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二話

 更に二ヶ月経った。
 お付の者が深刻な顔をして俺に告げる。

「セルウィ様と恋中との噂が御当主様の耳まで入り……御当主様が、このままでは勘当も辞さないと……。そ、その場合金貨50枚と第二寮分の学費のみ与え、放逐すると……」
「それは……お前達も離れる、という事か……?」
「はい……で」

 すから、とお付の者が何か告げようとする前に、俺は思わず喜色満面に腕を振り上げていた。

「よっしゃあああああああああああああああああ!! 自由ゲト――――!! セルウィ!!」

 本当に久しぶりに俺は叫び、セルウィの元に走っていた。
 他の取り巻きと一緒にいたセルウィが、心底驚いた顔をする。

「セルウィ! ダーリン! 愛しているぜ畜生! ホモ疑惑で勘当された! しかも金貨50枚付きで一般生徒として学費も払ってもらえる! つーか第三寮ではなくて、第二寮! つまり俺は自由だ! セルウィが国に帰るときもついていける! セルウィ!! 変態紳士に俺はなるぞー!」
「落ち着け、わかったから落ち着けラーグ。えーと……責任は取ろう。幸せにするぞハニー」
「ダーリン! あああ、嬉しい、やばい、すげー嬉しい! 早速学長に新しい部屋聞いてくる! そうだ、持ち物も全て返さなくてはな。店に買い物に行けるんだぞ、凄いと思わないか、セルウィ? ふはははついて来たいといっても却下だ! 王子と一緒だと足元見られるからな! ああ、お前の言うとおり、友人を作っておくべきだったな。今からでも平民を紹介してくれないか? 店の場所を知らないと何も出来ないからな。料理や洗濯の方法も教えてもらわないとな。一人暮らし万歳!」
「……そうか」

 セルウィはなんとも言えない顔で俺の後ろを見ていた。そして、平民を一人紹介してくれる。クレイドル、という剣の腕が認められての特待生である。

「俺が慣れるまでの間、迷惑をかけるがよろしくな、クレイドル!」

 ひゃっほう! と父から後から連絡が来るから、と第二寮の空いている部屋を奪取する。第一寮は貴族達が入るかなり豪華な寮で、使用人等も学校が世話をする。第二寮は台所等が使えるようになっていて、使用人は自分で連れてくる。第三寮は相部屋だ。
 何が言いたいのかというと、第二寮は自炊ができる唯一にして最高の環境である。もちろん、使用人を入れるつもりはない。
 ふははははは、第三寮に入れる! とか、退学させる! と言えない父上の甘さに大感謝だ!
 父上から金貨50枚が送られてくるのが待ち切れない! と騒いでいると、セルウィが利子0で貸してくれた。持つべきものは友である。更にわがままを言って、最低の単位まで両替してもらい、クレイドルに貨幣の価値のレクチャーを受ける。
 ……住んでる国の貨幣すらわからなくて悪かったな。お金を持たせてもらえなかったんだよ。
 とりあえず、金貨一枚分あれば十分だろ。
 更にクレイドルから服を無理やり借りて、俺は意気揚々と買い物に向かった。
 
「ラーグ様」
「もう俺は平民だ。呼び捨てにしろ」
「ラーグ、その……平民の生活は、楽ではありません。お父上に謝られては」

 俺はクレイドルの顔を見た。怒りを押し隠した顔だった。甘やかされて育った貴族に平民の大変さの何がわかる。そう言っていた。
 
「何もやってないうちから決め付けるのは良くないと思うぞ。どのみち貴族としては明らかにやって行けなかったんだし、人生やり直すチャンスが巡ってきたんだ。喜ばないでどうする。あ、あれが店か? あれが店だな!」

 俺は気にせずクレイドルを引っ張り、店に駆け寄った。
 荷物が大量になり、何度か往復しなければならなかったが、なんとか全ての物資を銀貨十枚で収めた!
 やっぱりお金掛け過ぎたかもorz
 一所懸命安い所を探したり、値引き交渉したのだが。初めての買い物なのだから仕方ないな。クレイドルがなんかぐだぐだ言っていたが、必要な部分以外聞き流す。
 服は自分で作ったりもするらしいので、色々見てみたらなんと型紙も売っていた。よしよし、縫い物は前世とあんま変わらんな。レッツチャレンジ!
 料理はクレイドルが説明しながら作ってくれた。
文句を言いつつも、クレイドルはやるべき事はやってくれる。
 いたれりつくせりで申し訳ない。
 生で食べるとおなかを壊すもの等は念入りに教えてもらう。
 洗濯や掃除の方法も教えてもらう。後はまあ、見よう見まねでやってみよう。

 結果、クレイドルが帰るのは夜半になってしまった。もうしわけない……。

 心から礼を言って、満足のいく料理ができたらご馳走すると約束する。
 といっても、調味料、特に砂糖はやはり高い。工夫が必要となるだろう。
久しぶりに心地良い疲れに身を任せ、俺は眠った。
 朝。少し寝坊をして、夕飯の残りを食べ、教室へ向かう。
 
「セルウィ! 昨日は助かった。クレイドルも、ありがとうな」
「ラーグ、随分思い切ったな……」
「何が?」
「服だ」

 俺は自分の服を見て、周りを見渡した。うーん、平民組と同じだと思うがなぁ。あっ!

「そうか、センスか……! いや、これはこれでいいんだ。俺は変態紳士を目指すから、服もそれっぽいのにしたい。具体的に言うと変人風味に」
「そうか……いや、いい。ラーグのそんな活き活きした目を見るのは初めてだ。望むように走ってくれ、ハニー」
「ありがとう、ダーリン。ところで、今日の放課後なんだが。しばらく図書館に篭ろうと思う。買い物もしたいし、服も作りたい。やりたい事が飽和状態だし、家事もあるし、悪いがしばらくお茶会ができないと思……」

 そこで俺は言葉を止めた。

「もしかして、平民になった俺と付き合うのまずい?」
「これだけ手間をかけさせて、もう用無しだからいらないと言ったらお前を殴る、ハニー」
「冗談です、ダーリン」
「落ち着いたら部屋に来い。週一で来い。必ず来い」
「はっ」

 俺は従者の真似をして、びしっと敬礼する。
 世界が、変わった。輝いて見えた。
 とりあえず真面目に勉強しよう。いろんな事を知っていて損はないし、もう誰も気にする事なくカリキュラムが組めるんだからな!
 あ、そうだ。教師にカリキュラム変更願いを出さないと。
 ふはは、今の俺を止められるものは誰もいない!
 将来、何になるか、早い所決めないと。
 やはりセルウィは俺の後方をちらちら見ていた。しーらない。

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