異世界人、失踪する(中編)
「この間、ユーさんと一緒に平舞台の刑事物を見てただよ」
ナマリさんは刑事モノ好きだからなぁ。
ボクも異世界時代劇にはちょっとうるさいが。
というかナマリさん、ユーさんと一緒に平舞台を見るほどの仲になってたのか。
寮は男女別だから、どこで見たのかが気になる所だが、まぁそれはさておき。
「それで、その最後の方のシーンでユーさんがつぶやいただよ。ここ行ったことがある、って」
ああ、刑事モノで定番のあの印象的な崖のシーンか。
記憶喪失の彼が知ってる、数少ない知ってる場所だというなら、確かに行方不明になってる今足を運んでる可能性はあるな。
ただ、ここからあの場所まで結構距離があったような。
「新幹線と特急乗り継いで二時間半って所かしら。じゃあ、みんな行くわよ」
工場長は簡単に行ってのけるが……えっ、会社は??
「会社とユーちゃん、どっちが大事だと思ってるの!」
ああ、たしかにそうなんだけど。でも、おおっぴらにそんな事を行ったら。
「オレも、行きます」
ほら、ブリキがまた不機嫌に……って、ええっ!?
「なんだアルミ缶、オレが同行するのがそんなに驚くことか?」
いや驚くことですよ今までが今までだし。こりゃ明日雪が降るかな。
「おいアルミ缶、後で説教な」
というブリキの小言は無視するとして、かくしてボクラは会社総出でユーさんを迎えに行くことになった。
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そして電車を乗り継いで二時間後。
我々一行、プラス活弁士の時任チタンさんは目的地に到着した
観光地としても有名なこの崖は、夏休み中ということもあって多くの人で賑わっていた。
日本随一の奇勝とも呼ばれ、その奇妙で特徴的な岩々が独特の雰囲気を形成し”物語映え”する場所である。
海に近い事もあり、地元特産品として有名なカニを始め海の幸を売る店が多く並ぶ。
見てるとお腹が空いてくるが、今はソレどころではないな。
とりあえずユーさんみつけたら、心配掛けた料としてたっぷり奢ってもらおう。
しかし、それにしても。ここは刑事モノで見てた感覚以上に範囲が広いな。
「手分けして、探しましょうか?」
そう工場長が提案し、ボクらは3班ほどに分かれて捜索を始めるのだった。