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92話 スキル発動

 メッサーさんの見立て通り、レン君大苦戦だよ~。ヒメなんかもう半泣き!

「レン! 今ヒールを! ……え? あれ? なんで!? ヒール! ヒーール!! なぜ発動しないの!?」

 うん、ごめんね? 事前に言われてたんだ。ヒメがヒールを使おうとしたらリセットで魔力を散らせって。

 多分、基本的なスペックはレン君の方が高いと思う。でも相性が悪いのかな。魔法が効かない事でレン君の強みが引き出せない。剣術勝負でも分が悪い。さて、そろそろ奥の手がでるかしら? ギルド支所の前で薄っすらと光ってたレン君の身体。

 そしてレン君はあたし達の視線が集中する中、信じ難い行動を取った。

*****

 出来れば使いたくねえんだよな、これ。でもそうも言ってられねえ。敵を舐めてた俺の落ち度だ。
 雷を纏わせた剣を全力で振り抜いた後、追撃で更に電撃を放つ。これでハイ・ゴブリンが退いてくれれば!

 よし、ヤツの方から間合いを取ってくれた。

「だありゃああああ!」

 なんていうかな……気合だな。気合を込めて雷魔法を錬成し、自らの頭上に放つ。全身が朧気に光っているこの状態で……

「さあ、来いよ!」

 自らの身体で落雷を浴びる。ぐっ……これだよこれ! この感覚! 周りの時間が止まっているかのような感覚!
 
 いっくぜぇー!!

 ――斬!!

 一足飛びにハイ・ゴブリンの間合いに入り、一気に横薙ぎに腹を斬りつけた。ハイ・ゴブリンの横を通り過ぎて膝を付く。
 背後では上半身と下半身が生き別れになったハイ・ゴブリンが雷に焼かれて焦げていた。

「ふう、いててて……」
「レン! レーーーン!!」

 ヒメが駆け寄って来てヒールを掛けてくれた。そんな泣かなくてもいいじゃんよ。
 ああ、ごめん。ちょっと寝る。色々と限界……

*****

 まさか自分で放った雷撃を自分の身体で浴びて、それを吸収してパワーアップするとかレン君もデタラメだねえ……だらしない顔してヒメの膝枕で眠ってるけど。

「あれは……レン特有のスキルで、雷装纏鎧(らいそうてんがい)と言うのだそうです。効果は見ての通り、強化の魔法など比べ物にならない程に、それこそ爆発的に身体能力が上がります」

 ヒメが言うには、今までこの技を使わなかったのは、雷装纏鎧の威力に武器が持たなかったことと、スキルの発動後はしばらく行動不能になるので使いどころが難しい。そういうことらしい。

 膝の上のレン君の髪を優しく撫でながらヒメが教えてくれた。そしてスッとレン君の瞼が開く。

「正確には、魔力切れと全身が痛くて動けなくなるんだ。そして何より雷装纏鎧の発動中はどうしてかテンションが上がっちまってなぁ……他人に見られるのは結構恥ずかしいんだよ。それから、雷装纏鎧なんて名前を付けてるけど、それは俺が雷撃が得意だからだ。メッサーさんみたいに風が得意なら風を纏えるし、ラーヴァさんみたいに炎が得意なら炎が纏える。バリエーション増やしたいんだけどな。ハハハ」

 起きてたんだね。ヒメが嬉しそう。でも言わなきゃいけないんだろうね。

「もう、レン。心配を掛けないで下さい」

 って言うお約束の一言ね。

「悪いな。でもアレを繰り出さないと勝てなかったんだよ。なあに、次は油断しない。完封してみせる。それからメッサーさん。あなたの言いたい事が良く分かったよ」

 レン君、体がまだ動かないのかな? ずっと膝枕のままで受け答えしているけど。それにしても、スキルを使いたくない理由が恥ずかしいからとか、そういうお年頃なのかな?

「一応、答え合わせをしてみようか?」

 メッサーさんが意地悪っぽく笑う。それに対してレン君は自信に満ちた笑顔で答えた。

「ああ。個体の強さは装備や相性、戦術や状況で全く変わってくるって事だ。多分、素手での殴り合いなら絶対にハイ・ゴブリンには負けない。だが、素手での殴り合いなんて現実にはまず無い。だから俺の相手の強さが分かるって能力は実戦じゃ全くあてにならないって事を言いたかったんだろ?」

「そう言う事だね。十分に理解したようだからくどくどとは言わないが……大したプレッシャーじゃないからと言って油断はしない事だ」
「ああ。身に染みた。それからヒメ。悪いまだ体が動かねえ。もう少しこのままで」
「……はい!」

 また空気が甘ったるくなったわね。さて、アイギス、今日はヒメの側にいて守ってくれてたんだよね? ヒメは分かってないみたいだから、あたしが代わりに褒めてあげるよ。ありがとね。よくできました! うりうりうりうり~♪

『ごろごろごろ~♪』

 さて! 今日はもうレン君無理っぽいから戦利品拾い集めて戻りますか! おっと、宝箱の中身も忘れずに回収っと。帰還のクリスタルをヒメとレン君の分確保しなくちゃね。

 何とか動けるようになったレン君を連れて迷宮の外へ出る。
 迷宮入り口横の、いつもの場所に魔法陣が開きあたし達が外へ出ると、偶然入り口で迷宮入りする所だったアインさん達がいた。

「おお、もう帰還かい? ん? レン君がやられたのかな?」
「こんにちは、アインさん。レン君はこれでも初見でハイ・ゴブリンを単独で倒したんですよ! もっとも、はりきり過ぎて自爆した感じですけど!」

 たはは~、と笑うレン君だけど、アインさん達や他の冒険者達がざわついている。

《単独でだと? マジか!》
《やっぱりフォートレスに入るにはそれくらいの実力がなきゃダメなんだな……》
《期待の新人出現だな》

(な、なあ。なんだかむず痒いから早くイングさんトコに行こうぜ)

 居心地悪そうにレン君がそう呟いた。
 

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