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第41話 普段忘れている部屋

「くっそ、何なのよあの黒猫は。あの猫のせいであたしの作戦めちゃくちゃだわ」
 黒水晶は液晶テレビを眺めて呟いた。手にした白彩のザラメ煎餅がテーブルの上で砕けている。またしてもテーブル席に女王は不在だ。
「女王陛下は?」
 世話係の蜂人に黒水晶は訊いた。蜂人はジージーと口許で音を立てていたが、かれのテレパシーを黒水晶は受信できない。埒が明かないわね、と黒水晶は立ち上がり、城内を探して居ないと分かると、城の外へと出て行った。ここでの生活に慣れるのに少し時間がかかる。

「陛下、陛下!」
 黒水晶はようやく木の下で屈んでるサリー女王を見つけた。広大な地下空間の一角のなし園で、女王はなし狩り……いや、膝を抱えてブツブツと呟いていた。
「……え? あぁ黒水晶さんか。どうも……こにちは」
 黒水晶さん? なんか変だな。
「今日も収穫なし?」
「は、はい。申し訳ありません。残念ながら。ですが……」
「なし狩り、寂し狩り……」
「女王陛下、そんなに落ち込まないでください」
 黒水晶は女王のあまりの変貌ぶりに心配した。
「だってさ、もうありすたちにはすぐ逃げられちゃうし、雪絵も時夫さんもわたしのものにならないシ」
 落ち込みすぎだ。
「これじゃあたし、トムとジェリーのトムみたいじゃない」
「元気をお出ください。ルパン三世の銭形警部よりはマシですよ」
 それのどこが励ましの言葉なのだろう。
「とっておきのロイヤルゼリーが出来上がりましてございます。さ、お城へ戻りましょう?」
 黒水晶に手を引っ張られたサリーは終始うなだれたまま歩く。
 城へと連れ戻した黒水晶は、テーブルの上にゼリーの載ったカクテルグラスを一つ置いた。
「白井雪絵から送水口ヘッドが吸い取ったエネルギーの結晶です。ロイヤルゼリーの代わりにお召し上がりください」
 白っぽい半透明のゼリーは、サリーがグラスを揺らすとプルプルと震えた。サリーはそれを銀のスプーンで口に運んでいく。
「あぁ……美味しい。美味しいわよコレ、黒水晶」
 パワーがみなぎったサリーは目を輝かせた。
「良かったです。元気になられたようで。今はそれ一杯だけですが」
 雪絵の結晶を食べて回復したサリーは訊いた。
「奴らは?」
「北北西に進路を取ろうとしています」
「何それ」
 二〇一七年の節分の恵方巻きの方角は北北西だが。
「あー要するに『北』です」
「ふーん」
 サリーは頬杖してテーブルに視線を落としている。
「す、少しは関心を持ってください。今度は違います。こっからは。東側も結局出られませんでしたし、奴らは着々と包囲網の中に追い込まれています。トキエは逃がしません」
「時夫さんと雪絵でしょ」
 サリーはフフフと笑った。トキエって。
「あっ。そ、そうです」
 今回の黒水晶は随分とはりきっている。食堂は 「キッチリスタジアム」の間接照明に切り替わった。
「わーたーしぃーの記憶が確かならば、宇宙を征服した銀河帝国の実権を握る暗黒卿と、それに対する抵抗者たちを描いた『スターウォーズ』は、七十七年の初ロードーショーより現在もなお、絶賛続編製作中である。遠い昔、遥か彼方の銀河系で……」
 液晶画面に、音声文字化ソフトが黒水晶の言葉を表した文章がズラズラと流れている。もう、羞恥心も吹っ飛んでいた。
「え? え? まっさか、南でライトセーバーが出てきたからマサカとは思ったけど……」
 サリーの大きな眼がお立ち台に釘付けになっている。
「冬将軍が枯葉の軍団を率いてやってくる! 蘇るがいい、アイアンハンター! 北の鉄人、1ダースベイゴマー!!」
