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治癒

「困ったな」
「いつもだったらそんな傲慢な、と言う所ですけど、今回は事実ですしね」
 
 タケルとハヤトは顔を寄せ合って囁きあう。
ここはオーギュストが用意した個室だ。
ハヤトが寝込んでしまったので、交渉はここでする事になった。
ゆっくり休ませてやりたいが、シバイの事もあって長居は出来ない。

「正直、貴方達を学院へ…いえ、城に迎えたいぐらいですよ」

 セラフィードは息をついて言った。

「ワシより有能な者一人いない場所に何故留まらねばならん。非効率になるだけだ」 
 
 普段はハヤトがこういう事を言えばタケルがすぐに留めるが、今回は微妙に視線を逸らしたままだった。
国家が管理する学院が舐められている。本当なら学院の卒業者として、学院と密接に関わる宮廷魔術師として抗議せねばならないところだ。
だが、ハヤト達は、卒業間近の生徒達を蹴散らした魔物を倒し、重傷を負った生徒達に聞いた事もないような新たな治療法で直した。
学院の最先端技術を見せれば考えも変わるかもしれないが、それは国家機密に当たる。
ましてやハヤトは魔術師ではない。今でも前代未聞の待遇をしているくらいだ。
それがなかったとしても、魔術師でないハヤトの技術を魔術師が使う事が出来ても、魔術師の技術を魔術師でないハヤトが使う事はできないという問題がある。
魔術師学校が始まっていらいずっと続いている、非魔術師との間に横たわる問題がここにある。
今の交渉で困っているのも、ハヤトの渡すものに相当する物がない、という事だ。
交渉する気はある。が、学院の出すものではその代価として話にならない、との事である。
特に生徒達の治療の為にハヤトが使ってくれた、ディーンや風太のカイボウで、傷跡を残さないようにするための人工皮膚。これは信じられないがハヤトが魔力無しで開発したもので、いずれ元の皮膚と同化して消えてしまうらしい。
皮膚と人工皮膚が重なった部分に痕が出来るが、傷跡が残るよりは目立たない。
それだけならただの目立たない包帯と言って良いが、傷の治癒を助ける効果もあるらしい。
火傷や今回のように皮膚を溶かされてしまった場合の時、劇的に効果を発揮する。
当然、物凄く高価なものだ。一緒に治療室を視察した魔術師が、魔術師でないものが作れたのですから魔術師でも出来るでしょうと言っていたが、とんでもない。専門でないからそんな楽観的な事が言えるのだ。
治癒学教授オーギュスト、術具研究室のザイル教授、薬草学教授パウロ、情報管理室教授モイラ、そして宮廷魔術師セラフィード。この5人がこの技術を全く未知のものと判断したのだ。
他の道具は、それでもまだ作れる。あるいは、作る事が不可能ではないと思う。
だが、これは…。
そもそも、ハヤトは何者なのだろうか。
研究には多大な費用が掛かる。タケルだって明らかに専属護衛だ。
ハヤトが普通の市民であるはずがない。
道楽貴族、大商人、……あるいは家出した王族か。あるいは、どこぞの大魔術師の息子なのか。
後ろに何もないはずがない。
交渉は慎重にしなくてはならない。こんな事なら、他の者に頼めばよかった。
セラフィードは術には詳しいが、権謀術数といったような事は苦手だ。
宮廷魔術師になって少しは学習したが、基本的には猪の様にただ突っ込むのが好きだし得意だ。
セラフィードがどう話そうか迷っていると、ハヤトが一つ頷いて先に口を開いた。

「既に渡した物についてだが…。頼まれてやったわけではないし、治療に使った費用は気にするな」

 セラフィードが迷った様子を見せると、ハヤトが僅かに柔らかい声で言った。
それにタケルが驚いた顔をする。

「貴重な人工皮膚のストック全部ですよ!?以前はあれだけ譲る事を頼まれても笑って切り捨てていたのに!?」
「ディーンと、もしかして風太が世話になるかもしれんからな。召喚魔法の対策とか。
技術を横取りされる可能性もなさそうだし、無理やり奪い取ろうという様子を一度も見せなかった。交渉相手としても、悪い相手ではない。互いに好意を示しておくのも悪くなかろう」

