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「寂しいときは月を見上げてごらん。とても美しく輝いているからね」

まるでベースが軋むように心拍数が上がる。
「雪が降る前に、僕はこの街を出ていくから」
転勤だろうか。
でも問い掛ける言葉が出て来ない。
「きみは追い掛けないだろうから、言う」

そんな前振り、俺を信じているのか、それとも振り切らせたいのか。

「地元へ帰るんだ。石川。雪の積もる街だよ」

あなたの声が遠く感じる、どうしてだろう。
せめて「嫌い」と言ってくれたら諦めもつくのにどうして。

「きみの事は好きだから」

その微笑みが毒にしか思えない、止めを刺してくれたら心まで沁みないのに。
人の愛は何気なく終わりを迎える。

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あれから、ずっと、あなたの言葉を探している。

やさしさに飢えている。

季節は冬を迎えた、あなたと会えなくなったあの日から、出会いの春へは季節が廻り来る。
俺は流行りのチェスターコートを羽織りながら、アスファルトの歩道をブーツで踏みしめ、ふと空を仰ぐ。
冬の青空って、こんなに澄んだ色なんだなぁ。
この季節が俺の頬に雪を降らせた。拭うのは俺の手の甲で。

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親が望んだA1ランクの大学へ進まずに、自分の希望する専門学校を選んだ時点で両親に見放された。
「親の脛(すね)を齧る次男坊、早く自立せい、お父さんはいつまでおまえにごはんを食べさせないといけないんだい!」
俺を庇ったのは3つ年上の兄だけ。
「やりたい事をすればいい」
支えだった。
「おれと同じ美容師を目指すのか。美容専門学校でしっかりな?」
俺は髪をアッシュブラウンに染めて、髪もエアリー感のあるパーマをかけた無造作ヘアーに変えた。
「よく似合うじゃないか。果莉(きょうり)は顔立ちがいいからなぁ。おばあちゃんに似たな? 隔世遺伝だろう。おばあちゃんは若い頃、相当美人だったらしい」
嬉しい。
「有り難う」
「果莉、おまえは容姿には恵まれたけど、生まれた星の元がまずかったな、でも気を落とすな」
兄は先に社会へ出て独り立ちし、LINEが既読に成らなくなった。
忙しいのだろう。
寂しかったが、お盆には帰省するから会えるし。
そう信じた矢先だった。
兄は行方をくらました。

俺は兄を敬愛して、心の拠り所にしていた。
もう人を愛せない。
自分を理解してくれる人はこの世にいないかも知れないから。
家族と愛情を失い二重の悲憤(ひふん)の気持ちで心がさ迷う。




喪失感を抱えたまま卒業を迎えた俺に友人が「果莉、いや。キョウ」
意味が分からない。
「狂っていると言うんだ、気持ちは分かるが頑張れ。おまえを愛するものは必ず現れるから、いつまでも心のカーテンを閉めているんじゃないぞ?」

そして花束を渡されたが。

「おまえの目には、何色に映るんだろう?」

無言でいたら「毒々しいと思ってんじゃないの? 人も、花さえも愛せないのか」

「この花が綺麗だと思えるように自分を立て直せ。おまえの世界が灰色すぎて、見ていて辛く成る」
灰色なのか。

「お兄さんの写メを見せて貰ったが、かっこいいとは思う、だがキョウの方が男前だ。おまえに自信を持たせたかった、今からでも遅くないからおまえの器量に恥じない凛々しい生き方をしてくれ。友人として頼むぞ」


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