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二人の風夜

1
次の日になり、花音達は山の頂上でもある広い場所へ来ていた。
「さてと、じゃあ始めましょうか」
言って、沙羅が人形の紙を取り出すと風夜の足元に魔方陣が現れる。それと同時に、風夜の身体から何か黒いオーラのようなものが出てきて、沙羅の持つ人形へと流れていく。
少ししてオーラが止まると、人形は沙羅の手を離れ、次第に大きくなり、人の姿になっていく。
数秒後には、目の色以外は風夜にそっくりな少年が不機嫌そうに立っていた。
「……何のつもりだ?人をこんな風に外へ出して……」
「随分不機嫌ね。わざわざ聞かなくても、此方の目的はわかっているんでしょう」
沙羅に言われて、不機嫌そうなまま視線を移す。
「……ふん。そういうことか。お前達の狙いはわかった。だが」
風夜の姿を捉え、残虐な笑みを浮かべる。
「俺もそう簡単にやられてやるつもりはない。逆に俺がお前を取り込んでやるよ!」
そう言うと、〈風夜〉は風夜に向かって地を蹴り、突っ込んできた。
迫ってくる〈風夜〉の一撃を避けた風夜が、幾つもの風の刃を放つ。
「あまい!」
それでも構わず、〈風夜〉はニヤリと笑ってその中に突っ込んだが、自分の眼前に迫った剣に気付き、後方へ跳ぶ。
「ちっ、数打てば当たるとばかりに、闇雲に撃ってきてるかと思えば……」
「目眩ましにはなっただろ」
そう返した風夜の剣先から、僅かにかすった時に切れたのだろう銀髪が数本地へ落ちる。
「……気にくわねぇ」
更に不機嫌そうに表情を歪めた〈風夜〉が魔力を拳に集めて、一気に風夜との距離を詰める。
思いきり振りかぶり殴りかかった拳は、手に風を纏わせた風夜に止められていた。
「す、凄い……」
見ていた花音が思わず呟くと、沙羅が横でクスリと笑った。
「ふふ。この数日で彼の潜在能力を引き出し、上級魔族相手でも戦えるくらいには鍛えてあげたからね」
「この数日であそこまで持っていくなんて、どんな特訓だったのか気になるわ」
そんな沙羅と神麗の言葉が聞こえたのか、それすら気にいらないというように〈風夜〉が表情を苛立たせるのがわかる。
「気にくわねぇんだよ!人の分際で俺を支配下に置こうとしやがって!お前は、俺の支配下に入って、俺に身体を貸していればいいんだよ!」
言いつつ片足を振り上げ、横顔を蹴り飛ばそうとする。しかし、それも風夜の空いていた方の手で止められた。
「……そういうわけにはいかないんだよ。お前は、誰かを傷付ける為にしか力を使わない。……それじゃあ、駄目なんだ」
静かに返しながら風夜は受け止めていた足を放る。それでバランスを崩した〈風夜〉は体勢を整えると、フッと笑みを浮かべた。
「だが、わかってるのか?俺を取り込むということは、お前が人ではなくなるってことだ。もう戻れないぞ。それでもいいのかよ?」
「……それは沙羅から聞いた。その話を聞いた上で、俺は決めたんだ。王族の地位だって、必要ない。……今まで俺が築いてきたものがすべて壊れたとしても、俺はこの選択を後悔しない!」
「……そうかよ」
そう呟いた〈風夜〉が目を瞑る。
それと同時に彼の背に大きな翼が生え、魔力が放出されるのがわかった。
「だが、俺だってやっと自由を得たんだ。ずっといた暗い闇の中から漸く出られたのに、存在を消される訳にはいかないんだよ!」
「っ!!」
何処か悲痛な声で叫んだ〈風夜〉が魔力の渦を放ち、風夜が対抗するように放った風の渦とぶつかりあった。

