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雨降る街の枯れた涙-⑤-

 サキの目の前に聳え立つ巨人。

身長はガンビーよりも高く、4メートル。

大猩々との違いは、上半身と下半身の割合は均等で、人型を保っている。

もう一つ違いを加えるなら、 () ()が無かった。

 首なしウィッカー・マンの右腕に張り付いているのは、人の顔を描いたような模様の盾――いや、六角形を引き延ばした、厚みのある棺。

青白い光と蒸気の対流が、棺の蓋で蠢いている。

サキは、右腕の盾の表面に () () () () () () () () () () () () ()ように見えた。

先ほどのウィッカー・マン内で見かけた光源。

クァトロやガンビーが“ () ()”なら、巨人の中で眩く煌めいているのは () ()だった。

「あれは……デュラハン」

 驚きと恐怖で緊張した口から、サキは言葉を絞り出す。

バンクーバーに存在するウィッカー・マンの中で、何時頃からか、一際異質な存在が確認された。

クァトロの様な四つん這いでなければ、ガンビーの様に足腰が未発達でもない。

首が無いことから「首なし騎士」――デュラハン――の名前が与えられた。

 周囲が騒めき始めて、高揚感が警戒感に変わる。

 この首なし騎士の攻撃手段は不明。

 壁で区切られた場所に入り込んだウィッカー・マンは、ワールド・シェパードが確認する限り、 () () () () () ()一体もない。

活動していた種類も、クァトロとガンビーに限られ、「首なし騎士」の情報は一つも持ち得なかった。

「やっと現れたか。それにしても、 DUNSMUIR (海見える砦 )から水平線でも見えるほどの身長か?」

 ブルースが、突如サキの隣で喜々と話す。

「アイザック=ニュートンかよ?」

 ロックもサキを挟むように、右逆手に翼剣の切っ先を下に構えた。

「サキちゃん。ここからは、私たちの仕事。 () () () () () () () () () () () () () ()危険な仕事よ」

 キャニスがサキの前に現れ、異議も挟ませない口調でトンファーを構える。

「それと、 () () () () () () () () () () ()高く飛ぶ仕事だ!!」

 サキとキャニスの前で、紅き外套を翻して、ロックは飛翔。

彼は、黒と赤の翼剣が天空から煌いた。

両断せんとした剣は、デュラハンの右手の棺が塞ぐ。

 巨人の胴体が斬撃を止めた。しかし、ロックの力に拮抗するが、足元の重心が揺らぐ。

 ブルースのショーテル、その鍔から吐き出された銃撃がデュラハンの両膝を貫いた。銃より射出された火力で、デュラハンの甲冑の様な外殻が、下半身から削られていく。

 外殻が壊れ、露出した腹部に、キャニスのトンファーの先端が突き刺さった。

彼体内から突き出た爆炎に、首なし騎士は呑まれる。噴き出した爆炎が、キャニスの癖毛の掛かった二房のお下げを揺らした。

首なし騎士の周囲に炎が広がり、灰燼が盛大に宙へ舞い上がる。

「やったの……?」

 サキが呟いた。

 ウィッカー・マンに軽口を言い合いながら、立ち向かった三人の戦士。

 彼らの攻撃に、立ち上がることは無い。

 しかし、それは彼女の希望的観測にしかならなかった。

 サキの目の前で、否定したい現実が佇む。

先ほどの力の集中攻撃で傷一つ付いていないデュラハンの仁王立ち。

――あの三人の攻撃を受けて、無傷なの!?

