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第3幕 旅立ち

1
(えっ……?)
いつになっても衝撃がこないことと、誰かに抱かれているような感覚に舞は目を開ける。
すると、すぐ近くに誰かの顔が見えた。
「誰……?」
ぽつりと呟いたのが聞こえたのか
視線を向けられる。
「怪我は?」
「えっ?あ……、大丈夫」
「そうか」
答えると短く返され、下に降ろされる。
舞を助けてくれたのは、見たことのない少年だった。
「何とか間に合ったか」
「そうね。間に合ってよかったわ」
その声に舞が視線を向けると、更に少年と少女が庇うように立っている。
その二人にも見覚えはなかったし、三人が何処から現れたのかもわからなかったが、何故か信じてもいいような気がした。
「…….お前達は!?」
「……よぉ、久しぶりだな」
「少し前からこそこそと動き回っていたようだけど、まだ懲りていなかったのかしら?」
舞を助けてくれた少年と庇うようにしていた少女が仮面をつけている者達に言う。
それにリーダー格らしい男が舌打ちした。
「ちっ、お前達ここは退くぞ!……次は我々と共に来てもらいますよ、『麗玲様』」
騒ぎを大きくしたくなかったのかリーダー格の男の言葉に全員が退いていく。
その際、藤岡のことを見てそう言い放っていったが、何故そのようなことを言ったのかはわからなかった。
「……助かったの?」
「みたいだね」
藤岡の声にそう返して、舞は助けてくれた三人を見る。
彼等の内、誰一人知らない筈なのに何故だか懐かしく思えた。
集団がいなくなったのを確認した三人が近付いてくると、舞は口を開いた。
「えっと、助けてくれてありがとう。私は神崎舞。あなた達は?」
「……俺は飛影。それから」
「星蓮です」
「莉鳳だ」
飛影と名乗った少年に続き、後の二人も名乗ってくれる。
「ところでさっきの人達は何だったの?あなた達は知ってるんでしょ?」
襲ってきた集団のことを知っているようだった三人に問いかけると彼等は視線を交わし合う。
口を開いたのは飛影だった。
「ああ、知っている。だが、ここで話すのは……」
「それなら私達の家に来ればいいわ」
その時聞こえてきた声に視線を向けると、舞にとっては何度か会ったこともある女性が立っていた。
2
「はい、どうぞ」
「あ、すみません」
女性に案内され着いた家で、出されたお茶に藤岡が礼を言う。
「このくらい気にしないで。じゃあ、私は席を外すわね。その方が話し易いでしょう」
そう言って、女性は部屋を出て行こうとした。
「待ってください!」
それに舞は咄嗟に声を上げた。
「何かしら?」
「花音先輩のお母さんですよね?先輩は今、どうしているんですか?」
そう問いかけると女性は少し目を見開いた後、その表情を和らがせた。
「……あなたは覚えてるのね」
「えっ?」
その言葉の意味が分からず、舞は首を傾げる。
そこで飛影の声が聞こえた。
「……あんた、只の人間じゃないな。隠してはいるが、何らかの力をもっているようだし、この世界とは違う気配を感じる」
「えっ?何?どういうこと?」
彼の言葉に舞が戸惑っていると、花音の母は「ふふ」と笑った。
「わかる人にはわかるのね。……そう、私はここと違う世界の住人。そして花音は今、その世界にいるわ」
「……あの、もしかしてその世界って、色々な能力を持つ人達が其々の国をつくっている世界で、一年前に魔族が手中に納めようとしていたところですか?」
「知ってるのか?」
「ええ。私が知ってるのは闘神達から聞いたことだけだけど」
「そういえば、俺達魔族の新たな一員になった奴が元はその世界の皇子だったって聞いたな」
星蓮が言うと、莉鳳がククッと笑った。
「俺はまだ会ってないが、個人的には興味がある。機会があれば会って話をしてみたいところだな」
