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勝ち気な活弁士の謝罪

「バカモン!」

 報道部に足を運んだ時任チタンに、上司からの雷が落ちる。

「腹を立てて取材相手を殴るとか、活弁士として最もやっちゃいけないことだろうが!」
「で、ですが万貫(マンガン)部長」」
「デスガも春日もない!しかも話を聞けばお前、全然相手の裏を取ってないよな?」

「と、言いますと?」
「ああもう、そこから説明しないとわからんか」

 万貫部長と呼ばれた男は、呆れたように頭を抱えた。

「お前さんの言い分だと、その記憶喪失だかの男が余計なことをして、それで皆が危ない目にあった……てことだが、本当にそうか?」
「間違いない、と思いますが」
「そうだな、お前が思っただけだな。相手に確認してないな」
「……はい」
「加えて同じく危機に遭ったお前以外の、会社の誰かが、そいつを責めるような仕草を見せたか?」
「いえ、むしろ応援していたように思います」
「となれば、何か深い事情があって事件が引き起こされた。むしろその記憶喪失の男すら被害者の可能性が高い」
「あの……深い事情とは?」
「馬鹿野郎っ!それを調べるのがお前さんの仕事だろうが。
 いいか、まずはきっちり謝罪、それから事実を正確に聞き出してくるんだぞ?」

        ↑  ↑ → ↓

「というわけでしてっ、本当に申し訳ありませんでしたっ!」

 事情を話したチタンさんが、深々と頭を下げた。

「あらあら、そんな気にしなくても良かったのに」
「ですがっ」

 チタンさんはちらりと、後ろを見る。
 スズちゃんとナマリさんが、彼女を怖い形相で睨んでいた。
 少なくとも二人は彼女を許すつもりはないらしい。

 ボク自身もまぁ、良い気分はしないかな。
 お詫びの印に彼女が持ってきた高級ういろうには惹かれるが。
 これ、ボクの好きな菓子屋のやつなんだよね。

「何より、ユーちゃんが気にして無いと思うわよ。
 それに何ていうか、私と貴方は被害者仲間、みたいなもんじゃない?
 だから、今回の件はノーカン。取材も自由にしてって良いわよ。

 ……あなたたちも、それで良いわね?」

「まぁ工場長が、そう言うだ。仕方ないべな」
「納得はしませんが、分かりましたっ」 

 工場長の鶴の一声で、スズちゃんとナマリさんも鉾をおさめた。

「ありがとうございます。ところで……ユー様はどちらに?」
「ああ、それね。ちょっとタイミングが悪かったわねぇ」

 工場長は顎の下に手を置いた。

「うちの鉄ちゃん、鋼谷鉄平と野暮用でさっきお出かけしたばかりなのよねぇ」

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