 セラフィードはその言葉に驚きと安心を覚える。交渉については魔術師は叩かれている方だ。
 魔術師でないからと軽く見ず慎重に動いてきた事と、悔しい事だが技術の差が良かったのかもしれない。
 ハヤトの言い出してきた事は、代価を要求しないからこそやっかいだが、それでも治療費用の免除は破格だ。
 取引を続けていく事が前提のものだし、ディーンと風太の特別待遇を求めているわけでもないのだから。
 ハヤトの意図を正確に読み取ってセラフィードは頷いた。

「こちらの望むものは、そうだな。住んでる丘と近くの森、後こちらの指定した土地の権利をもらってしまいたい。土地の権利とか税金とか曖昧っぽいとはいえ、今まで不法滞在だったからな。その手続きと税金等の処理は支払い含めてそちらでやってくれ。あと不法滞在の件は無かった事にしろ。ディーンに調べさせたが、法律が大分緩いな。特に魔術師に関してはかなり。ちょうどいいから、異国の魔術師扱いにしてくれ。領民を持たねば割と自由に振舞えるらしいからな。それと、異国の魔術師でも魔物退治に限り徴兵されるそうだが、税金は払うが徴兵されるつもりはない。その分税の上乗せはして構わない。
ただ、カリト村にあまり厄介な魔物が来た場合はどうにかしてやろう。

 それとシバイの身柄の引渡し。これが最低限だ。
 後、シバイの様子を見て使えそうなら他の獣人もよこせ。生きたままでな。
魔術についての研究はいい暇つぶしになりそうだ。流出させて構わない程度でよこせ。
 ディーンや風太からだと守秘義務に引っかかるだろうからな。
 
 くれてやっていいものはまずチョコレート。一通りの製法も教える。
 原料の植物については、手に入りにくいから収集がてら様子を見させてもらう。
 どんな事に使おうが一定量渡すのは保証するが、
 大まかな使い道と使用量、なかった場合との差異のデータは渡せ。
ただし、極秘の使い道は極秘で構わない。保存の問題もあるし、必要な量を知りたいだけだからな。代金の交渉については、月ごとの使用量を見て決める。
ただし、大まかな基準は先に決めておいたほうがいいだろうな。
医術知識についてはそちらで維持できそうな物のみ渡す。人口皮膚はもちろん渡せないが、
注射器とか手術の知識とかは独学で学んではならんものだからな。
役に立つ薬草の提供ぐらいはするし、こちらで渡した知識を活用、維持できるだけの土台作りのアドバイスくらいはしよう」

 一息に言って、ハヤトは口をつぐんだ。そして、タケルに目をやる。

「あの件については、こちらからの頼みという事で構わん」

 タケルは頷いて、言った。

「魔物退治の方法とそれに使う術の効果、使う武器、こちらの傭兵や兵士について教えてください。あんなやり方ではディーンが死にます。いえ、ディーンには自分の身を守る方法ぐらい仕込んでいるつもりですが、流石に誰かのフォローまでとなると……。お願いですから、授業内容の向上を。私も仕事があるのでそれほど手伝えませんが、今のままではあんまりです」
「それはザイルから聞いていますが……あのような強力な武器と規格外のフェイクキッズを他の者と一緒にされては困りますね。あの時、教師と生徒達が取った行動は適切でした」
タケルは笑顔で首を振った。
「あはは…ありえないですよ」

 息を吸って、タケルは静かに、きっぱりと捲くし立てた。

「魔術師って魔物退治が義務でしょう?しょっちゅう魔物が出る場所に住んでいて、魔物が出たら戦わないといけない人なんでしょう?私なんて自衛レベルの強さしか持ちませんよ。魔物退治しないといけないのに有効な武器も戦法もないという事でしょう? 呪文唱えてる間に食い殺されます。当たり前です動きもしない獲物なんて食べない方がおかしいです。丸腰で魔物退治ってどういう事ですか。杖持ってる人はいましたけど、か弱そうな杖で全然打撃に使えそうもなかったですし。ちょっと色々検討しますから協力して下さい」