 スポットライトを浴びて現れたのは、二メートルを超える黒マントに黒兜を身に着けた暗黒卿そのモノであった。
「君とは、美味い酒が飲めそうだね」
 サリーはにやっとして、立っている黒水晶を見上げた。

「寒みー寒みー。サミー・デイビスJrだよ」
 ウーが両腕をさすって、戦車の中にも浸透してくる冷えと戦っている。冬に海なんか入ったからだろう。いや確かに東は、南国だったが。
「誰それ」
 といいつつ、時夫も同感だった。さっきの太平洋が「うそ」のように寒い。寒い寒い。
「南側はグランドキャニオン、東側は西表島。恋文町の周りは一体どうなってるんだ。地下勢力の力とも思えない。ひょっとして恋文町って、宇宙空間に浮かんだりしてんのか?」
「やめときなさいよ。へんな事いうの」
 とありすは時夫に忠告したが、さすがに「意味論」が働いたとしても町全体が「うる★やつら2・ビューティフルドリーマー」のように宇宙空間に浮かんでしまうようなことは起こらないだろう。時夫自身が言ったとおり、いかに地下帝国の地上への侵略が顕著でも、地形を改変してしまうような力はないはずである。もちろん箱庭ですらない。だとしたら、一体何なのだろうか。
 東のドツボ町を抜けられず、ありすらは完全にドツボに嵌っている事を認めたくはない。南、東と駄目なら、北側から脱走しようということで、古城ありすたちは時夫の住む恋文ビルヂングへと来た。シャーマン戦車が住宅街のアパート前の駐車場にデンと停まっていると異様だ。
「なんでウチに来るんだ」
「だって金時君の家、北にあるんだから。しょうがないでしょ」
 時夫の部屋は102号室。さすがに四人が入ると部屋は途端に狭くなる。
「確か、時夫さん隣の部屋も実は時夫さんの部屋だって言ってましたよね」
 元気になった雪絵は言った。
「何それぇ」
 ウーがびっくりして時夫を見つめている。
「へぇ~やっぱり変なアパートね」
 ありすは注意深く観察する。
「……やっぱり?」
 何か意味がありげなありすの言葉に、時夫は気になる。この部屋で、また何かの「匂い」を感じたのだろうか。
「契約書の最後に小さく書いてあったんだ。隣の部屋、住人が入るまでは自由に使っていいって。それで、雪絵をかくまった時に初めて使った」
「その部屋、見せてくれる」
 大体時夫のアパートは平凡そのもので、さすがにここで「不思議現象」は起こらないと確信している。学生が一人で住む分には困らないが、多少狭いのでこうして何人も入ると狭さを痛感する。それが白彩から雪絵をかくまった際に、普段忘れている部屋の存在を急に思い出したのであった。考えてみれば不思議である。
 時夫は押入れの戸を開けると、その壁にある扉をさらに開けた。
「ホントだ……」
 四人はぞろぞろと隣の部屋になだれ込んでいく。
「部屋の間取りは全く一緒ね。なぜか家具がある……」
 ありすが電気をつけた。
「ほんとにここ、誰もいないの?」
 ウーが不思議そうに家具類を眺めている。本棚の中の本もそのままだ。
「あぁ。前の住人がそのまま置いてったらしいんだ。それも使っていいんだってさ。もし人が居たら押入れの戸は、大家が鍵を閉めていて開かないはずだ」
 家具はあるが人の気配はない。埃っぽく、無人化して久しいことが分かる。よく考えると変な話だった。……大家に確認していないが、ひょっとして事件でも起こったのか。
「ちょっとその契約書を見せてくれない」
「別にいいけど」
 時夫は自分の部屋に戻ると賃貸契約書を持ってきた。
 ありすはじいっと長い睫を落としてページをめくって、一行一行確認していたが、パッと顔をあげて時夫を見た。
「金時君。大変。最後まで読むとすっごい小さい字だけど、もし住人が入らなければ皆君が使っていいことになってるよ。一階部分全部」
