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怨みの念が蘇る

旧染澤邸の隠された地下室を解体し、あとはミキサー車が流し込むコンクリートの投入を待つのみとなった現場はしーんと静まり返っていた。

「そうだ。せっかく一人しかいない現場なんだから、近所迷惑にならない程度で音楽をかけて一人盛り上がることにするか。」

そう思った大嶌は、お気に入りの楽曲をスマートフォンにインストールをしてあるSpotifyで音楽を流し始めた。

「Fmlybndの”Come Alive”はわしの中では何度聞いても飽きない!一日中現場で流していてもいいよなあ。そうだ、今日は騒音問題に発展しない程度で一日中かけっぱなしでも問題ないか。タブレットは持って来ていたし、タブレットのSpotifyのアプリから音楽を流し続けることにしようかな~♪」

ルンルン気分で、地下の廃材をダンプに積む後片付けをしていた大嶌。

そんな大嶌を心配になって、現場に木藤と山嵜が作業着姿で現れた。

「社長、大丈夫ですか?あまりにも心配になって駆け付けてきましたよ。」

山嵜がそう話すと、木藤が「社長、一人で何もあそこまで地下室を破壊しなくても、廃材の部分は後の土台を強化していくための下地にもなりますから、ある程度は残したほうが良いんですよ。どうせ、建物を建てないのであれば、一度地下を作って地盤が脆弱なところには、一度建物を作った際に使用した廃材で埋めるしかないですからね。一人で大丈夫という割には、全ての廃材を処分しようと思われたんですか?それではせっかく1200万円の工賃を頂いているんですから、節約が出来るところは節約をして、この地が誰もが集えるような広場に整備することにお金を使いましょう。」

木藤の一言に大嶌はハッとなって気が付くと、すぐダンプに乗り込み、ダンプに解体した際に生じた地下室の廃材を積み込んでいたのを、地下室の部分に落とそうとしたので木藤が慌てて「社長はゆっくりなさってください。ここまでやってくださったんですからあとは我々で作業を行います。社長はゆっくりと大好きな音楽をSpotifyで聞いてのんびりしてください。篠原と桑田も社長が現場の作業にブランクがあるのに一人で行うのは無謀すぎるといって駆けつけてきましたよ。」と言われるのだった。

山嵜が大嶌に安心をさせるように話しかける。

「社長はきっとこの地で眠り続ける、潤一郎の呪いを我々に犠牲になってほしくないという一心で御一人でなされるといったんですよね。でも我々はこの作業が社長一人で出来るなんて誰一人も思ってもいませんでした。だからじっと社長がどう作業をなされるのかを、社長が出発をしたの9時ごろに確認したから、そこから2時間後にどうなっているかを見に行ったほうがいいだろうなと思ったんですよ。案の定でしたね。大好きな音楽に夢中になって取り組むだろうなあというのは大いに予想できました。」と苦笑いをしながら語り始めた。

「これだけ社長の好きな音楽がガンガンにかかっていたら、この地で潜んでいる潤一郎も”うるさいなあ”と思って現れないと思いますからね。本当は怖かったんじゃないんですか?」と木藤が社長の耳元で囁くように語る。

木藤やそして山嵜にそう言われた大嶌は「心配を掛けたりして悪かった。最後は皆でこの土地に最終的には天然芝で覆い茂るフィールドにしたい。あとは依頼人の反町さんの意向として、階段を上がったすぐのところに凄惨な事件があったことを伝える石碑を設けること、そして我々としては潤一郎の位牌や遺影が置かれてあったこの地下の間には地蔵を祀りたい。我々の意見は既に反町さんとも話をしていて既に了承は頂いている。」と話した。

その話を聞いた山嵜は「社長、そんな話をいつ反町さんとしていたんですか?」と聞き出すと、大嶌が答え始めた。

「反町さんが9月7日に、もう一度現場での地下の解体工事を行ってほしいと話を持ち掛けられたときのことだよ。金額の話をした後に、改めて反町さんがあの地をどうして急ピッチで壊したいのか、理由を聞いたんだ。」