 武器の話題が出てハヤトも頷く。

「まあ、剣など振れんだろうからこちらで授業用に短刀を用意しよう。後、道具の方もこちらでチェックを入れる。応急処置の授業も少しはやっているようだが足りてないから協力しよう。というか魔術学院なんだから武器なり服なりアイテムなり、術でもかけておくのが普通だろう」

 二人の率直で刺す様な言葉に、熱くなりかけたセラフィードだったが、ぐっと唇を噛む。
魔術師に対してこんな事を言うのは今までいなかった。
 魔力がなくては何も出来ないくせにと陰口を叩くものはいても、
 呪文を唱える前に弓で射てしまえばいいのだと豪語するものはいても、
 魔術そのものを駄目だと糾弾する者はいなかった。
 傭兵如きに何が出来る、と思う。
 だが、彼がヴィレッジイーターを倒したのも、得体のしれない相手なのも事実なのだ。
 先ほども、土地の事について要求をしてきた。
 この学院が、国と深く繋がっていると言う事を察していると言う事だ。

「貴方になら、どうにかできると?」
「今よりはマシにして見せます。私も軍人です。文化の違いくらい乗り越えて見せます」

 セラフィードは目を見開く。
 軍人。ならば、ハヤトは軍人の警護を受ける人物となる。近隣諸国の可能性は低い。
 何故なら、カタナなどというものをセラフィードは知らない。
 いや、もしかして機密に近い存在なのか。
「以前にも、シバイが聞いていましたね。貴方は、誰ですか?」
「何度も言ったろう。異国の魔術師だ」

 ハヤトが言うと、信じ難い一言をタケルが付け足した。

「魔術の無い国の、ですけどね」


 ――それでこれだけの事ができるはずが……いや、だからこそ?

一瞬よぎった、しかし次の瞬間には手をすり抜けていってしまった予感に、セラフィードは僅かに震えた。





 それはこじんまりとした家だった。
 他の場所で見れば普通の家としか思えなかったろう。
 しかし、それは魔物の住む場所の間近の家なのだ。
 魔物の体当たりですぐに壊されてしまいそうなその家がそこにあるのは異常と言えた。

「遠慮せず入れ。ロビー、出てきて良いぞ」
「お帰りなさいませ、ハヤト博士」

 一目見て、金属で出来たとわかるゴーレム。しかし、魔力を感じない。

「これはどういう事かね!?」
「ハヤト様、これは……!」
「どうせ手術の時に会わせるからな。これはロビー。わしの作品だ。
これを使って手術をする。他言無用だぞ。技術も渡さん。渡してもわからんだろうしな」

 オーギュストもシバイも術具についてさほど詳しい知識はない。
 だが、それでもゴーレムを作る困難さは知っていた。
 そもそも、ゴーレムを作るなど、魔力がないとどうにもならないはずだった。

「早く入れ。ワシはもう休みたい」

 こうしてハヤトの家での生活は始まったのだった。
 ザイルが来た時は短時間だったため、あからさまな文明機器は使わなかった。
 村人が長期滞在した時の偽装の準備もしてあった。
 しかし、手術器具等を使うのだから、科学についてある程度教えておかないとトラブルの原因になる。
 ハヤトが文明機器を隠さなかったのは、決して原始的な料理器具を使った料理や手での洗濯が嫌だったからではないし、ディーンや風太の手が荒れるという懸念が理由でもないのだ。
 そこでハヤトは、オーギュストへの手術についての基礎知識、シバイの体の調査に専念する事になる。




 調査が一通り終わったある日の事、ハヤトはシバイを研究室に呼んだ。

『ゲイル。風太のような子を見つけたんだが、手が回らなくてな。預かって欲しいのだが』
『何だって!!君、本当に魔界にでも関わりがあるんじゃないかい!?』
『体調管理はわしがする。勝手な研究は許さん。以上の条件でそちらで預かって欲しい。
風太に対する注目を減らしたいのだ。ゲイルの所なら安全だろうしな』