「え? ……まさか」
 時夫は慌ててこの部屋の押入れの中に入っていく。扉はギィと開き、その隣の部屋に行くことができた。なるほど、隣のさらに隣の部屋も、押入れの隠し扉から行くことができる。しかしどの部屋も家具が置きっぱなしで、なぜかそのまま部屋主が出て行ったようだ。何があったのかは知らないが、時夫の部屋は物凄く広かったことになる。もっとも、時夫の部屋の右側にある部屋だけは扉が閉まっていたが。全く気にした事はなかったが、このアパート自体が不思議だったのだ。どうりで一階から何も物音がしなかった訳だ。普段忘れている部屋。それは一階部分にある五つの部屋のうち、右側の部屋を除く、左側四つ全部が金沢時夫の部屋だったのである。いや、最後の部屋は扉が開く事を確認したものの、まだ入ってはいない。なぜなら、古城ありすがパッタリと二番目の部屋の畳の上に横になり、そのまま大の字で寝てしまったからである。
「金時君、ちょっと横になっていい。あたしちっと疲れた。おっちゃんもうダメ」
 女子高生じゃん。だが無理もない。実は時夫も寝不足で限界だった。元気なのは「スネークマンションホテル」でぐっすり寝れた白井雪絵だけだ。雪絵は掛け布団を引っ張り出してありすに掛ける。ウーはというと、またすでにどっか行っている。
「俺も……少し休んでもいいかな」
 時夫は遠慮がちに雪絵に訊いた。
「あっどうぞどうぞ」
 雪絵には、三人が「スネークマンションホテル」で夜中じゅう格闘し続けたことを言っていない。だが、雪絵は何となく察してくれたようだった。静寂(しじま)が部屋を支配し、久々に平和的日常に戻ってきたようだった。二番目の部屋にありすが倒れ込むようにして寝ており、時夫は三番目の部屋で寝ている。
 自分の部屋がこんなに広かったなら、もうちょっと早く気づけばよかった。狭い部屋の中で行ったり来たり、荷物をあっちにこっちに移動させたりする必要なんてなかったのだ。使い切れないほどのスペースを時夫は使えたはずだった。よく考えてみると、何度か他の部屋の存在を思い出していたのだが、その都度忘れていた。初めて開けたのが雪絵が来たときだった。そういうことって、他にもあるかもしれない。いつも本棚の中に眠っている本とか、あるいはこれ作ろうとか。その時やらないと永久にやらないものかもしれない。思い立ったら雉汁(×吉日)だ。
 四つの部屋が時夫の部屋だったこの「恋文ビルヂング」もやっぱり普通ではない。さしあたって何をする予定もなかったが、創意工夫のしがいがある。考えただけでワクワクしてくる状況だ。ま、この恋文町にとらわれ、一歩も外に出られていないという現実を考慮しなければ、だが。……考えるのは後にしよう。時夫は疲れの中で泥のように眠りに落ちていった。

 コトコト……コトコトコト……。

 まだ確認していない四番目の部屋から音がする。時夫がむっくり起き上がると、部屋の隅で何かを調べていたらしい雪絵と目が合った。時夫と雪絵は、押入れを開け、四番目の扉を開いた。そこも全く同じ間取りの畳部屋だった。だが、他の部屋と違って向かいの壁にはもう一つの窓があり、日差しが差し込んでいる。窓の向こうに、二階へ上がる階段が見えていた。
 畳の上にはちゃぶ台があり、その上にガス線が引かれた鍋が載っている。鍋は、コトコトとうまそうに煮立っている。そこへ玄関から、うさぎが寝ぼけ眼のありすを連れて入ってきた。
「おーい、できたヨー。あっ、二人ともここに居たんだ」
 ウーは満面の笑顔でちゃぶ台に正座した。時計を見ると十一時過ぎ。九時にアパートの到着したから、二時間ほど寝ていたことになる。その間にウーはなぜか四番目の部屋で鍋を作っていたようだ。
「電気もガスも通ってるよ」
