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第0夜(2022.06.26修正済み)


「――おはよ。よく眠れたか?」

 息がかかるほど、近くに彼の顔があった。
 間近に感じる、あたたかいぬくもり。

「その様子じゃ、まだ、ぼうっとしてるな」

 そう囁いて、私の頬を撫でた。
 ひんやりとした、あたたかさと、優しさ。愛おしそうに、慈しむような動作が、安らぎを与えてくれる。
 彼の指で、ゆっくりと意識が浮上していき、次第と頬が緩んでいく。

「ようやく、お目覚めか?」

 ゆるく口角を上げ、色気のある微笑みで問われた。
 額にかかるアッシュブラックの髪は、カーテンの隙間からもれさす陽の光を受けて、透明感をまとっている。

 程よく筋肉の付いた艶やかな上半身が惜しげもなくされされているせいか、いつにもまして色気が凄い。朝からこの色気は、目の毒だ。
 恥ずかしさで、視線をそらしたら。

「その反応……反則なんだけど」

 とても小さな声で、彼は何かを呟いた。
 気になって口を開こうとしたら、ふいに引っ張られた身体。彼との距離がさらに近くなる。
 いつのまにか慣れ親しんだ距離とはいえ、未だ恥ずかしさを覚えてしまう。

「なに? まだ、恥ずかしいのかよ。いい加減もう慣れろよな」

 微かな息遣いが首筋をかすめ、ビクッと身体が震えた。
 胸の鼓動が一気に加速度を上げ、顔全体が熱くなっていく。

 すると、ふっ、と笑う彼の息遣いが聞こえ、顎をクイッと持ち上げられた。
 真っ赤な自分を、至近距離で彼に見られているのだと思うと、ますますいたたまれない気持ちになる。

「初めてここに来た頃よりも、目の隈が薄くなってる。よく眠れてる証拠だな」

 指の腹で目元を優しく触れられ。

「……っ!?」

 瞼に触れるだけのキスを落とされた。
 あまりにも突発的な行動に驚いてしまい、身体を遠ざけようとしたら。

「暴れんな。ベッドから落ちるだろ」

 ベッドから落ちないようにと、彼が私の身体を自分の方へと引き寄せた。
 彼の力強さに、動けなくなる。
 男の人にかなわないと思い知らされるも、なんだかんだ彼相手だと安心してしまい、気を許してしまう。

「最初の頃と比べて、ずいぶんと俺に身を委ねてくれるようになったな」

「安心するから、こうされると……」

「安心、ね。……なぁ、知ってるか。俺、男だよ?」

 悪戯っぽく笑う彼は、うなじに唇を寄せ、少し強めに吸い付いた。

「え……、何すん……っ!」

 恥ずかしさを打ち消すように、声を張る。
 そして、どうして、の疑問が頭をよぎった。

 彼は束縛を嫌う。
 自分が相手に痕をつけるのと、相手につけられることも、ものすごく嫌がる。
 それなのに、どうして、と。

「やば……。もっとしたくなってきた」

 気づくと、仰向けになっていた。
 覆いかぶさってきた彼は挑発的に目を細め、唇を重ねてきた。
 抵抗はできない。彼の手によって、両手を固定されているから。

「ん……、こ……、ぁぁ……」

 抵抗できないことをいいことに、彼のキスはどんどん深くなっていく。
 色々と知り尽くしているこの男は、的確に弱くて、敏感な部分を攻めてくる。
 我慢ができず、甘い声がもれてしまう。

「朝から、俺を煽ったお前が悪い」

 意地悪な笑みを深め、彼は安らぎを超えた、溺れるほどの快感へと導いていく。

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