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第十三話 無頼の徒と北荊州

 新野籠城戦から七日の晴天。

 元劉表軍武将の魏延に荊州で調略(ちょうりゃく)を行わせ親しい友人、知人の協力を仰いた。

 その中に蘇飛(そひ)という身体中戦傷のある三十代後半の(げき)遣い、十代後半の甘寧(かんねい)という肌黒で短髪の二つの鉄球を鎖に繋げた武器遣いの武将がいた。

 武勇は孫策が黄祖を討ち果たした時、退却する味方の軍勢の殿(しんがり)を務める程であった。

 しかし、蔡瑁の一族と犬猿の中であり、他に仕官するか? 考え始めていた時に悪友仲間の魏延が訪れた。

「二人とも蔡瑁に目を付けられている時点で出世はあるまい。どうだ? 関平様にお仕えしないか?」

「まあ、そうだな……。俺は強い奴と美味い酒、美しい女があれば、それで良い。なあ蘇飛」

「そうさな。しかし、甘寧。関平とやらは劉表や蔡瑁の様な腰抜け野郎ならば儂らで討ち取ってくれよう。ならば曹操か? 孫策に仕えるのも面白いぞ」

「この魏延が保証する。関平様は中華一の武勇を誇る呂布にも匹敵する」

「「よし! 乗った!」」

「だが、仕官する前に手柄をたてれば戦いに応じて下さるやも知れぬ。まあ、任せよ」

「「ならば……」」



 十日後の夜、満月の僅かな光を頼りに襄陽城にて孫策軍と睨みあっている蔡瑁軍の留守中を狙い、約千人の無頼の徒が夜襲を行い、劉表と息子二人、妻の蔡瑁の妹を捕らえた。

 無頼の徒は甘寧の配下達で黄巾賊よりも鍛え抜かれ手際良い元盗賊集団である。

 
 

 三日後夜、新野城に甘寧の使者が訪れ、ある条件を叶えるならば襄陽城と劉表とその家族の身柄を渡すとの事。

 しかも、関平一人で来い!

 軍師や将軍達は止めたが。

「面白い! 何が目的か知らぬが? この関平が向かう。皆の者は三日後に襄陽城に来い! それまでに結果が分かろう」

 こうして、近頃手に入れた亡き呂布の愛馬、亡くなった赤兎馬の血を引く新たなる赤兎馬に騎乗して一日で襄陽城に到着した。

「俺が関平だ! 城と劉表達を貰い受ける!」

 すると赤色鎧を来た茶色の馬に騎乗した二人の男が関平に襲いかかった。

「わが名は甘寧!」

「儂は蘇飛! 儂らに戦って勝てたら渡そう!」」

「「「参る!」」」

 まず、甘寧の鉄球鎖が関平の顔目がけて仕かけたが何と右腕の青龍刀一振りで弾き飛ばし、逆に甘寧の胴体に当たり落馬させた。

 更に、背後から蘇飛が戟で斬るつもりでいたが攻撃を左手で掴み戟ごと投げ飛ばした。

 こうして、襲いかかった二人はあっさり負けてしまった。

 敗因は二人の武勇が全盛期では無い、そして関平は度重なる戦いで全盛期の関羽の武勇を使いこなせる様になっていた。

「これで良いか? 甘寧、蘇飛」

「この甘寧様が手も足も出せぬ程の武勇……。惚れ申した家臣にしてくれ!」

「俺もだ。この蘇飛も関平様にお仕え致す!」

「二人の武は中々だが相手が悪かっな。わっはっは……。仕官を許す」

「ありがてえ」

「ははあ―― 」


 




 こうして城に入り鎖に繋がれた劉表に会った。

「関平殿。命だけはお助けを……。敵対するつもりは無かったのだ。荊州支配を目論む蔡瑁の独断よ。どうか……」

「ならば貴殿の判断で死んだ新野の民草や兵達に申し訳が立たぬ。ここで処刑する事にする。引っ立てよ!」

 すると劉表の文官の一人が庇い立てした。

 その者は二十代前半で青き官服を着ており。

「私は伊籍(いせき)と申します。確かに蔡瑁殿の野心を止められなかった主君が悪い。しかしながら、ここで殺せば民心を失うでしょう」

 過去に生きていた時、胆力があり有能で人脈もある伊籍の発言に。

「良かろう。そなたの発言を考慮して劉表は七日後に開放する。その代わり条件がある。そなたが俺の家臣となる事。この地に住まう有能な兄弟、馬良(ばりょう)馬謖(ばしょく)を招聘し、家臣となるよう説得する事、そして、劉表に荊州譲渡の儀式を取り仕切る事。この命令に従うならば良かろう」

 平伏して。

「ありがたきしあわせ。今日よりよろしくお頼み致します」

 こうして、馬良、馬謖兄弟を始め、関平の噂を聞いて有能な人物が仕官する様になり、江夏、江陵(こうりょう)上庸(じょうよう)の北荊州を支配下に治めた。

 劉表と家族は蔡瑁の元に送られ、南荊州の牧になる。






 関平の新たな領地

 襄陽、上庸、江夏、江陵


 家臣

 蘇飛、甘寧、伊籍、馬良、馬謖


 

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