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9話 お知り合い?

「シルトはなぁ……ハウルの娘だ」

 鍛冶屋のおじさんが重々しく口を開いた。う~ん、ホントにどうしたんだろう。空気が重くて口を挟めないよ……

「!! そうか……君はハウルさんの娘さんだったのか……」

 え? メッサーさんはお父さんを知っている?
 あたしがびっくりしてメッサーさんの方を見ると、おじさんが説明してくれた。
 
「コイツはな、二年程前までお前の父さんのパーティにいた事がある。もっとも、1級に昇級した途端にどっかのパーティに引き抜かれたがな」

 そうだったんだ。おじさん、だからメッサーさんの事も知ってたんだ……

「メッサー。おめえさんがパーティを抜けた後、ハウルのパーティは解散しちまった。その後ハウルは若い連中を指導しながら、低ランクの連中と野良パーティを組んでたよ」
「そうでしたか……それでシルト。ハウルさんは息災かい?」

 そっか、メッサーさん、街に戻って来たばかりだから知らないんだ……

「父さんはこの間の魔物の氾濫で……」
「……な!?」
 
 メッサーさんは、信じられない、という表情で固まってしまった。メッサーさんの中のお父さんは、不死身のヒーローだったのかしら。それとも無敵の勇者?
 冒険者って、危険と隣り合わせの職業じゃない? だからいつ命を落としても、そんなに不思議ではないよね。
 少なくとも、1級冒険者のメッサーさんが驚くくらいには、ウチのお父さんって強かったのかな。
 そんなメッサーさんに、おじさんがお父さんの最期を語って聞かせた。

「ハウルは未熟な若いモンを逃がす為に前線に留まって……そして、街に運ばれて来た時はもう手遅れだった」
「そんな……嘘だ……あのハウルさんが!」
「……おめえさんがそんなに落胆するこっちゃねえだろ? 自身が見限ったパーティの男だ」

 そっか……それでおじさん怒ってたのか。でもそれってどうなのかな? メッサーさんが悪いの?
 お父さんが死んじゃったのは、己の責務を全うしたからで、その時メッサーさんがいなかったからじゃないよね。
 そりゃあ、メッサーさんがいて、ちゃんとしたパーティで活動していたら、お父さんの運命は違っていたかもしれない。でも、他の誰かがお父さんの代わりに死ぬ運命になっちゃったかもしれない。

「おじさんおじさん、どうしてメッサーさんを責めるの? あたしは事情をよく知らないけどさ」
「シルト。コイツがパーティを抜けたりしなけりゃおめえの父さんのパーティは解散したりはしなかった筈なんだ。もしかしたら、あの時の魔物の氾濫だってコイツがいればハウルは死ぬ事は無かったかも知れねえ」
「ふ……確かにそうだな。私はあの時昇級して天狗になっていたのかも知れない。もっと高ランクの冒険者と組めばもっと活躍してもっと沢山の人を助ける事が出来る、そう思っていた。だが現実はこれか……」

 う~ん……でも父さんはあの時満足気だった!
 誰も恨んでなんかいなかった!
 じゃなきゃ笑いながら死んでいける筈ないもの!

「おじさん! メッサーさん! 父さんは死ぬ間際まで満足そうに笑っていたよ? 誰も悪くなんかないよ。メッサーさんがいないから魔物が氾濫したの? 違うよね? メッサーさんは魔物の氾濫がある事を見越してパーティを抜けたの? 違うでしょ?」

 はぁ、はぁ、なんだか感情が昂っちゃった……でも、父さんが死んだのは本当に誰のせいでもないよ。

「……そうだな。シルト、メッサー。済まなかったな」
「いえ……私も。申し訳ありませんでした」

 二人とも……誰も悪くないってのに誰に謝ってるんだか……はぁ。

「おじさん! 今日はあたしの防具を見繕ってもらいに来たの! メッサーさんのアドバイス聞きながら選ぼうと思って!」
「おお、そうか。それならじっくり見て行ってくれ。メッサー、シルトを頼むぞ」
「ええ……ハウルさんの忘れ形見なら尚更です」

