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迷子幼女は、誰の子?


 母親を探す幼女。
 年齢でいれば幼稚園、4~5歳といったくらいか。
 その服装は独特で、頭には白縁取りの黒リボン、首元にも同色のリボン、髪の毛は銀髪の縦ロール、黒を貴重とした膨らんだスカートには白いレースのフリルが細かく縫い付けられており、靴下は白黒のストライプ、靴は黒い短めの編み上げブーツ。
 一言で言うなら、ゴシック・アンド・ロリータと称される衣装であった。確か西洋の貴族風衣装を模倣した格好だったか、よく知らないけど。

 そして、奇妙な格好をしているこの幼女は白人系の外国人で、雰囲気がボクの知ってるあの人にそっくりだった。

「あら、テルルちゃん。何故ここに?」

 その幼女に、工場長が声をかけた。
 ええと、お知り合いですか?

「知り合いも何も、この子の母親、アルミちゃんも良く知ってる人よ?」

 ああ、やっぱりそうなのか。
 と思っていると、寮からその母親が飛び出してきた。

「テル、一体何故ここにきたデスか?」

 そう口を開く大柄の外国人女性、シロガネさんことエレン・プラティナスカヤー。
 幼女は、この大柄女性の娘であるらしかった。

「ああ、皆さんに紹介しマスネ。
 こちら息子(・・)のテルル・プラティナスカヤー、デス」

 はっ?お母さん今何と?

「ムスコのてるデス」

 テルルくん(・・)本人がダメ押しに自己紹介した。

「む、息子さんですかっ!?」
「ど、どこから見ても女の子にしか見えねーべさ!」

 驚くスズちゃんとナマリさん。
 うん、普通はそう言う反応になるよね。

「で、そのテルルちゃんが何故ここに?」

 というボクの疑問に、シロガネさんとテルルくんが何やら会話を始めた。
 聞き慣れない言語はおそらく、彼女たちの国の言葉。
 どうも、テルルくんはカタコトの日本語しかわからないらしい。

「テルはワタシの元旦那カラ逃げて来たらしいデース」
「逃げてきた?
 ああ、男の子なのにそんな格好させられたら逃げたくもなるっスよね」

 同情するようにメッキくんが言うが。

「違いマス、何言ってるんデスカ!」

 シロガネさんが珍しく声を荒げた。

「テルの格好、とても似合ってるデショ!
 でも元旦那は気に入ってないラシク、普通の男の子の格好しかさせてくれなくて逃げてきたのデース」
「あっ、そ……そうなんスか?」

 シロガネさんの返答に、メッキくんが困惑したような顔をする。
 えーと、それは……どうなんだろう。
 多分色々駄目だと思う、この子の将来的に。

「そうよね、こんな可愛いのにもったいない」

 いや工場長、あなたもシロガネさん側ですか。

「でもどうするの?シロガネさん。いま親権は向こう側なのよね」
「はい工場長」
「ということは、このままうちで匿っていたら、誘拐で訴えられかねないわね」
「そうなりマス。もし迷惑かかるようなら、ワタシは息子を連れて……」

 工場長とシロガネさんが、今後を懸念する。

「出ていくって?
 ダメダメ、そんな薄情な事させられないわよ」
「デスガ」
「まぁ今後のことはおいおい、考えていくとして。
 とりあえず当面はテルルちゃん、うちの寮で預かるわよ」
「ヨロシイのデスカ?」
「テルルちゃんも、ママと一緒がいいよね?」
「うんてる、ママといっしょデス!」

 テルルくん本人がそう主張したのなら、もう決定だろう。

「ヨロシク、おねがいシマス」

 シロガネさんは深々と頭を下げ、工場長に今後を託したのだった。

 さて、その後ボクは家に帰ったので聞いた話でしかないが、テルルくんは女子寮でお母さんと仲良く寝泊まりしたらしい。
 お風呂の時には軽く大騒ぎだったらしいが。

 そして、翌朝

「新しい従業員を紹介するわ」

 と工場長が皆の前に連れてきたのは薄桃色、つまり女性用の作業着に身を包んだテルルくん。

「当分の間、倉庫担当の母親であるシロガネさんの手伝いをやってもらうことになったから」

 目を丸くする一同。
 テルルくんの事を知らないブリキと銀さんは、特に仰天していた。

「えーっと工場長。これ色々まずい気がするんですけど」

 とボクが口を進言するも。

「大丈夫、何かあったら私が責任取るから」

 と、工場長は譲る気が一切ない様子であった。

 ただ結論から言うと、元の旦那がその後押しかけてくることはなかった。
 子供のことより、厄介な騒動に巻き込まれていたからだ。そしてそれは間接的に、我が社にも関わってくることになるのだが、それはまた別のお話。

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