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74話 違和感

 潜んでいたもう一つの魔力反応はこの子だったのね。
 後ろを取られたレン君がピンチだと思ったのか、助太刀してくれたみたい。まあ、レン君もゴブリン程度に遅れを取る事はないだろうけど、そこは言わぬが花かしらね。

「おう。びっくりしたぜ。でもお前、助けに来てくれたのか。ありがとな! でも、いきなり出て来ると敵かと思っちまうから気を付けろよ?」

 残り一体を倒したレン君が、黒豹の頭を撫でながらお礼を言っていた。黒豹は気持ち良さそうに喉を鳴らして目を細めている。うん。やっぱり凄くおっきいにゃんこだよね。

「まさかとは思ったが、こっそり追いかけて来ていたか。どうするんだい? シルト」
「うう……あたし、この子連れて行きたい」

 みんな難しい顔してるなぁ。やっぱりダメかなぁ。

「あの、この子ってシルトさんには従順ですよね?」

 うん? そうかな? まあ、言う事は聞いてくれるみたいだけど。そこで、ヒメがとってもいいお話をしてくれた。

「人数は多くは有りませんが、テイマーという職業があります。獣や魔物を使役する人達なんですが、その子をシルトさんがテイムした事にすればいいのでは?」

 なるほど! ナイスだわヒメ!

「その手があったね、シルト! それでいこうか。君もそれでいいかい?」

 お姉ちゃんが黒豹に話し掛けているけど、そんなん分かる訳ないじゃん……って分かるの!? 今絶対コクコク頷いてたよ!?

「どうやらこの子は異常に知能が高いようだね。でもシルト。テイムした動物が何か事件を起こした場合は、全てテイマーに責任が降りかかる。その事は覚えておく事だ」

 メッサーさんが真剣な眼差しでそんな事を言うと、黒豹はまるで抗議するかのようにあたしの前に来て、メッサーさんを正面から見据えた。そんな事はしない。そう訴えかけるように。

『にゃお!』

「……ねえ、あなたは本当にあたし達の言葉が分かるの? 今のはあたしに迷惑はかけたりしないって事なのかな?」

 メッサーさんに向かって一声鳴いた黒豹に、あたしは敢えて、人間に語り掛けるように話した。

『にゃん!』

 すると、黒豹は首だけこちらに振り返り鳴いた。まるで、そうだよ! って言ってるみたいに。

「ふふふ。そうか、済まなかった。それにしてもお前は本当に賢いんだね。いいかい? 一緒に行くのならちゃんとシルトの言う事を聞くんだよ?」

 黒豹は、メッサーさんの言葉にまた頷いている。もう疑う余地はないわね。完全に理解してるわ。しかも、なんとなくだけど、この子が鳴き声で伝えたい事が、あたしにも分かる。

「……なあ、お前もしかして、ドロッと溶けてから違う姿に変身出来たりする?」
『うにゃ?』

 レン君がバカな事聞くからこの子も首を傾げてるよ。ん? レン君の世界じゃそんな事出来る猫がいるの?

「バカだな。いる訳ねえだろ」

 ……バカにバカって言われたよ_| ̄|〇

「ところでシルトさん、この子に名前を付けてあげませんか?」

 名前と聞いて黒豹の耳がぴくっと動く。ああ、可愛い。

「そうね、さすがヒメ! 名前名前…そうね、ロデm――」
「やめろバカ。あんたがなんでその名前を知ってるのかは知らねえが、それだけはダメだ!」

 ……なぜ? おバカなレン君にバカって言われるあたしはカースト最下層?

「じゃあねぇ……アイギス! あたしはみんなを守る盾だけど、あなたはあたしを守る盾になってね?」

『うにゃん!』

 ああ、可愛い……癒されるぅ。こうやってすり寄って来るの、たまらないわぁ……

「ほら、シルト。蕩けてないでそろそろ出発しよう」

 はあい……

*****

 違和感を感じたのはオーガとの戦闘。何と言ったらいいのか……能力が上がっているような、五感や筋力、反応速度。人間としての能力が底上げされているような。
 ゴブリンやコボルト程度が相手だと、弱すぎて良く分からないんだけど、ある程度の強さを持った敵と戦うと分かる。
 違和感が実感になったのがオークジェネラルとの戦闘。ジェネラル率いるオークの一隊を相手に無双したレン君を見た時。レン君は魔法を絡めたトリッキーな剣術で戦うのが本来のスタイルで、お姉ちゃんと同じ魔法剣士。だけど、魔法無しの剣術だけでオーク達を圧倒していた。

 ヒメは回復と支援魔法で味方を援護する、完璧な後方支援キャラだったんだけど、牽制程度には攻撃魔法も使える。それが、今までは魔力不足で使えなかった範囲支援魔法が使えるようになったって言ってたよ。

 そしてさらに、実感が驚愕に変わったのはアイギス。確かに野生の黒豹って、素手の人間じゃまず勝てないくらいには強いけど、だからと言ってオーガに勝てる程強くはないはず。

『がるるるっ!』

 それが怯みもせずにオーガに立ち向かい倒してしまった。

「……これってどういう事でしょうね?」
「なぜかみんな一様に強くなってるよね……」

 あたしとお姉ちゃんが、レン達の戦闘を見て首を傾げていると、戦闘を終えたレン君達も、やはり首を傾げながら戻ってきた。

「俺、宮殿から逃げる前はこんなに強くなかったぞ?」
「私もです。体内の含有魔力が跳ね上がっているような気がします」

 そんなみんなを見渡していたメッサーさんが、何かに気付いたように呟いた。そしてあたし達も閃いた。

「心当たりがあるとすれば……」
「「「「「ドラゴン肉!」」」」」
『うにゃん!』

 まさかとは思うけど、ドラゴンのお肉を食べて強くなるとかどんなファンタジー?

「これは……大きな問題ですね。お肉を食べただけでお手軽に強くなれる事が、悪しき心根の者に知れ渡ったら……」

 確かにね。力尽くでもドラ肉を手に入れようとする者が続出しそう。

「そうだね。これは権力者に知られるのも良くないかも知れないが、私達の間で秘密にしておくべき問題でもない。幸い、迷宮街まであと少しだ。ギルドマスターの前に迷宮支所の所長さんに相談してみよう」

 ああ、そうね。セラフさんなら事の重大さをきっちり考えて対応してくれそうね。

 そして迷宮街へと帰還したあたし達に、驚愕すべき事実が待ち構えていた。
 

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