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171話 思い付きの秘策!?

「あ、ああああ、あのっ! ぼっ、冒険者のシルトです!」

 ヤバい。めっちゃ緊張してるし! だって辺境伯様が迷宮自治区に自ら足を運ばれて、しかもあたしと話をしたいとか!
 辺境伯っていったら国でも上から数えた方が早いえら~いお方なんだよ? そんな人を目の前にして緊張するなって言う方が無理!

「……私はシェンカー辺境伯領の領主をしている。ミハエル=シェンカーだ。私の屋敷で以前顔を合わせているだろう? そんなに緊張しなくてもよいではないか?」

 そんな事を申されましても……あたしは前はただいるだけって感じだったし!

「父上、そのように威厳を出されては一般市民は委縮してしまいますよ?」

 アインさんのおっしゃる通り!

「ふむ、そうだな。では余所行きの仮面は捨てて素でいこうか。シルト君、俺の事はミハエルと呼んでくれ。ここでは貴族の家名などにとらわれず、君と腹を割って話したいのでな」

 あ、領主様の雰囲気が変わった! こっちのが素なのね。なんか軍人さんとか冒険者のおじさんっぽい感じがして親しみやすいかも!

「ではミハエル様と!」
「ふむ、まあよかろう。それで、今日はシルト君に話があって来たのだが……レン君、それに皇女殿下。あなた方にも是非話を聞いてもらいたくて同席を願った。済まないが暫時付き合ってくれたまえ」

 そう、この場にいるのはミハエル様とアインさん。レン君とヒメ。そしてあたし。今回に限って言えば、レン君とヒメはあたしとは別の陣営的な扱いのような気がしている。これはどういう事なのかな……いつも側にいてくれるメッサーさんもお姉ちゃんもアイギスもいなくて心細いけど、それでもミハエル様がここに護衛の一人も付けずにいるっていう事は少なくとも害意はないんだろう。

「それで父上、話というのは?」
「リマール内務卿からの召喚令状だ。」

 ミハエル様は一通の手紙を差し出し、受け取ったアインさんが手紙に目を通す。

「父上! これは!?」
「アイン。皆さんに説明して差し上げろ」
「しかし、宜しいのですか?この内容はあまりに……」

 あれ? なんか席を外したほうがよさそうな雰囲気がプンプン。

「……そうだな。先にこちらの認識を話しておくとしよう。ここ、迷宮街が自治区として我が領地から切り離され理由については多分に憶測が含まれるので明言は避けるが、我がシェンカー辺境伯家は――シルト君。君にこの自治区の指導者となってもらいたいと希望している。その出自、能力、各ギルドとのパイプに側近となるべき人物。そして人望。さらに、そう遠くない未来に、生まれ変わった帝国を治めるであろう二人の若い力。皇女殿下とレン君、この二人との固い絆。」

 はぁ……
 いや、ホントにはぁ、としか言えない。
 出自とレン君達との絆はともかく、他の部分は、何がよくてそんなにあたしを買ってくれているのか分からないんですけど。
 確かに、前にも言われた事柄のような気はするんだけど、あたしってバカにされてるでしょ? そんな街を治めるなんてねぇ?

「つまり、閣下は俺達の事を一つの独立勢力として認めていると?」
「そういう事になるな。俺はこの迷宮街と生まれ変わった帝国、そして辺境伯領。この三つで相互に支え合っていける関係を築き上げていきたいと思っている。その上でアインの話す令状の内容を聞いて欲しい」

 ミハエル様はレン君の質問に答え、さらにアインさんに促しては書状の内容を語らせた。根も葉もない言いがかりでしかないけど、潔白を証明する手立てがないのもまた事実らしい。

「そうか……俺のもたらした銃の知識がこんな結果を……」
「レン……」

 レン君が責任を感じている。銃の製造技術を流出させないようにしていた事で、王都に疑われる事になったから?

「君が気に病む事ではないよ。野心の強い王都の連中にあんなものを与えては、何をやらかすか分かったものではない。君の選択は間違いではない」

 ミハエル様がレン君を気遣う。でもレン君の表情は冴えない。

「ですがミハエル様。これで王都の勢力との衝突は不可避になってしまいました……」
「幸い、マギ・ガンの技術を秘匿したおかげで、王都の連中に危ない玩具を持たせずに済んだ。それに、俺の身ひとつで話は済むという選択肢だってあるのだぞ?」

 え? それって辺境伯領を王都の貴族に明け渡すって事?

「それは有り得ない選択肢です。そうなれば次に狙われるのはこの迷宮か帝国か。閣下を陥れようとする野心家が武力を手にして大人しくしている筈がありません。それは到底看過できない事です」

 ヒメが珍しく強い口調でミハエル様を嗜めるように言った。ミハエル様もアインさんも、レン君ですらきょとんとしている。

「皇女殿下は中央と戦えと言われるか?」
「勝てませんか?」
「ふふ、手厳しいな。攻め寄せる敵を跳ね返す事なら出来ようが、それを勝ちと言えるかどうかだな」

 苦しい状況ね。今は帝国の動きにも注意を割かなければならないのに。
 王国の中央勢力までもが敵に回るとミハエル様は相当に厳しくなる。というか、どうせ逆賊の汚名を着せて王都から攻め込んでくるよね。ハッキリ言って詰んでいると思う。これはどうあがいても火の粉が飛んで来るわね
 ……それならば。

「あのー、もうどうせなら独立宣言でもしちゃいます?」

 あれ? みんな凍り付いちゃった?

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