 この部屋もやはり電気もガスも通っている。ウーはわざわざ薔薇喫茶から鍋の材料を取ってきたらしい。もっともテーブルの上を見ると、いつの間やら時夫の冷蔵庫も荒らされた形跡がある。炊飯器まで持ち込んで、お米が炊けている。なら元の部屋でやれよと思うが、この部屋を選んだのは日差しが入ってきて気持ちいいからだし、他にはないちゃぶ台や、鍋があったからだろう。
「気が利くじゃん」
 ありすが微笑んで、珍しくウーの鍋奉行としての采配を評価した。材料はまともそうだ。やれやれ、闇鍋じゃなくてよかった。日差しも明るいし、温かくなってきた。小春日和。他の行動はともかく、ウェイトレスである石川ウーの料理の腕前は絶品だ。
「やっぱ冬はコレよね。温かいものでも食べないとね」
 ウーの言葉で、皆で食べる。東側の常夏状態が普通じゃないだけで、今は冬である。これほど鍋が似合う季節もない。
「一人一部屋いけるわね」
 ありすがとんでもない事を口走った。
「お、おい。ここに居座る気か?」
「別にィ? 一階は全て無人だった……って事よね。金時君の部屋の左側四つとも。反対側は確認した?」
「あぁ、あそこは確か扉は空かなかったはずだ」
「誰かいるの?」
「……ン~、そういわれてみると人の気配がしない、かも」
 ただの部屋だと思っていたが、時夫の部屋の右側も、何か訳ありなのか。一体何の扉だ?
「ということは、あそこは何かしら」
 ありすは最初にアパートに来たときから、気になっていた様子だった。
「いや、入れないのが普通だろ。そんなに不思議なことばかりある訳がない。俺のアパートまでさ」
 あったら困るというのが正直な感想だ。
「十分不思議ジャン! 時夫のアパート」
 ウーが春菊とエリンギともち豚をポン酢につけて掻きこむ。それを言われると黙るしかない。まさか自分のアパートまでもが、と思う。だが、これまでのような超常的な不思議現象とは違って、ここは「月夜見亭」のような不思議さ、とでも言ったらいいのだろうか。きっと大家が変人なのだろう、それくらいしか想像がつかないが。
「美味しいですね。うさぎさんの料理」
 雪絵の白い雪のような肌が体温があがって、ピンクに染まっている。
「ね、時夫さん。美味しくないですか?」
 このセリフ表現、なんだか伊都川みさえみたいだった。
「あ、あぁ……」
「ありがと。なんか元気そう。雪絵さん。昨日、スネークマンションに泊まったのは正解だったかも。ネ、ありすちゃん」
 ウーは笑った。付け加えると、ウーの奇妙な立ち回りが結局ホテル脱出の決め手になったのだ。
「そうね。決断してよかった。どうにもならない時は、あえて無理はしない方がいいかも」
 猪突猛進型の古城ありすから、こんな台詞が聞こえてくるとは。ここ何日かで、漢方師の魔法少女は一段と成長したのかもしれない。
「念のため聞くけど、二階は?」
 ありすが白米を口に放り込んで訊いた。
「行ったことないけど」
「物音はするの?」
「するみたいだね」
 さすがに、二階まで時夫の部屋だったら大変だ。あるいは、「恋文ビルヂング」が丸々時夫のものだったとしたら。ありすはその可能性を考慮したみたいだが、幾らなんでもそれは荒唐無稽な発想というもの。そんな事があってたまるか。
「じゃあ、ちょっと観てくる」
 そういって茶碗と箸を置いたありすが立ち、ウーが続けて出て行った。
 二人がドアを開けて、外階段をカンカンと上っていく様子が窓から見えている。
「全く、ごちそうさまも言わねーで……」
 時夫は苦笑した。それともまだ二人は食事を続ける気なのだろうか。
 雪絵はにこにこと時夫の顔を見ている。食欲もあるし、本当に元気になったみたいだ。もう月光パワーだけでなくても、エネルギーを充電できるのかもしれない。ほのぼのとした雰囲気が流れる。