時は昨日(9月7日)の大嶌と反町の話し合いに遡る。

反町は大嶌が1200万円で引き続き工事を続けてくれることに安心していた。

大嶌はそんな反町の様子を見て、「どうしてあの多久市内の幽霊屋敷を急に解体をしなければいけないほどの事態になったのですか?」と単刀直入に質問をすると、反町から思いがけない答えが返ってきた。

「大嶌社長、あの家を壊すことは僕が染澤セツさんの成年後見人になってからの悲願だったんですよ。悲願と言って潤一郎さんの”悲願潤徳院信士”という戒名を思い出さないでくださいね。わたしはセツさんの成年後見人になったのは僕が弁護士見習いだった時のことです。弁護士試験に合格し、そして弁護士事務所に就職して、自分はこれから先弁護士として法廷にいつかは立つのを夢見て我武者羅に奮闘していました。そんな自分の前に、染澤セツさんが現れたんです。自分の死後に相続しなければいけない財産のことを考え成年後見人をお願いしたいが、頼る親戚がわたしにはいない。多久市内にあるこの事務所なら頼れるはずだと思い神にすがるつもりで来ました。」

反町が生前の染澤セツさんの話を語りだした。

「セツさんは一人息子の潤一郎さんを一人で育てるのに大変なご苦労をなされたと聞きました。しかしセツさんは体に鞭を打ってまで働くのではなく、楽をして稼ぎたいとばかりに考えていたため不動産のみならず、賭け事にはとことん投資をされたとも聞きました。競艇に、競輪に、競馬。ギャンブルは殆ど、亡き夫の遺族年金をほとんど使ったとも伺っています。しかし結局は不動産の家賃収入だけに頼らざるを得なくなり、さらに収入を増やすために、保有する不動産を増やす目的で借金をしてまで購入をしてきました。セツさんのそんな様子を見て、御兄弟や御親戚の大方は、借金の取り立てだけには巻き込まれたくないという一心で距離を置かれました。そんな母の姿を見た潤一郎さんも最初は叱責をしたそうですが、無心になってまで投資を続ける母を見て変わらないと諦め、”俺を産んでくれた母親だから見捨てるわけにはいかない”といって、母の借金の連帯保証人にもなったそうです。母の抱える借金の額が利息の額が膨らむと同時に払えなくなっていき、潤一郎さんの家にも取り立てが来たそうです。それは関係のない潤一郎さんの奥様の豊子夫人にも陰険な嫌がらせをするレベルでした。」

反町の話を頷きながら、じっくりと聞く大嶌。

「潤一郎さんの死後、セツさんはかつて潤一郎さんが一括で建てたあの多久市内の豪邸のみならず、夏休みの際は家族でよく旅行に行っていた小豆島にあるプールと温泉付きの別荘もセツさんは我が物にすると、さっそくこれらの物件を中古の賃貸の借家として提供をすると、それまでに保有をしていた唐津市内と武雄市内、さらに嬉野市内、鹿島市内にあるお屋敷の全てを中古の賃貸として提供したということもあり、セツさんに入ってくる家賃収入が少しずつ増えていったんです。」