 ん~、どんなのがいいかなぁ。父さんは金属製の鎧を着ていたけど、さすがに持ち合わせじゃ足りないだろうなぁ。

「君は見たところかなりの腕力がありそうだね。どこかで見覚えがあると思ったが、その盾はハウルさんの物かい?」

 メッサーさんが、お父さんのタワーシールドをどこか懐かしそうな視線で見ながら言った。

「はいっ! 父さんの形見なんです。父さんみたいにみんなを守れる冒険者になりたくって。でもあたし、戦闘用のスキル無いんですよね。てへへ……」
「ハウルさんの盾ならかなりの重量だろう? それを使いこなしているのなら金属製の防具でも動きに支障は出なそうだが……」
「あははは、そんなにお金ありませんって! 初心者は初心者らしく革装備でスタートしますよ」

 あたしみたいなペーペーがいきなり金属装備なんて、また絡まれちゃうかもだし……

《おうおう! お前みてえなルーキーが金属装備だなんて生意気なんだよ! ハン! 1級冒険者サマのお陰で羨ましいよなぁ?》

 ……いけない。幻聴が聞こえたわ。
 そんなあたしに、高ランク冒険者からの有難いアドバイス。

「そうか……それならまずは胸当てとブーツ、肘と膝、籠手といったところかな」

 なるほど! 胸は重要なパーツよね! 将来の為にも守らないといけない場所だわ! 後はブーツも頑丈な物にしなくちゃいけないわね。

「おじさーん。予算これだけなんだけど。これとこれ! あとこれ! あ、これ以上は予算オーバーだわ……」

 ざっと計算したところ、胸当てとブーツ、肘当てを選んだところでオーバーしちゃった。ガーン!

「ふふ、なんだ、シルト。予算オーバーか? いいぞ、出世払いでも?」

 むぅ、なんだかおじさんがニヤニヤしてる! 負けた感じ?い や、勝ち負け関係ないけどさ!

「やだ! これ以上はまたお金稼いでから買いに来る!」
「ダメだ!!」

 わ! ビックリした!
 声を荒げたのはメッサーさんだった。険しさと悲しさが同居したような視線であたしを見てる。

「……シルト。これからの依頼は魔物との戦いの連続だ。装備を甘く見ては命がいくつあっても足りないぞ。ここはご主人の言葉に甘えてでも、きっちり装備は整えるべきだ」
「う、そうですか……そうですよね。わかりました! おじさん、ごめん! 貸しといて!」
「くっくっく……いいぞ。どれでも好きなの持っていきな」

 あれ? おじさん、さっきまでと違ってすごく優しい目。うん、あたしにだけじゃなくてメッサーさんにも。
 あたしは、場の空気が和んだところで革の籠手と膝当てを追加で選び、おじさんの所へ持って行こうとしたのだけれど。

「シルト。こっちの装備がいい」

 メッサーさんが持っていたのは膝から足首までカバーする革の足甲と、鋼の手甲。って、ええ~? そんな高そうな装備、あたしの負債はいくらになるのかしら!?

「ご主人、こっちの代金は私が持とう」
「へ? いやいやいや、ダメですって! あたしの装備はあたしが!」
「シルト。今後しばらくは君の家に厄介になろうと思う。これは宿代代わりだと思って受け取って欲しい」

 えー? でも……

「シルト、甘えておけ。メッサーの目は確かだ。大方お前の戦闘を見てたんだろうさ。その装備はいいもんだ。間違いない」
「う~ん……わかりました! それじゃあ遠慮なく頂きますね。その代り、メッサーさんも家を好きに使ってくれていいですから!」

 よーし! 装備も仲間も同居人も一気に増えた! 明日から頑張るぞぉ!

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