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第53話 ウリッツァ――メルテルさん――、――ウリッツァ

 多少不純で個人的な動機も含んでのこととはいえ、ヴィーシニャさんからの当て馬依頼を承諾した私。
 ヴィーシニャさんに言われたように、見る頻度をいくらか増やしたり、腕に抱きつかれてヴィーシニャさんの胸が当たっても、すぐに振り払わないようにしたりして過ごす。
 それだけでなく、以前ウリッツァが私に話してくれた侵入者に怯えることのないよう……ウリッツァが足りなくなるなどと思わずに大人しくしていたのに……。
「……明日からプリストラと部屋かわってくれないか?」
「……はい?」
「引き受けてくれるのか?」
 あまりの急さといい、「はい?」を肯定と捉えたことといい、戸惑いより怒りが上回りそうになるのをグッとこらえて、一日猶予をもらう。
 さて、ウリッツァが寝ている間に、まずは……ウリッツァは無論、プリストラにも見られたら困るあれらを整理しますか。


 ……ウリッツァがいない部屋で過ごすことになるのは何年ぶりでしょうか。
 あの頃はウリッツァよりあの人を犯したくて殺したくて震えていましたが、あの人はもう私がどうこうできる存在ではなくなってしまって――。
 ……私は、あと何日まともに振る舞っていられるでしょうか……。
 ヴィーシニャさんとどうこうあった日は、ウリッツァにあれこれしないようにしていたから……時々、ある種タケシさんは、あの人のせいで今ここにいるようなもの……などと気をそらすのも考慮して、一週間もてばいい方でしょう。
 上のベッドで寝てウリッツァのことを思い出したりプリストラへの嫉妬で眠れなくなるのを防ぐため、タケシさんのベッドを元タケシさんのベッドにして眠るとして、それから……。
「あの、マギヤさん、最近ヴィーシニャさんとどうしたんですか?」
 メルテルさん……副班長会議のあと、タケシさんに私とヴィーシニャさんとのことを報告するのを忘れたのですか?
 ……いや、メルテルさんとて人、忘れることぐらいあるでしょう。……ああ、あの人がそばにいながら……いや、あの人に気を取られて……? 
 ……判断が付かない……今度会ったら罰として……いや、ダメでしょう、報告を忘れた程度でそんな外道なこと。
 ああ、まだ部屋をかわって初日だと言うのに、もう外道なことを思い付いている……。
 まずは一日耐えなければ……。


 ……日の出より早く目が覚めた……。
 いいなぁ、あの人は、愛する人の近くにいられて……いや、愛しているという言葉はウリッツァよりも――。
 そうだ、ヴィーシニャさんの寝込みでも……いや、今日の見張り当番は、あのリカ班のはず。さすがの私でも一人で四人を制圧するのは……いや、時を止めれば……やっぱりよして排泄でもしましょう。
 髪を整え制服に着替えて食堂へ向かい、ウリッツァのネクタイの結び方が今日は着替える授業がない日にも関わらずそういう授業がある日仕様(シングルノット)なことに不満を覚えながら朝食を流し込み学園へ向かう。


 今日の一限目はヴィーシニャさんやウリッツァと離れられる魔法実技の授業――魔力量で受ける授業が変わる関係上、プリストラやトロイノイとも離れるのですが――。
 魔力50以上110未満(ハイマナ)の魔法実技には、魔法で様々な物を合成する授業がありまして、そこでたまに妙な物が生まれて、まあまあの確率でこっちに被害が及ぶんですよね。
 それはさておき、聖女親衛隊日常警護班内で魔力50以上110未満と言うと、私とリカ班副班長のレイさんと、そしてもう一人。
 ……最近知ったのですが、まさか毎年ずっと私とメルテルさんの前後間に席が二つあったなんて。
 あの頃の私の脳内はあの人やあの人にまつわることが九割以上を占めていたので後ろの席が誰かなんてあまり気に止めていなかったのですが……これからは多少楽しく授業ができそうですね。


 午前の授業が終わり昼休みになりましたが、どうしましょう。
 いつもならウリッツァかプリストラが私を昼食に誘ってくるのですが……「マギヤ、一緒にお昼食べない?」
 ああ、今まで完全に失念していました……ヴィーシニャさんの存在を……せめてウリッツァも一緒ならよかったのに。
 そんな思いを顔に出さないようにしながら弁当箱を開け今日の昼食を確認する。今日のおかずはソーセージ……いや、ソーセージがおかずになること自体は、そんなにおかしなことではないのですが……この長さと太さは……。
 ウリッツァがこれを私に上目遣いをしながら口に……「ちょっとマギヤ、鼻血出てるけど大丈夫?」
「問題ありません。魔法実技の授業で体から出る液体がケチャップになる薬を浴びて、そのケチャップが出ているだけです」
 そんな嘘をのたまいながら、私は自力で出来る鼻血の応急処置と、服に洗浄魔法を施し、再び食べだす。
 ……せめてタケシさんの前ではちゃんとしていよう。

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