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料理


 その日、ハヤト師匠は風邪で寝込んでいた。
 タケル師匠は「えんしゅう」とかで遅くまで来れないという。
 ディーンは風太に張り切って答えた。

「今日は俺がご飯作るから!」
『えーと、ご飯、作る…ご飯を作るの?』
「そう、『ご飯 作る』!」

 風太は顔を輝かせた。今日の食事の事は、風太も心配だったらしい。
 ディーンは僅かに所有していた自分のお金を持って、鞄に入れる。
 風太に森に行くといって小さな弓を用意する。

『森に行くのは危ないよ。危ない。森、危ない』

 風太がディーンに身振り手振りで伝えるが、ディーンは聞こうとしない。

「大丈夫だって風太。俺だって狩はした事あるし、小物しか狙わないから」

 仕方なく風太はカタナを持った。

「風太もついていくのか?危ないって」

 ディーンは言うが、風太も譲らない。風太の脳裏には、タケルが自分を救ってくれた時の笑顔が渦巻いていた。
 ディーンは、魔物に両親を奪われたという。そして、ハヤトに師事する為に三年も文字を学んで来たのだ。
 風太と同じ年で、である。今も、懸命にハヤトから学んでいる。風太も受け入れてくれた。そんなディーンに、危ない目に合わせる訳にはいかないのだ。

 それに、ディーンがハヤトを必要とするように、ハヤトはディーンを言葉と文字の教師として必要としていた。
 風太はタケルに武術を習っているし、武器も貰っている。風太がディーンを守るのは当然の事だった。

 森に行くと、ディーンは草を調べては鞄にいれていく。
 風太にはディーンがどういう基準で草を選り分けているのか、さっぱりわからなかった。
 他にもきのこと虫を入れる。風太は幼いながら、一抹の不安を覚えた。

「あっラッキー!火吹きとかげだ!」

 小さなトカゲを捕まえて、ディーンは喜ぶ。
 そのトカゲについては風太もしっていた。
 小さい炎を吐くトカゲだが、炎は一瞬なうえ燃え移りにくいとはいえ、
 鞄に入れるのは不安ではないか。風太がそう考えていると、ディーンは
 火吹きとかげをその場で捌いて一部を大切にしまう。

「これ、よく燃えるから料理に便利なんだぜ。師匠の家では必要ないけど」

 何を言ってるのかはわからなかったが、ディーンの嬉しそうな顔に火吹きとかげはいいもの、と頭に刻み込む。

「後一匹見つかるといいんだけど」

 風太も周りを見回し、小動物を見つける。
 ディーンの袖を引っ張って知らせると、ディーンが急いで矢を放った。
 しかし、あっさりと矢は外れる。言葉は通じないながら、風太とディーンは協力して、狩を続けた。

「そろそろ帰るか。買出しもあるし」

 ディーンが風太の袖を引っ張ると、風太も笑ってディーンの手を握る。
 風太の笑顔が凍る。風太はディーンを突き飛ばすと、カタナを構えた。

「ひっ……」

 ディーンが悲鳴をあげる。狼に良く似た魔物だった。
黒く硬い毛皮で覆われ、鋭い牙で唸るその魔物は、普段は群れで行動する。
遭遇したのが一匹だけというのは幸運だった。恐らくなんらかの理由で群れからはぐれたのだろう。
 その吠え声には動きを麻痺させる力があった。
 幸い、ディーンも風太も魔力がある。耐性はあった。

「ディーン。ESP。伏せて」

 風太の言葉に、ディーンは急いで身を伏せる。
 魔物が吠え、びりびりした感覚に逆らいながら見上げると、風太の周囲から風が発生していた。
 カタナを凄まじい勢いで抜くと、カタナから発せられた淡い光が魔物に襲い掛かる。
 魔物は風に身を裂かれ、光に打たれて悲鳴をあげて逃げていった。
 ディーンが恐る恐る立ち上がると、風太がへたり込んでいた。
 ディーンは風太の元へ行くと、鞄から杖を取り出す。
 その杖は一瞬にして花に変わった。

『ディーンもハヤト師匠も、いつも手品さえすれば笑うと思ってるんだから』

 風太が仕方無いなと笑うと、ディーンも安心したように笑う。
 鞄からチョコレートを取り出し、風太に差し出す。

「ありがとな、風太」

 風太とディーンは、二人でチョコレートを食べ、笑いあった。

『全く。せっかくディーンが食事を作ってくれたのに、お弁当を買って来いとはどういうことですか』
『ならばお前が食え。ワシと風太とディーンは弁当を食べる』
「師匠、早く食べようぜ。俺、お腹空いちゃった」

 にこにことディーンが笑う。
 テーブルの上には奇妙な料理が並べられていた。

『確かに、変わった料理ですけど、成分分析は終えてるんでしょう?ほら、このパンは美味しそうじゃないですか』

 タケルは食卓につくと、茶色のパンを手に取った。

『いただきます…ってまず!?』

 口直しにと、タケルがスープを流し込むと、風太とハヤトは眼を背けた。

『虫!?なんでスープに虫が!?ディーン!どうなって…虫食べてるー!?』

 ディーンが嬉しそうにスープの中の虫を食べているのを見てタケルが悲鳴をあげる。
ハヤトはそっとディーンを止めて、弁当を差し出した。

『悪い事は言わん。今日のご飯はこっちにしよう』

 ディーンは悲しそうな顔をした。

「師匠、ご飯気に入らなかったのか…?別のご飯用意してたなんて…」
『ハヤト師匠、ディーン、有り金はたいて今日の食事作ってたんだよ?
森に出かけた時も、一生懸命食材探して…』
『う……しかし、背に腹は……』
『狼に襲われてまで用意した食材です、食べてあげたいですけど。こ、これは少しまともでしょうか……。辛い!?水、水を下さい!!』

 何かしらつまんでは悲鳴をあげるタケルを目の前にして、ディーンの作った料理を食べる気はハヤトと風太にはなかった。

「ディーン、ハヤト、病気。病人、食べるもの、限られる」

 ハヤトがたどたどしくいうと、ディーンは残念そうに頷いた。

「薬みたいなものなのか?なら仕方ないな。風太、食べよう?」

 風太はごほんごほんと咳き込む真似をした。

「病気、移った」

 ハヤトにはディーンの食事を勧めたくせに、しっかりとお弁当を確保して風太はいう。

「なら、仕方ないな。いっぱいあるから、どんどん食べてくださいね、タケル師匠」
『いえ、あの……!!』
「もしかして、タケル師匠も…?」

 潤みだしたディーンの瞳に、タケルはたじろぐ。
 仕方なく水で流し込みながらパンを食べると、ディーンはようやく微笑んだ。

「いーっぱいあるからな。ほら、このきのこ炒めとか自信作だぜ」

 カラフルなきのこをディーンは差し出す。
 その日は、タケルにとって人生最悪の日になったのだった。

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