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第26話

「澄人。荒山総主任から呼び出しです。(昼食後、本棟の方へくるようにと、メッセージがきました)」
「荒山総主任が?」

 ナイフを動かしながらそう言い、チキンステーキを口に運んだ澄人は、脳内音声で「(何の用だろう?)」と呟く。

 その気楽な態度とは真逆に、アキラと良美は手を止め、唇を開けていた。

「澄人……お前、いったい何をしたんだ?」

 アキラに聞かれた澄人は「別に何もしていないけど?」と言ったが、

「でも呼び出されたってことは、澄人君に直接話があるからだよ。気づかないうちに何かしちゃったんじゃないの?」

 良美もナイフとフォークを置いてそう言った。

 二人とも、澄人が何かしたから、荒山に呼び出されたと考えているようだ。

「今まで荒山総主任から呼び出しをくらったやつは、だいたい何かしでかしているからな。この間も、禁煙エリアでちょ~っとタバコを吸っていたやつが呼び出されて、めちゃくちゃ怒られた上に、評価を下げられたってやつがいたようだし」
「私の隣の部屋にいた子も、お酒を飲んで酔っちゃった勢いで備品を壊しちゃったから……それで荒山総主任に呼び出されたんだけど、謝っても許してもらえなくて、ここから出ていくことになっちゃったしね」
「でも、僕は決まりを守らなかったり、物を壊したりはしていないよ」
「お前に憶えはなくても、良美が言ったように、気づかないうちに何かしちまったかもしれないだろ? 一応、覚悟して行った方がいいと思うぜ」
「う~ん……」

 そうは言われたものの、実際そのようなことをしていない澄人は、昼食が終わるまで考えるように時折首をかしげ、昼食が終わって荒山のところへ向かう最中も、覚悟など一切していない様子で、眉をひそめながら歩いていた。

「……やっぱり心当たりがないな。ナオ。荒山総主任は他に何か言っていなかった?」
「いいえ。(くるようにとしか、メッセージには書かれていません)」
「でも呼び出すってことは、よっぽどのことだよね……。二人が言っていたように、気づかないうちに何かやっちゃったのかな?」
「それはありません。(澄人が罰則を受けるようなことをしていないということは、側にいる私が一番よく知っています。何かの疑いがかけられている可能性はありますけど、その時は私の記録データを提出すれば、澄人の無実を証明できますから安心してください)」
「ありがとう。その時は頼むよ」

 そうして澄人とナオは会話をしながら、本棟にある荒山がいる部署まできた。

「失礼します」

 ノックをして入ると、澄人は入り口から一番近いところにある席にいる、タブレット端末に映った書類を呼んでいる、30代くらいの男性社員に声をかけた。

「お仕事中、すみません。実習生の柳原澄人です。荒山総主任はいらっしゃいますか?」
「ん? ああ、ちょっと待ってね」

 タブレット端末の画面を切り替え、その社員は荒山宛に“荒山総主任。柳原澄人君がきましたよ”と、メッセージを送った。

「すぐにくると思うから」
「はい」

 そして澄人がその場で立って待っていると、メッセージを送ってくれた男性社員が、じーっと見てきた。

「な……何か……?」
「柳原澄人君。君……実習期間が終わったら、どこの部署に行くか、もう決めていたりする?」
「いえ、特にまだ決めていませんけど?」
「そうかそうか!」

 男性社員は、にっこりと笑い、タブレット端末に開発週のアーティナル・レイスと思われるものがある部屋の画像を映して、澄人に見せてきた。

「それなら、こことかどう? 俺が所属している部署なんだけど……今やっているのは主に、一般向けに開発された試作機とか先行量産機を、正式な量産機にするための仕事で、君のような人にぜひきてほしいと思っているんだ」
「は、はい……?」

 すると、その隣に座っていた女性社員が立ち上がり、男性社員のタブレットを取り上げた。

「ちょっと! 実習生を勧誘するのは禁止だって、荒山総主任に言われているでしょ!」
「勧誘なんてしてないしてないって。ただ、どう? って聞いただけだよ」
「それが勧誘だって言っているのよ! 彼をほしがっているのは、あなたのところだけじゃないんだからね?」