「あーすっかりごちろそうになりました。うさぎさん、とっても料理お上手ですね」
「ま、まぁな。喫茶店のウェイトレスだしな。料理の腕だけは一流さ」
 石川うさぎ、確かそんな名前だったな。ありすも時夫もウーというので、彼女の本名をすっかり忘れている。
「私もお料理もっと勉強しよっかな。白彩でも、店長に怒られてばかりだったし」
「あぁ、あれはでも店長が……その、地下から来たロクでもない一味だったから」
「私も、少しは皆さんの役に立ちたいです。わたし、いつも皆さんに助けられてばかりで」
「そんな。君は気にしなくていい」
「いや……でも、あの夜みたいに、私も地下帝国と戦おうと思えば戦えるんじゃないかって思ってるんです」
 確かに、白彩店長の死体をセントラルパークまで運んで埋めてしまおうと大胆な提案をしたのは、白井雪絵だった。雪絵はその後、店からリアカーを引っ張り出してきて、二人で公園まで運んだのである。
「とはいえ、自分に何ができるのかまだ分かりません。科術が使えるわけでもありませんし。ちょっと他のお部屋を見てきていいですか?」
「ア、あぁ。雪絵」
「何でしょうか」
「外には出ないように」
「はい」
 素直な笑顔で答える。かわいい。

 時夫は、食事と三人の少女のやり取りで満たされた気分になっていた。うららかな昼下がり。なぜかありすとウーが二階から戻ってこないが、何をしてるんだろう。ここがダンジョンになっている、いやそれはありえない。どーせてんとう蟲かカマキリの卵か何かを観て管巻いてるんだろう。とか考えていると、白井雪絵が戻ってきた。
「二番目のお部屋は部屋主がグルメマニアだったみたいで、お料理の本と、缶詰など保存の利く食材がいっぱいありました」
 缶詰・瓶詰・乾麺などの乾き物。それがごっそりと賞味期限をたっぷり残してキッチンの収納の中に保管されているらしい。それらも、時夫のものだというのか。
「これを使えば、お料理の勉強ができるかもしれません」
 雪絵は持ち出した数冊の料理本をパラパラとめくっている。確か二番目の部屋には大きな本棚があったはずだ。
「本当か? もう一つは?」
「……ミリタリーマニアです」
 雪絵はガチャっと機関銃を持ち出した。たぶん、エアガンだ。だが、それにしても凄い重量感と本物と見まごう質感だった。三番目の部屋、つまりこの部屋の隣にあったものである。
「こんなものまで」
 古城ありすみたいなミリタリーマニアがこのアパートに住んでいたのだろうか。ありすが見たら大喜びするだろう。
「アイ・ハブ・ア・ポップコーン」
 雪絵はちゃぶ台の下からポップコーンの種の入った袋を取り出して見せた。
「アイ・ハブ・ア・機関銃」
 そして左手に機関銃を持つ。
「ア~~~ン」
 ポップコーンと機関銃をガチャンと合わせる。
「……ポップコーン機関銃!」
 ポップコーンの袋は機関銃に当たった途端、なぜかパンと弾けて消えた。銃弾として、装備されたかのように。
「えーっ!! 誰でも出来るのかそれって」
 時夫はのけぞる。
「フフフ、私も科術は使えませんが、『意味論』は誰にでも平等ですからね。でも、この技は最初に思いついたモン勝ち、って感じがします」
 雪絵はでっかい機関銃を白魚のような両手に持って、微笑んでいる。
「ちょ、ちょっと来て! 二人とも。二階が大変なことになってる」
 階段を途中まで下りてきたありすが窓から顔を出した。血相を変えている。
 二人は立ち上がった。何があっても不思議じゃない。何があっても驚かない。時夫はライトセーバー誘導棒を、雪絵はポップコーンマシンガンを持って二階へ上がっていった。

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