 シバイを手に入れたのは、これが理由だったのだ。
 あちらの世界に連れて行くために、魂までも貰い受けると約束した。
 もちろん、異世界へと連れて行く以上、安全管理はするつもりだ。
 その代わり、研究と他の科学者との取引には協力してもらう事を考えていたのだった。
 最も、珍しい研究対象の健康に注意を払うのは科学者として当然のことなので、ハヤトの行いは外道と言える。

『と言う事は、こちらの研究成果として出して良いんだね?』
『構わん』
「シバイ、こちらへ。この者はゲイル。お前を預かる人間だ」
「よろしくお願いする」
『変わった言語だね。言葉はゆっくり覚えてもらおうか。よろしく』

 画面に出た人の顔に戸惑いながらシバイが挨拶を交わす。
 挨拶を交わし終わると、部屋から出るように言われて、出て行く。
 狂科学者たちは、せっせと今後の動向を決めるのだった。



 オーギュストはオーギュストで、医療器具の取得に熱心だった。
 聞けば聞くほど面白い。体の輪切りした様子を映し出す機械、胃の中を映し出す機械、ああ、ハヤトがあの大掛かりな手品を出来たのは当然だ。
 特に、風太の教科書は絶対に得ておかねばならなかった。

『まあ、医療分野は発展しても問題ないですよね。ハヤトが渡すのを嫌がってるのは
銃火器だけですし』
『どうでしょう。あの教科書を理解するという事は、それだけ様々な方向で知識が増える事だと思います』

 オーギュストが教科書を熱心に見ているのをみて、ハヤトと風太は話し合う。

「また内緒話かね?」
「貴方にそれだけの知識を渡していいものか、と話していたんですよ。こっちの人には革新的な技術でしょう?」
「もう遅いな。使えそうなのは大体覚えた」

 ニヤリ、とオーギュストが笑う。その言葉に、タケルと風太は驚愕した。

「だって字が読めなかったでしょう!?」
「確かに読み聞かせはしたけど、早すぎです!」
「こうでなくては教授は勤まらんよ。安心しろ、私は武器にも戦いにも興味がない。ただ人々を治療できればいいのだ」

 タケルと風太は絶句する。彼は間違った知識を土台にして、正しい治療に辿り着けるほどの鬼才だったのだ。
 そもそも、ハヤトの治療の時も、ハヤトが全く新しい治療法を使っているのに関わらず、
ぴったりついて行って見せたのだ。並みの才能ではないのだ。
 しかし、魔術師の特徴には卓越した頭脳と供に駆け引き能力の無さが挙げられる。
 二人はオーギュストにこれ以上書物を与えないよう決意したのだった。
 そして、一ヶ月の時が過ぎた。






「師匠…」
 
 ディーンが手をぎゅっと握り、そして離れる。
 手術に関わりの無い者がいても邪魔になるだけなのだ。
 既に床には魔法陣がしかれており、オーギュストが術を行っていた。
 ディーンが出て行くと、簡易手術室の扉が閉ざされ、ロビーがメスを構えた。
 一応風太がゴーレムを操るという設定になっているので、風太も中に入っている。
 手術が、始まる。
 ディーンの手を、タケルとシバイが両側から握っていた。
 10時間に及ぶ手術だった。風太とロビーの仕事はこれで終わりだが、次はオーギュストの仕事が待っている。
 ……ハヤトを、繋ぎとめる為の仕事だ。癒して、癒して、癒して、ハヤトをこの世にとどめ続ける。
 それが出来れば、ハヤトとずっと一緒にいられる。
 治療には5日掛かるといわれたが、全員が簡易手術室の前に待機していた。

