
そう、だから気を遣ってしまう。
「でも、アーティストさんのレコーディング状況とか知れて嬉しいよね」
ああ、そうなんだよな。一言でも呟かれると、気分が高揚する。
「芸術には徹底した謙下が必要、本当の美しい言葉とは遜り(へりくだり)かも、日本人特有の想いだけど、そこかもね、顔を見て話すのとは訳が違うからさじ加減って大事。そこまで考えちゃうと、SNSは楽しめないし」

「息抜きの場がネットというのも。こうして会って話すほうが、自分は気楽です」

相手がどんな表情か読み取りながら。所作を見ながら言葉を選べる。営業職だからか、先読みするのが習慣化している気はする。それが特技に成ったら、気楽な付き合いができるのだろうか。

「出会いが道端に転がっている訳じゃ無いから、皆が呟く。匿名性があるから言いやすいし。あきちゃんみたいに、人と会うのが苦じゃ無い人のほうが稀だと思うけど? ぼくもどちらかといえば引きこもり。ショップスタッフで十分、人に会うし」

引きこもり?

「あ。ようやく表情を崩せたぞ?」
「はあ?」
「固い子かと思って、息苦しかった。しんどいなぁ」
へえ?
「あきちゃんは人見知りするのかな、それとも壁があるのかな? 今度はぼくが観察するよ?」
「え?」

「お坊様は香木の匂いがすると聞くから、行動は習慣に出るものだとぼくは思う。きみは気配りすると言うより、顔色を読むんだったりして?」
見抜かれてる。

「だって、お兄さんと居る時とぼくだけの時は顔つきが違う。お兄さんと居る時は甘えたで、今は毅然としてる。世渡り上手かな?」


――宮津さんを玄関で見送り、郁に「変わった人だな」とぼやくと「そうだなあ、オレもあまり知らなくてさ」はあ?
「服を選んで貰ったついでに誘ってみたら、のったんだよ。オレ、ED治ったらいけそう?」
軽いな。
「治ってるかどうか、宮津さんのふくらはぎを見つめて小1時間」
「何やってんだ、間抜け」
しかし、よくぞ耐えた。
「お兄ちゃんに何て口の利き方だい?」
「法律上は兄でも無いぞ!」
顎を取られたので反ると口の中に指を入れられた。ふざけんなと噛むと「いてえ!」ようやく離れたが、油断ならん。こいつ、自分の顔が好きらしいから、俺も標的。
「じいしたらいいだろ。鏡でも見ながらさ。俺は安く無いよ、あんたと同じ容姿だもん」
「その口調に痺れるぞ、かわいこさん」
「同じ顔だろ、冷静に」
そこで喜ぶ心理が読めん。貞操が固いとでも思うんだろうか、……それで何が嬉しいんだ、同居するべきでは無かった。



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