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11.愚者の帰還Ⅰ

 北の森、グレブスの町からずっと北にある大きな森。
 その森には迷宮がある。
 いつの時代に造られたのか、そもそも誰が造ったのかわからない迷宮がある。
 石レンガを積み重ねて建てられた入り口。
 暗い暗い階段から、コツンコツンと音が聞こえてくる。
 音は2つ、人が歩く音だった。
 少しずつ近づいてくる音……
 次第に音の正体が、銀色の髪をした弱々しい少年が姿を見せる。
 少年は大きく背伸びをした。

「んぅ―――良い天気だ」

 皆さんおはようございます。
 って今は朝であってるのかな?
 この迷宮に潜ってから何日経っているのかも、正直曖昧だったりする。
 僕はなんとなく空を見上げた。
 空には燦燦と光る太陽が、当たり前のようにあった。
 ずっと地下に篭っていた所為か、日差しが眩しすぎるように感じる。
 僕はキョロキョロと周囲を見回して木陰を探した。
 まぁ探す必要が無いくらい木陰だらけなんだけど……

「ねぇ……そろそろ出てきなよ」

 僕は自分の影に語りかけた。
 すると語りかけた影から、垂直に別の影が飛び出した。
 飛び出した黒い陰は人の……幼女の形に変わる。
 次第に影の黒さが消え、黒い髪と白い肌が現れる。

「おはようアテナ。どう? 久しぶりの地上は」

「うむ。久々じゃ、実に400年ぶりくらいかのぅ?」

 400年……
 さすが女神様、スケールが桁外れだ。

「しっかし眩しいのぅ……眩しすぎて目もロクに開けられんわ」

「えっ、そんなに眩しい? 確かに良い天気だけど」

「眩しいのぅ……この白くやわい肌が墨のように黒くなりそうじゃ……」

 そんなに眩しい!?
 あーいや、僕と違ってアテナは400年日の光を浴びてないのか。
 それに蛇の眼って確か光に弱かったっけ?
 ちょっと大げさな気もするけど本当に眩しいんだろうな。

「じゃあ町に着くまで僕の影に隠れてて。到着したらまた呼ぶからさ」

「いや、どの道身体を慣らさんと行かんからのぅ。少々きついがこのまま主の横を歩いていくぞ」

「そう? アテナが良いならそれで良いけど。辛くなったら何時でも影に戻って良いからね?」

「主よ……少しばかり童を嘗めておらぬか? 童がその程度で根をあげると?」

 アテナはムスッとした表情で言った。
 僕は首を横に振った。

「ううん、ただアテナの事が心配なだけだよ」

 僕は笑顔でそう言った。

「うっうむ、そうか……そうハッキリと言われると照れるのぅ」

 アテナは言葉通り照れている様子で、顔を真っ赤にしていた。
 僕はそんな彼女がどうしようもなく可愛く見えて、気がつくと僕の右手は彼女の頭上にあった。
 そしてそのまま頭を撫でていた。
 さすがのアテナも、これには少々不機嫌になったようで……

「主よ? やはり嘗めておるな?」

「ごっ、ごめん! つい手が勝手に動いちゃって……」

「はぁ~ まぁ好い。主に悪気が無いことくらい、童も最初からわかっておる。それに撫でられるのも嫌ではないしのぅ。しかしじゃ、よもや忘れてはおるまいな? 童と主の関係を……」

 そう言われて僕は、少し真剣な顔をして答えた。

「もちろんだよ。僕はアテナとの関係を忘れない。僕はアテナの―――――眷属だ」

 実は僕、フラン・ベルクロームは、ここにいる元女神アテナの眷属になった。
 どうしてそんな関係になったのかを説明するためには、今から時間を少しだけ遡らないといけない。
 そう……あれは僕が修行を終えた直後の事だ。

「はぁ……はぁ……――――」

 僕はアテナの力で得たスキルを使いこなす為、彼女が用意した訓練を実践していた。
 時間は覚えていないけど、たぶん2週間くらいだと思う。
 僕は寝る時間以外、ほとんどずっと修行をしていた。
 普通の人よりも体力が無い僕が、これほど長く修行を続けられたのはきっと、アテナのお陰だと思う。
 とても過酷だけど、成長できない僕が、成長しているんじゃないか錯覚するほど充実した時間だった。

「うむ、まぁこれなら十分に戦えるじゃろう」

「―――うん、僕もそう思う。今の僕なら……」

 僕は自分の拳を眺めながらそう言っていた。
 修行の成果が実感できるなんて生まれて初めてだ。
 まるで一から生まれ変わったかのような、とても不思議な感覚がある。
 普通の人間が努力の成果を実感する時って……こんな感じなのかな?
 僕は自分が一生味わえないと思っていた感覚に酔いしれていた。
 するとアテナが……

「よし、ならばそろそろ地上へ出るぞ? いつまでもこんな地下深くに潜っておるのは良くないからのぅ」

「え? もう修行は終わりなの?」

「ここでの修行はもう十分じゃよ。あとは実践で学ぶが好い」

 実践か……
 正直ちょっと不安だけど、今の僕なら戦える気がする。
 本当に不思議な感覚だ。

「主よ、実は地上へ出るに当たって、まだ主に伝えておらぬ事があるのじゃ」

「伝えてない事? 何?」

「童はこの状態では地上へ出れん」

「えぇ!? 出れないってどういうこと!? もしかしてここでお別れなの!!?」

 僕は大きな声で慌てた。

「そう慌てるでない。言ったじゃろ? ()()()()()()……と」

「この状態?」

 この状態ってどの状態の事だ?
 幼女のままだと駄目って事?
 もしかしてあの蛇にならないと出られないとか??
 それはさすがに……

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