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コンタクトの調子が悪く、メガネで出勤した。
女性陣から、やけに声をかけられる。如何しよう、悩みかけたら部長に腕をひかれた。
「きみは全社が注目するルーキーなんだから、身だしなみに留意」
「はい」
「でも、よく似合う。そこは褒めてしまうな」
頭を撫でてくれたが、これこそ危険では?
「無造作ヘアーでメガネ」
凝視していいんですか? 社内ですが。

「仲が宜しい。手懐けましたねえ。兎並部長。おう? 今朝はやけに凛々しい相楽くん。お顔を拝見」
総務部か。
「なんとまあ、20歳の若者は成長の留まるところを知らない。男らしいと言うか柔和した感じがするねえ。若さが香るようだ。さぞやいいお相手さんが」
「セクハラです」
「相楽くん、きみは面接のときから威圧的だよう。ただでさえ背が高いのに、おう、魅惑的な腸腰筋、こうして二人が並ぶと、美麗ですなあ。兎並部長も腰つきが」
「セクハラで訴えます」
「上司を庇うか、臣子の相楽くん。本当に懐いたなぁ。そんな子には見えなかった、自分勝手の訳の分からない新入社員代表挨拶」
「パワハラです」
「褒めているんだ、懐いているし業績を」
部長に腰を軽く突かれた。
「もう連れていきますので、行くよ、相楽くん」
「はい」
返事をしたら肩に手を回されて動揺した、それでも並んで歩きながら営業部へ戻ったが。


「僕の臣子だから、噂の立てようもないだろう」
そうか?
「あなたの出世に響きませんか、未熟な部下です」
「自己評価が低い。向上心をもつように」
そう?
「あ、メガネがずれてる」
部長がメガネをとりあげ、なぜか暫く無言で俺の顔を凝視した。
「あの?」
「男前だなぁと、しみじみ思う。惚れてるし」
まずくない?
「アハハ、きみは面白い、本当に。想いが顔に出るようになった、僕の傍においてよかった」

部長の指がやけに光るが。
「ネイルされた、女性陣に」
灰色らしい。
「ここに居たら僕もきみもおもちゃにされそうだ」
部長?

「きみが入社する前はここまでひどくなかったが、目立ったようだな。交差点で人が行き交うだけの社風だったのに、きみという器量よしが現れた。全社が注目するルーキーが僕の愛弟子か」
「傍にいたらいけないという?」
「きみを手離す気はない」
メガネを返してくれたが。

「まだ教えないといけない事がある。季節・行事ごとに包装紙を提案する事や、新規開拓。きみには僕の全部を託すつもりだから」



「有り難うございます。部長が上司で、自分は恵まれています」
ここ迄思ってくれる上司。
俺は成長を遂げたい。

「でも、お互いここにいたら、おもちゃ扱い。若しくは業務を妨害するだろう。手をうたなければ」
管理職は大変そう。
「来た会社を間違えたね。でもきみを守るから」

幼い頃を思い出す、兄も同じような事を。

「どうかした? 相楽くん。顔色が」と、部長が俺の頬に触れた指の色、友人がくれた花束の。
思わず掴んでしまった。
「……すみません。色が鮮やかによみがえりました。あなたのお陰です」

思い出しても悲壮感はない、あなたがいるから。
悲憤の思い出が消えていくといい。

「僕はどれだけ傷付いても構わないが、きみが大事だ」
「自分は」
あなたが大事です。
「心底思う、いい男に成長している。誇らしいし、相楽くんしか僕は託す気が無い」




取引先へ包材を単独で提示できるようになり、任されたと言う喜びを覚えた。
上司である兎並部長を好きだが、部下として業務を任せて貰えるのは信頼に値すると思う。
誇らせてあげたい、俺はもっと活躍してあなたの輝きを守りたい。

託された業務の熟し方、胸に光のように抱えて生きる。
ん?
初めて部長からLINEが来た。


なにかあったのか?
俺がしくじったか?

『胡蝶蘭の花ことばも伝えておく。提示した白は清純。ピンクは親愛・きみを愛してますという意味だからね』
それが何か。
『これからの営業に役立ててごらん』
まさか。
そんな、どこへも行かないでください!

オフィスに戻るとピンクの胡蝶蘭が置かれていた。
女性陣が「手入れってどうすればいいかしら? 部長はご存知かも。え? 届主が部長?」

数時間後に課長に呼ばれ「兎並部長は、きみを育てた事に常務は高い評価をされた。今後は営業先へ出向くのではなく、後継者の育成に努めるそうだ。我が社は全国に支社が5つある。転々と移動しながら教育をされる」
本社から出向?