「何?どういうこと?」
二つの力のぶつかり合いで起きた強風に飛ばされないよう踏みとどまりながら、花音は声を上げる。
「……〈彼〉もずっと存在していたのよ。風夜の……、いえ、お姉さまが風の国の王との間に授かった子以降、お姉さまの血を強く受け継いだ全員の中に、それも術によって、出てこれないよう奥深くに封じられていた。ただ今までは誰にも気付かれずにただ消えていた」
「術……、それは誰が?」
「お姉さまよ。お姉さまは、子孫達に普通に人として生きてほしかった。だから、魔族の血と力を封じる術を施していたの」
「……もう一人の自分の中に閉じ込められ、出てくることを許されず、存在も許されない。……少し可哀想ね」
強風に煽られる髪を抑えながら、神麗が言う。
風夜達の方へ視線を移せば、どちらも譲らない押し合いが続いていた。
「「うおおおぉっ!」」
お互いの力が高まり、エネルギーも莫大なものになり、最後には大きな爆発を起こす。
「きゃあああっ!」
「「っ!」」
その余波は花音達の方まで来て、後方へ飛ばされる。
爆風がおさまってから花音が身を起こすと、お互いに息を切らせている二人の風夜が睨みあっていた。
「……まさか、此処までやるとはな。……だが……」
言いながら、〈風夜〉が今までに比べると弱々しいが、手に魔力を溜める。
「もう、お前には、力を使う余力は残ってないはず。・・・俺の勝ちだ」
そう言い、風夜に向けて攻撃しようとした所で、その前に別方向から飛んできたエネルギー弾が彼を吹っ飛ばした。
「なかなか面白いことをしているじゃないか」
聞こえてきた声に花音が視線を動かすと、研究所にいた男と異形の姿になった者が一人立っていた。
「魔族と神族はなかなか手に入らなくてな。欲しいと思っていたところだ。……R-07」
男の言葉に、一緒にいた合成獣が倒れている〈風夜〉に襲いかかろうとする。
「させないっ!」
それを見て、花音は咄嗟に矢を放つ。
矢は当たりはしなかったが、足止めにはなり、倒れている〈風夜〉の前に花音は立ち塞がった。
「R-07」
「グアアア」
男の言葉にR-07の腕が竜の腕に変形し、花音に向かってくる。
ガギイィッ
振り下ろされた腕が花音に当たる前に割って入ってきた剣に受け止められ、激しく火花が散った。
「風夜……!」
「お前っ……」
歯を食い縛り、必死に押し返そうとしている姿を見て、〈風夜〉が目を見開く。
「……わるいが、こいつも……俺、なんだ。……お前の、研究材料なんかにされて、たまるかっ!」
「グガアッ」
渾身の力で風夜が腕を弾いたことで、R-07がバランスを崩す。が、その後すぐに体勢を立て直し、もう片方の腕も変形させると、今度は両腕を振り下ろした。
「ガアアアッ」
「う、ぐううっ!」
再び風夜は受け止めたが、体重も掛かった重い一撃に、膝が沈んだ。
「おいっ、どうして俺を取り込まない?取り込ませない?……お前は、お前達は、あの男が造った化物を倒すために、俺の力を求めたんじゃなかったのか!?」
自分を庇い、必死で耐えている風夜に〈風夜〉が何処か悲痛な声で言う。
「でも、勝負は貴方の勝ちなのでしょう?貴方が、彼を取り込むと言っていたじゃない?」
「っ……」
沙羅がそう返した時、風夜の剣に皹が入ったのが見えた。
「ウオオオッ!」
「ぐううっ!……うわああぁ!」
R-07の加えてくる圧力に耐えられなくなったのか、剣が砕け、丸腰になった風夜が吹っ飛ばされた。
「どうするの?このまま、彼が死んだら貴方もどうなるかわからないわよ?」
「ふん。そんなことになる前に、私達に協力しろ。お前がいたという証に、その力を有効活用してやる」
沙羅と研究員の男の言葉に、〈風夜〉が拳を握り締める。
「俺はっ……」
「……消えるわけじゃないよ」
呟くように言った花音の声が聞こえたのか、〈風夜〉の視線が向けられるのがわかった。
「どちらかがどちらを取り込んだとしても、取り込まれた方が消えるわけじゃない。貴方達は、二人で一人なんだよ。片方が生きていれば、もう片方も存在し続ける」
「……だが、取り込まれた方は、何もない闇の中で過ごすんだ。俺はもう………」
「……それは、風夜が、今までの人達が、貴方達の存在を知らなかったから、今ならもう其処に沈むことはないよ」
「…………」
そこまで言うと、不意に〈風夜〉が視線を逸らせる。
その先には、身体を起こしている風夜がいて、二人の視線が合った。
「……お前はどうなんだよ?俺が存在していてもいいのか?消えたり、あの闇の中に戻らなくても」
「それはお前次第だ。……花音の言うとおり、俺とお前、二人で一人なら、拒んだりはしない。……暴走されるのは困るけどな」
「……おい」
何かを決意したような目で〈風夜〉が沙羅を見る。
「何かしら?」
「俺の実体化を解け。……俺の負けだ」
「えっ?」
「確かに直接の戦いでは俺が勝った。だが、不意をつかれていなかったとしても、あの化物の攻撃を防ぐことは俺には出来なかった。それが出来たってことは、俺より余力を残していたってことだ。……それに」
「それに?」
「あんな訳のわからない連中に利用されるくらいなら、〈俺〉に協力する方が何倍もましだ」
「そう……、じゃあ、解くわよ」
沙羅が言ったと同時に、〈風夜〉の身体が光の粒子になり、風夜の中へと入っていった。

「さてと、どうかしら?気分は?」
「ああ。大丈夫そうだ」
襲ってきたR-07を一撃で倒した風夜を見て、研究員の男が逃げた後、沙羅が聞く。
答えた風夜の目は、左右の色が異なっていたが、瞬きの後同じ色に戻る。
「じゃあ、私の家に戻りましょうか。休息が必要でしょう?貴方の剣も砕けてしまったし、とっておきのを作ってあげる」
そう言うと、神麗はふふっと笑った。
「はい、出来たわ。使ってみて」
神麗がそう言って、風夜の前に短い棒のような物を置いたのは、一日経ってからだった。
「これは…….、剣の柄?これでどうするんだ?」
「ふふ、刃の部分は貴方が自分で作るの。魔力でも、本来の力である風でも作れるわ。それに自分で作るのだから、何も剣じゃなくてもいいのよ。貴方のイメージで、槍にもなるし、鞭にもなる。必要に応じて、形状を変えられるの。ね、便利でしょ?」
「……使いこなせるまでが大変そうだな」
溜め息まじりに言って、風夜はそれをベルトに差し込んだ。
「それにしても、神麗さんが作ってくれる武器ってちょっと特殊ですよね。私の弓といい、風夜の剣といい……」
「だって、折角作るのに、普通の物じゃつまらないじゃない」
笑ってそう言う神麗に、花音は苦笑するしかなかった。

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