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26話 軍人と冒険者

 あたし達『フォートレス』がもたらした迷宮発見の報は、良くも悪くもギルドを、そして街を騒がせている。
 魔物が活発になるという事は冒険者の活動も活発になる。それは経済に活性化をもたらし、商人の交易も増え護衛の依頼も多くなる。対して、戦う力のない弱者は一年と少し前の魔物の氾濫の記憶に恐怖していた。

 今、ギルドの上層部では、迷宮対策の草案を急ピッチで作ってるんだって。あたし達はと言えば、現状は魔物の駆除がメインのお仕事になってるわね。特に街から迷宮までのルートに道を敷き始めてて、その工事の人達の護衛も兼ねてるの。兵隊さんたちも手伝ってくれてるのは助かるわ。ただ軍隊は集団戦には強いけど少数での戦いはあまり得意じゃないんだって。だからね。

「悪いけど今日も教えてくれるかい?」

 ってな感じで、各ポジションの役割とかパーティ単位での戦闘のコツとか、いろいろ教わりに来る兵隊さんが増えたんだ。

「あのね、おにーさん達! まずパーティで戦闘するにはバランスが悪いの! 五人全員が弓ってどうなの?」

 そんな人達もいたし。でもそれにはやむを得ない理由もあるらしくて。

「シルト。軍という所は指揮系統が武装毎に別れている事が多いんだ。騎馬隊とか弓隊とか、重装歩兵とかね。でも確かにこれは後々問題になるかも知れないね」

 ほえ~、さすがメッサーさん、博識!

「だからおにいさん達、ボクらの編成を参考にしたらいいよ? タンク、近接アタッカー、遠距離攻撃担当、欲を言えばヒーラー。これだけ揃えばかなり戦い易くなるから、戻ったら上の人に相談してみるといいよ!」

 ラーヴァさんの助言を聞いた兵隊さん達は、突如として理解したような表情になった。

「なるほど! 軍の編成を思い切り縮小したのがパーティってわけだな。ありがとな、嬢ちゃんたち!」

 なるほどねえ。そういう風に考えればすんなり理解できるのかぁ。あたしも、もっと軍隊の事を勉強しなくちゃかしら?
 それはそうと、『嬢ちゃん』って呼べる歳なのはあたしくらいしかいないのに……ラーヴァさんなんて百……

《ゴンゴン!!》

「いっ! うえっ!?」

 ゲンコツが二発落ちて来た!?

「シルト。今すっごく失礼な事考えてたよね? よね? ボクの年齢三桁とか」
「シルト。私にも心の声が聞こえた気がしたのだ」

 まさかの二連撃……

 まあ、それでもこの街の兵隊さんは練度が高いから、雑魚魔物に足元を掬われるなんて事はなくて、今も危なげなくゴブリンの群れを片付けている。ただ問題なのが……
 魔物の『個』の強さが兵隊さんの『個』を上回った場合ね。

「うわぁ!!」
「くっ! コイツ手強い!」

 ほらね。連携も出来てないし。しゃーない、行きますか!

「下がって!」

 魔法具の足甲に魔力を流して、兵隊さんと敵の間に割って入り、盾で敵の攻撃を弾き返す。敵はゴブリンの上位種ゴブリンソルジャー。普通のよりおっきくて剣を装備してる。普通のゴブリンなんて大概は木の棒よ?良くてもどこかで拾ったような錆びたナイフとか。

 取り敢えず目の前のゴブリンソルジャーの攻撃を捌くと、バランスを崩して隙だらけになった。すかさず横っ面にモーニングスターの一撃を食らわせたけど無手の左腕でガードしてきた。でも!

「あたしはこれでもオークキングと殴り合いしたのよっ!」

 ガードした腕ごと顔面を叩き潰されたゴブリンソルジャーは吹っ飛んで行く。敵はまだいる。あたしのスキル『魔力視』には木陰に隠れている敵が見える。

「ゴブリンメイジ!! おじさん達! 左右から回り込んで!」

 メイジが杖を掲げ魔力を練っている。でもさせない。

(集まった魔力よ、元通りに!)

 練っていた魔力が霧散したメイジは激しく狼狽えているが、左右から回り込んだ兵隊さんに為す術もなく狩られてしまう。

「おお~、さすが『星球撲殺』、安心して見ていられるよ、ボクは」
「そうだな、ゴブリンの上位種では肩慣らしにもならないだろう?」
「ちょっとぉ! 安心して見てないで参加して下さいよっ!」

 あたしの頼れるパーティーメンバは見学してました。なんて事っ!?

「いや~、ありがとな、嬢ちゃん。強いんだな。おかげで前線で体張ってるディフェンダーの有難みが分かったよ。部隊に戻ったら言っておかねえとな」

(シルト。これが『中年殺し』の効果だね)
(うん、シルトに関わった中年はみんなシルトのファンになるよね? 羨ましいな、ボク。ッププ!)

 あたしにお礼を言いに来た兵隊さん達が戻っていくと、メッサーさんとラーヴァさんが、それぞれ左右から耳打ちしてきた。それを聞いたあたしは愕然としてしまった。
 ……マジっすか!? これが『中年殺し』の効果だなんて……

「まあまあ、おかげであの兵隊さん達は連携とタンクの重要性を理解しただろう?私達が飛び込んでたらその機会はなかったんだ」
「そうだね。それに兵隊さん達の練度が高いから、理解するのも早いと思ったんだよ。彼等に足りていないのは魔物相手の実戦経験だからね」

 なんだか上手く言い包められてる気がするけど……みんな怪我が無くてよかったよ!

*****

 一月後、領主館。ケーニヒはシェンカー辺境伯の元を訪れていた。

「閣下。迷宮までの街道敷設、完了しました。後は拠点構築ですがプランはこのように」
「うむ。迷宮探索はギルド主導で、拠点構築は領軍主導で、か。いいだろう。軍の連中から報告が上がってきていてな。『対魔物戦闘は冒険者に一日の長がある』と」
「……はい」
「それで、先日騎士団から報告があったのだ。街道工事の護衛に派遣していた兵士が冒険者の少女に説教をされて戻って来たらしいのだが、その兵士が言うには、『体を張って敵を引き付ける前衛の必要性が身に染みた。それに後方から援護してくれる役割も。明日からはいろんな兵種をバランス良く編成した小隊で派遣して欲しい』とな」
「冒険者の少女、ですか」
「なんでも、モーニングスターを振り回して魔物を撲殺していたらしいぞ? 一度騎士団の腕利き共をその小娘のパーティに同行させてやろうかと思っている」

(ふふ、シルトめ、本人の与り知らぬところで影響力がある)

 ケーニヒとシェンカーは目を合わせ、どちらともなく笑い出した。

「ケーニヒ、そのパーティに指名依頼だ。こちらから派遣する小隊を教育しながら迷宮探索をせよ」
「は。なるべくハートの強いヤツを派遣なさいますよう」
 

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