 ロックの神々しさと荒々しさの入り混じった力に助けられ、彼と比肩する二人の男女の攻撃に応えた素振りを見せない巨人に、サキは驚愕した。

 彼女は、先ほど訪れた高揚感は、巨人の蒸気と共に立ち消えた様に思う。

 ロックの目に映る自分の顔が、また青くなっている。

しかし、炎に煽られた、彼の顔は、

「ま、簡単にはいかねぇよな?」

 ロックは、口から労苦を漏らす。だが、口調と裏腹に、猛禽か猛獣を連想させる口を釣り上げた笑顔を、サキに向けた。

「だから、背後から撃つんじゃねぇぞ」

 ロックの言葉が、サキを安心させた。

 しかし、それを見せられる度に、

――戦いたい。

 眼前の戦いを見せられる度に内なる渇望が、サキの中で増していった。

ロックの笑顔自体、全てを任せろという意味かもしれない。

だが、笑顔の意味を探る度に、サキの中で彼の意思と反対に表れた。

() () () ()以来、その笑顔を見せてくれる人たちに応えよう。

それが、彼女の生きる第一義となっている。

 彼女の一歩先では、硬質な衝突音が響いていた。

 音の出どころは、ロックの護拳。右脚の反動から生まれた深紅の風からの右拳が、デュラハンの全身を腹から大きく揺さぶった。

 首なし騎士は叫ぶことなく、蹈鞴を踏む。足元の路地の土瀝青が剥げ、生の茶色の地表をさらけ出した。

衝撃は、巨人の膝にまで伝わり、雨粒と大気と共に胴体を震わせる。

 眩い閃光が、サキを襲った。

 音が遅れて響くと、彼女の目の前には宙を飛ぶ、苔緑の閃光。

 ブルースの剣から放たれた、翡翠色の三日月が二つ、デュラハンの両肩と両腰を交差して刻んだ。

「ロック、ナイス一発!!」

「一発で済むところを、二手でやるお前に言われても嬉しくない」

 ブルースの礼をロックが、笑いながら拒否する。

 ブルースの攻撃を受けない様に、ロックはデュラハンから後退。そして、紅い外套を翻しながら、巨人の正面に立つと半自動装填式の銃を構え直す。

 ブルースも彼の隣で、両腕を突き出し、鍔が銃口とかした二振りの半月刀の照準を合わせた。

 雨の音が一つ、サキの耳で伝わると、衝撃と熱が彼女の体を撫でた。

 ロックとブルースの銃が、雨音と鬱屈した空気を吹き飛ばす。

雨音と空気を消すブルースのショーテルに付いた軽機関銃が、管楽器の様に軽快な音を放つ。

その音を縫うようにして、ロックの弾丸が一発紡がれた。半自動装填式の銃撃で、首なし巨人の一歩が遅くなる。腰と膝への衝撃も加わり、首なし騎士が大きくよろけた。

「一番乗り!」

 巨人の肩に乗るのは、キャニス。

 しかも、首の付け根を中心に立ったので、デュラハンは四つん這いにさせられた。

 その上から、二対の杭が、肩の上に突き立てる。

 金属火薬を使っているのか、火花が甲冑を壊し、キャニスの二房のお下げが猛る松明の様に舞った。

 閃光に紛れたロックの突進に、突然二足で立ち上がるデュラハン。

その勢いで、キャニスを振り払うが、遅すぎた。

 両腕を交差させながら密着すると、紅い閃光が一筋走った。

 それが、噴進火炎であるとサキが気づいた時、ロックは右袈裟から走らせた刃を胴体の中心に突き立てていた。

「巨人は () () () ()じゃない、 () () () ()だ!!」

 そう叫ぶと、噴進火炎が火砕流のように弾け飛ぶ。

その動力を得て、ロックはデュラハンの胴に突き立てられた剣を突き上げた。

火炎の動力と熱により、巨人の左鎖骨に掛けて胴体に裂け目が走る。

 ロックの攻撃の衝撃は、巨人を一瞬大地から突き放し、尻餅を付かせた。

「巨人は乗るもんじゃない……いい言葉だ。取り敢えず、俺が乗るのは――」

「はい、色呆け冗句はなし」

 ブルースの言葉は、キャニスの腹への肘鉄で途切れた。

「ついでに言えば、無駄話も止めろ。まだ動いている」

 ロックが、彼らの前に立ち、デュラハンに目を向ける。

 サキもつられて見ると、首なし巨人の胴の中が青白く、蠢き始めた。

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