「部長の臣子であるきみに宿る黒い幕が消えたと、総務部が言っていたが。なんのことやらと思ったが顔つきが違うなぁ? いや、失礼。きみは凛々しいよ? だがどこかが変わったんじゃないのかい」
部長がいてくれたからです。
「視線が鋭くないんだ、そして笑顔を見るようになった、そこかい?」




新月の夜だ、ベランダから見上げるお月様の輝きに目が眩みそうだ。
俺を「器量がいい」と皆は持て囃すけど、自分からしたら部長の方が容姿端麗で、性格も明るくて中身が伴っている。
ああいう人になりたい。夜が明けていく希望に満ちた風の香りを携えているような。

出来れば、傍に居たい。

好きだから。

どうして「ごめん」とか「悪い」と言わないんだろう。
俺はその程度のものなのか。
そうか、部長・廸さんだけは違うと思ったけど、人の想いは・愛は何気なく終わりを迎えるんだった。

一言・言って下さいとお願いして、LINE貰えただけ、俺は特別だったと思いたい。
好きだから。
涙が滲むほどに想いがこみ上げてしまう。もう誰とも別れたくなかった。
悲憤の思い出に、わなわなと打ち震えてしまう。
でも人生って、そうなんだろうな。
出会いがあるから別れがあるんだ、俺は再起しなければ。
業務を教わり、取引先を引き継いだのだから託されている。
……時間がかかりそう、さびていく心が振り切れない。

ん?
時計のアラームかと思ったらインターホン?
俺に来客なんてありえないけど。友人にもこの部屋の住所を知らせていない。
落ち着いたらLINEでもとは思ったが。
誰だろう、画面を見て頬がひきつった。怯む、まさか。
嬉しいと言う気持ちより先に「なぜ?」と思ってしまう、まるで大好きなバンドのメンバーに会えたような高揚感と、恐れ多さ。戦慄した、どうして探してくれたんだろう。



「きみを迎えに来たから」

長い首をも隠すスタンドカラーの白いコートの部長、まるで胡蝶蘭みたい。
『幸運が舞い込んでくる』って検索したから、そうなら。

「あれ。思ったより元気そうじゃないか」
「そうではなく!」

部長が大笑いする、その笑顔を何日ぶりに見ただろう。
「唖然としない」
「はい、了解です」
「アハハ、もう、きみは」
美麗だなと思う。その笑顔は眩しい。

「いい? 二度と言わせない。『夢が崩れて砂になった』なんて。きみとの日々を繰り返すから、飛び込んでおいで。僕の傍にいたらいい」
部長。
「石川県に支社があって、そこへ赴任なんだけど半年とも1年とも決められていないから、簡単にあの場できみを連れ出せなかった」

俺を家族として迎えてくれるのか?
家族の再生、あなたとなら可能だろう。でも俺は想いがある。

「期間は確定したから社員寮へ迎えに行ったのに、きみは逃げるように消えていた。僕には消えないで・そう言ったのに?」
覚えていてくれたのか。
「逃げなくていい。悲憤慷慨(ひふんこうがい)の思いをさせたお詫びをする」
確かに、あなたと離れた寂しさと社会への憤りはあった。

「もう寂しい想いをさせないから。お月様に導かれたよ。きみがここにいるって」
俺が部長の好きなチョコのお店の近くに住んでいると想定してくれたのか。

「交差点できみを見かけて間違いないと気付いた時、胸が高鳴った」
それは?
「きみが僕の好きなものを覚えていて、その傍に寄り添うように独りでいたのかと。きみが僕を想っていていてくれると確信したんだ」
白いコートの裾が揺らぐ。

「きみを探していた、ずっと。僕はきみを置き去りにしてはならなかった。寂しさを覚えた、いつも傍にいたきみがいない、胸が張り裂けそうだった。こんなに好きなんだから」
潤んだ瞳から頬に伝う。




さび付いた街に色鮮やかな未来が見えた、俺はあなたに何が出来るだろう。
未来を案ずるなと言われたな、そうか。
俺があなたを守るから、侍ですから、忠実にあなたを愛すると誓う。

この季節が俺の頬に雪を降らせた、こんな朝まだき。白々と夜が明ける時間。
あなたが俺に贈った愛の花束、幾重にも言葉の愛おしさが染み渡る。

人の想いは何気なく終わりを迎えると思い込んだ、それは違わないだろうけど。

ずっと、あなたを探していた。
笑顔が、愛を探していたんです。

やさしさに飢えていた、素直に言える。

伝えて良かった、あなたが好きだと。
言わずにいたら、あなたはきっとあのまま出て行ったのでしょう。

愛してると言わなければ伝わらない、俺はあなたが。

「想いを紡ぐと言った。きみと同じで嘘はつかない、立ちすくんでいないで。駆け出す時と告げに来た」
本当に連れ出してくれる。

「僕を愛してるって、言ってごらん? きみの眩しく輝く笑顔を探しに来たんだから、抱きしめて欲しいな?」



部長が踵を少し上げた瞬間を両腕で捉えた。
「俺の願いは叶いました」
「そう、素直に飛び込んでくれて有難う」
穏やかな声音、このやさしさを探していた。

「そして、あなたがいないと、さ迷う男へ逆戻りする事も知りました」
この香りにいざなわれたい。
悲憤の思い出を愛情が凌駕した、万感の思いがこみ上げて部長の潤む目を気持ちで捉まえたい。
「俺があなたを守ります」
泣かせたくない、気高いあなたを。
嘘はつきません。信条です。

「これから季節が幾度、巡ろうとも生涯を捧げます……」
部長が期待している想いがこれで当確であって欲しい。仕留めたい。もうどこへも行かせない。

「朝、目が覚めても傍に居ると誓い添い遂げます。注がれる愛情に震える程、俺はあなたを愛しています!」


おわり

ありがとうございます

柊リンゴ

想いが届くまで、恋心を書きたいです
前向きに成長します

兎並 廸 (うなみ ただす)導く意味です
相楽 果莉  (さがらか きょうり)独り立ちの意味です
どちらにもかおりとも読めます


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