「……でも、その世界を魔神族がほっておくかしら?むしろ、一番に狙ってもおかしくはないはずよ」
星蓮がそこで飛影を見た。
「確かにな。神界と魔界はそう簡単には堕ちないだろうし、この世界は奴等にとってさほど脅威にはならない。まず狙うなら……」
「待って!それじゃあ先輩が危ないんじゃ……」
それまで話についていけなかったが、話の流れからそんな気がして舞は口を挟んだ。
「何とか先輩にその事を知らせないと……」
「でもそんな方法あるの?」
藤岡の言葉に舞は飛影、星蓮、莉鳳を順に見たが、彼等は首を横に振った。
「……世界っていうのはね、別次元に幾つも存在しているの。その『先輩』がいる世界をまずは特定して、その世界に空間を繋げないことには無理ね。私一人なら神界から行けるだろうけど、私じゃ誰に接触したらいいかわからないし」
「……それなら問題ないわ」
困ったように言った星蓮の後、口を開いたのは花音の母だった。
「えっ?」
「その世界に行く方法なら私が知ってるわ。というより、この家から行くことが出来るの」
その言葉に舞は他の四人と顔を見合わせた。
3
「さぁ、入って」
(隠し階段……!?)
花音の母が床の一部を上げて言う。
舞がそこを覗きこむと、そこには不思議な空間があり、階段のようなものが下へと向かっていた。
「何ですか、この空間」
「ふふ、知り合いに作ってもらったのよ。前に花音を連れ戻しに行った時にしか使ってないけど、まだ壊さなくてよかったわ」
そんなことを話しながら下りて行くと、門のようなものがある場所へと着いた。
「さぁ、これを使えば花音のいる世界に行けるわ。……但し、あなた達が向こうの世界に行った後、これを壊すから一方通行になってしまうけど」
「えっ?どうしてですか?」
「その方が少しは時間稼ぎになるでしょう?これの繋がる先は決まってるから、すぐに後を追われてしまう可能性もあるもの」
「……確かにな」
花音の母の言葉に飛影は頷いた。
「花音は光の街にいるはずよ。……向こうで会ったらよろしくね」
「はい!」
「よし、そろそろ行くぞ」
そう言った飛影を先頭に門へと足を踏み入れる。
その瞬間、舞の身体は光に包まれ、何処かに飛ばされるような感覚を感じた。
4
身体を包んでいた光が弾け、足が地に着いた感覚を覚え、辺りを見回す。
そこは森の中だった。
「……着いたの?」
「まぁ、移動したのは間違いないんだろうけど」
「確か光の街に行けって言ってたよな」
「でも、その街は何処にあるんだよ」
口々に言う中、星蓮がある方向を指す。
「こっちよ」
「おい、わかるのか?」
「ええ、私達神族と近い力を感じるの。間違いないわ」
「……とにかく行ってみよう。此処にいても仕方ないし」
舞はそう言って、藤岡が複雑な表情をしているのに気付いた。
「藤岡さん?どうしたの?」
「いや……ね。なんか成り行きで私もついてきちゃったけど、よかったのかなって。私はあなたの先輩とも面識ないし」
「大丈夫だよ。それにほら、向こうにいたらまたあの変な人達が襲ってくるかもしれないよ」
「でも……」
「いいんだよ。お前もついてきたのは俺達にとっても都合がいい。……奴等に渡す訳にはいかないからな」
「「?」」
飛影の言葉に舞は不思議に思ったが、気をとりなおして藤岡を見る。
「とにかくこれからは一緒に行動するんだから、宜しくね。藤岡さん」
「麗香でいいよ。私も舞って呼ぶから」
「!!……うん。宜しく、麗香」
「ええ、こっちこそ宜しく、舞」
そう言って、顔を見合わせて二人は笑う。
「おーい、そろそろいいか?置いて行くぞ」
そこに呆れたような莉鳳の声がして、二人は同時に頷くと、少し離れた三人を追いかけた。

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