じっくりと話を聞いていた大嶌は「そうだったんですね。しかしどうしてあの家を取り壊すことを急がれるには理由があったんじゃないんですか?」と聞き始めた。

大嶌の質問に反町は単調な口調で語り始めた。

「あの家には潤一郎さんの怨みの念、怨念ですね。怨念が事件から47年も経ちましたが、潤一郎さんが死ぬ間際に社会を怨みながら逝ってしまったという念だけは消えそうにありません。こればかりは100年、いや何百万年もかけても決して癒えることはない潤一郎さんの心の傷だと思います。そんな潤一郎さんの癒えぬ傷跡が残るあの家に他の家族を住ませるなんて、潤一郎さんの気持ちに対して寄り添わない行為そのものだと思っていました。案の定、あの家に住む家族の大方は大黒柱が呪われ次々と無理心中事件を図りました。僕としては、あの家を賃貸として貸し出したことこそが過ちであり、どんなに寄り添っても癒えることはない潤一郎さんの傷に対して癒やせられるのはもう宗教の力しかないと思います。最終的には悪魔崇拝に傾倒した潤一郎さんでしたが、いつかはきっと天国に昇天してもらえるように粘り強くこちらも出来ることをしなければなりません。セツさんがお亡くなりになったことで、今まで僕がセツさんに幾度お願いをしても出来なかったことがやっと今叶う時が来たんです。これ以上、呪いによる犠牲者を増やしたくないんです。その為にもあの家は取り壊し、広場を作りさらに事件があったことを伝える石碑を入り口近くに設けたいんです。」

そう語る反町の姿に、大嶌は「そうですよね。あの家にはもう住ませない方向で動くしかありませんからね。我々としては石碑を設けると同時に、潤一郎さんの霊魂を弔うための地蔵を祀ることも一つの手だと思っています。天然芝で覆い茂られ、照明は太陽光で充電できるタイプのものにして、ベンチを設ける、ブランコや滑り台などの遊具は設けない形で、自由にボール遊びが出来るような環境にするのが望ましいと思っています。」と語ると、反町は「そうですね。良い案ですね。」と頷きながら、大嶌の案に理解を示した。

大嶌の案を聞いた反町は「大嶌社長の案も我々としてはぜひ取り入れたいと思います。案として、取り入れても良いでしょうか?」と話し出し、大嶌は「ありがとうございます。」と照れながら話した。

大嶌は振り返りながら、木藤と山嵜に話した。


木藤はそれを聞くと「そういうことがあったんですね。」と頷きながら話すと、山嵜は「潤一郎って可哀想だか、でも結局は事件を起こしているんだから、同情の余地はないと思いますよ。」とツンとした口調で語りだした。

大嶌はそんな二人を見て、「まあこの地には色々ある。あの地下に隠されていた部屋には潤一郎が悪魔崇拝にのめりこむための、悪魔を呼び込むための宗教的な儀式のやり方などをペンでノートに書き綴っていたのまで残されていたし、生前に潤一郎が遺した遺書だろう”食糧対策”の設計図には”悪魔と取引したい”というダイイングメッセージを書き記したのを残したのがあったこと、さらに潤一郎さんの遺影や位牌なども含め、あの地下は恐らく悪魔と化した潤一郎を封印するためにあったのだろうと推測される。まあ悪魔と言っても潤一郎ではなく潤一郎と見せかけて実は悪魔による仕業があるかもしれない。そこは専門家じゃないからわしには分からん。しかし殺され方を見ても最初に奥様から殺害し、次に長男の宏親君、次男の靖典君、三男の智紀君ときていることから、そもそも儀式を行うのが目的なら子供から殺害するだろうはずが大人から殺害している観点から見ると反対されることを分かった人から先に殺したという見方が出来る。いずれにしろこの地に殺人事件の現場となった家屋を残すのは不適切なのは間違いない。」と話した。

木藤は「まあ普通の考えならそもそも事件があった場所に人は住まわせませんよね?そのあたりがセツさんのおかしいところじゃないですか。息子が事件を起こした家でそもそも大家として賃貸をしていること自体が言語道断ですよ。」と話すが、山嵜は「そもそもセツさんに真面目に働いて稼いでという意思があったら潤一郎は悪霊にはならなかったはずだ。原因はセツさんそのものじゃないのか。」と議論を呈した。

大嶌はそんな二人を見て指摘をした。

「今は事件について議論をしている場合ではない!!」

言われた木藤と山嵜はハッとなって「すみませんでした。」といって作業に取り掛かるのだった。

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