 それを皮切りに、他の何名かの社員が声をあげ始めた。

「そうだそうだ。だいたいお前のところは、人手は足りているだろ? それよりも生産技術部に――」
「いやいや。今までの実習成績から見たら、AI-visの研究開発の方が、彼には向いていると――」
「いいえ。将来的なことを考えるのなら、彼の能力を伸ばせるところがいいわよ。うちみたいな――」

 次第に言い争いになりそうなくらい、社員同士の会話は白熱していった。

「あ……あのぉ……」
「(ど、どうしましょうか……)」

 澄人とナオが目を点にしながら、その場で立ちすくんでいると、

「……騒々しいぞ」

 部屋の奥の方から荒山が姿を現した。

「あ、荒山総主任……」

 荒山を目にした社員達は、一斉に口をつぐみ、声を止めた。

「柳原澄人がきたら、連絡をするように頼みはしたが……誰が勧誘や取り合いをしろと言った?」
「「「「…………」」」」

 視線を下げる、騒いでいた社員達。

 部屋の中が沈黙で満たされ、十秒ほど静寂が続くと……

「誰がしろと言ったと聞いているんだ!!」

 社員達に向かって荒山が大声で怒鳴った。

「「「「す、すみません! 誰も言っていません!」」」」
「……騒いでいたやつは、後で話がある。覚悟しておけ」
「「「「は……はい……」」」」
「まったく……」

 呆れが含まれているため息をつきながら、荒山は立ち固まっている澄人のところまで歩いた。

「すまんな。急に呼び出した上に、社員達が騒いでしまって」
「い、いえ。僕は大丈夫です……。それで、用件は何でしょうか?」
「奥の応接室で話す」

 二人は応接室まで連れてこられると、ソファーに座るように言われ、澄人はそこへ腰掛けた。

「お茶をご用意致します」

 長い話になるのだろうと思ったナオは、お茶を用意しようとしたのだが、

「いや、お前も座ってくれ。これは二人に関係する話だ」
「かしこまりました」

 荒山に引き止められたナオは澄人の隣に。荒山は向かいのソファーに座った。

「それでは、用件を話そう。柳原澄人。お前には来週の水曜に、ある試験を受けてもらおうと思っている」
「試験?」
「この試験は、各個人の能力を確認するための、いわば中間試験のようなものだ。ただこの試験は全員同時に行うのではなく、日時をずらして個別に行われる。そして、その内容を他の実習生に教えたり、意見交換をしたりすることは禁止だ。同じ……もしくは似た結果になることは、我々としては望ましくないからな」
「そうなったことがあるってことですか?」
「……以前、メッセージで一斉に試験内容を伝えたことがあったんだが、禁止と言ったにも関わらず、他の実習生と前情報交換をし、協力して試験を行う者が多数いた。それ以来、こういう形式をとっている」
「なるほど……」
「さて……お前がやる試験の内容についてだが、第一世代アーティナル・レイスのパーツを交換、換装し、性能向上を行うもの……いわば修理と改良だ」
「修理と改良……ですか」
「今後、アーティナル・レイスの開発はどんどん進んでいく。優れた性能と、新しい機能が求められることになるだろう。そのための発想力と応用力……すなわち研究開発が可能な能力を、久重重工はお前達実習生に求めている。今回の試験は、これまでの実習でお前達が何を学び、どこまでできるようになったのかを確認するためのものだ。お前は試験で、こちらが指定した第一世代機に対して施術を行え。後日、状態と性能を確認させてもらった上で、最終的な評価をつける。何か質問はあるか?」
「試験で僕が施術することになるアーティナル・レイスと、事前に会うことはできますか? できれば会って話をして、状態を知っておきたいんですけど……」
「ここにいる」
「ここに……?」
「お前が施術することになるアーティナル・レイスは……ナオだ」

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