「……何か、来ます」

 眠っていた風太は目を開けて、立ち上がった。

「……風太?どうしました?」
「タケル師匠はそこにいてください」

 家の外に走り出していくと、そこには麗しい妖魔がいた。

「坊や…贄が弱まっているのを感じるわ。何故食べないのかしら」

 ざわり。

 風太は血がざわめくのを感じた。
 ハヤトを食らってはいけない。僕は、ハヤトが好きなんだ。
 フェイクキッズは親と認識するものを食べないと大人になれない。
 ジャアコノヒトハ?
 駄目だ。
 ボクハ。
 駄目だ。
 オトナニナリタイ。
 大人になる必要なんか無い。
 トビタイ。
 飛行機に乗ればいい。
 ハヤトヲタベナイデスム。
 僕は誰だって食べたくない。
 誰だって食べたくないんだ。

 よろりよろりと前に進んでいく。

「ありがとう、お母さん。僕の前に現れてくれて。ようやく、僕は……」

 爪が、伸びた。

「いけません、風太!!!」

 後ろから抱きつかれて風太は正気に戻る。

「そうなるでしょうね。わかってた。でも大丈夫、そういう場合は私が殺される前に
養い親を殺してしまえばいいの」

 ぶわっと風が広がって、麗しの妖魔もまた爪を大きく伸ばした。
 風太が走って爪を振るうと、妖魔は氷の雨を降らせてきた。
 
「風太!」

 フェイクキッズも人もタケルにとっては変わらない。手出しが出来ない。
 風太が怯んだ隙に、妖魔が家に入ろうとする。出てきた時にバリアを切ってしまったから、そのまま入られた。風太が追う。
 気配を辿られたのか、そのままハヤトの簡易手術室に直行される。

「炎よ!我が願いを聞き届けよ!退け、フェイクキッズ!!」

 シバイの撃った炎が妖魔の腕を焼く。それでも妖魔は止まらない。
 シバイを蹴り倒し、部屋に入ると、ハヤトがオーギュストの治療を受けながらお茶を飲んでいた。オーギュストは、ディーンの後ろに庇われて息を潜めていた。
 扉付近にはディーンの張った糸が幾重にも張ってあり、動きにくいようになっている。

「風太は渡さんぞ。あれはもう野生に戻れん」
「そんな事は無いわ。まだ間に合う」

 フェイクキッズが氷を浮かばせると、ロビーが全ての氷を打ち落とした!

「お母さん、お願いです。僕はハヤトと幸せに暮らしているんです。大人になんてならなくて」

「まあ、落ち着け」
「ハヤト師匠!!」
「おお、風太。よく来た。これが今回取り出した部分だ。食え」
「ハヤト師匠!?」
「勝負だ、妖魔。これを食べて、ワシといる事を選ぶか。お前といる事を選ぶか。
別にワシの言う事を聞くというならお前も一緒に預かってもいいのだがな」

 示されたのはハヤトが手術で取り出した奇形の内臓。
 ああ、ハヤトは。ハヤトは。何があろうと揺らがない。これでこそハヤト。

 願わくば食べないで済ませたかった。しかし、ずっとその衝動が内側で燃えていたのも事実だ。
 風太は、差し伸べられた救いを受け入れた。

 羽は、広がり。

 体は、内側から押し広げられて。

 ああ、僕は今、ようやく完全に……。

「ハヤト。ありがとう。大好きだよハヤト」

 糸をよけ、風太はハヤトを抱きしめて囁き、ロビーにゴム弾を投げつけられた。

「気のせいか、ショタではない風太に非常に危機感を感じるんだが……」
「ハヤトが育てたから……。教育の問題ですね」
「ハヤトが嫌いならこっちの姿でいいよ」

 たやすく元の姿に戻る風太。しかし、呼び方は戻らない。

「風太……成人おめでとう」

 にこりと笑いかけたディーンに、風太は笑顔で答えた。
 もう返事など聞くまでも無い。
 妖魔が背を向けると、ハヤトは声をかけた。

「風太は渡せんが、次の子は手を汚させずに傍に置かせてやろう。風太の母だ。いつでも受け入れよう」

妖魔は、何も言わずに飛び去っていった。

しおり