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第6話 王都までの道のり

 トントン拍子で話がまとまり、茅尋と未来は王都へと向かう準備をしていた。とはいえ、準備とは言うものの着の身着のままでこちらの世界に来ているため、荷物などというものは存在しない。
 まぁ、強いて言えば未来くらいか。

「ひどい、私のことお荷物って言った!」
「人の心を読むな。大体、そんなこと言ってないぞ?」
「最初に否定しない時点で、それは認めたようなものだよ、ワトソン君?」
「誰がワトソン君だ」

 そんなやりとりをしながら、その日は過ごし、翌日。
 王都への出立は、ウェッジ司教が準備する、教会が身分を保障していることを示す書類が発行されてからだ。
 昨日のうちに手配され、その日のうちの発行されるはずであったが、まだ発行されていなかった。

「あら、まだ出来ていないのですね」
「みたい」
「朝のうちに立とうと思ったのですが、それなら仕方ありませんね。しばらく待ちましょうか」
「じゃあ、私寝てるから準備出来たら起こして!」

 そう高らかに宣言した未来は、ベッドの上で横になって寝てしまった。
 相変わらずマイペースなやつだこと。

「では、待っている間、お話でもしてましょうか」
「うん」

 2人は、向き合う形でイスに座り、それからしばらく話していた。
 発行にはそんなに長く時間はかからないと思っていたがが、想像以上に発行に時間がかかってしまい、出来たころにはすでに昼を回っていたため、取りあえず昼食を取ってから出発することにした。

「申し訳ない。枢機卿がうるさくてな」
「あー・・・・・・」

 ウェッジ司教曰く、どこの馬の骨ともわからない奴に、教会が発行する身分保障証など作って渡すわけにはいかない、と枢機卿から文句が出たらしい。
 かなり長い時間をかけて話しあった結果、王都にある教皇庁大使館に必ず返還すること、パメラ王女が責任を持ってそれを行うことなどを条件に、特別に貸し与えられることとなった。

「全く、枢機卿は・・・・・・」
「仕方ありません。教皇聖下がいらっしゃらない間の総責任者は、枢機卿ですから」
「あら、ウィリアム総大司教はいかがなされたのです?」
「総大司教は、教皇聖下とともに外遊に出られております」

 予想していた通りではあったが、やはり反対が出ていたらしい。そりゃそうだよなーと思いつつも、口に出さずに待っていた。
 話しが終わると、パメラが駆け寄ってきた。茅尋と未来は、手を引かれると、そのままパメラと同じ馬車に乗り込んだ。

「姫、お気をつけて!」
「はい、ウェッジ司教、ありがとうございました」
「ウェッジ司教。お世話になりました」
「いえ。また、困ったことがあれば、いつでも」

 ウェッジ司教が挨拶をすると、パメラもそれに対してお礼を言い、茅尋もそれに続いて礼の言葉を述べた。
 未だ寝ている未来を乗せた馬車は、王都へと向かうことになる。
 王都へは、およそ60キロほど離れているらしく、そこそこ整備されているとはいえ、そこまでのスピードが出せないため、一日におよそ10キロほど進んで休み、10キロ進んで休みを繰り返し、大体7日程度で王都へは到着する行程であった。

「野宿するの?」
「いえ。途中に村や町もありますので、そこで宿を借りようかと思っています」
「ご飯、美味しいといいなぁ」
「こいつ、食うことしか考えてないな」
「だってさー、やることなーんにもないんだよ? ゲームもなければ小説もないしマンガもない。テレビやラジオ、スマホだってないんだよ? 寝るか食うかしかないじゃない」

 それは確かに未来の言うとおりではある。暇つぶしになりそうなものが何一つないのだ。娯楽などはないわけではないが、こういった時に楽しむものではない上、持ち歩くものでもないため、ここにはない。
 そう考えると、馬車に乗ってる間って、みんな何してるんだろう。異世界転生や異世界転移モノの作品って結構な数あるし、馬車移動があるものもあるけど、大体カットされるかそもそも描写されてないものもあるんだよね。

「いざ自分が異世界に来てみると、ああいう作品で馬車移動を端折ってるのは理由があったんだなーってのが分かるわね」
「私たちみたいに何日もかけて移動することなんてザラにありそうなものなのにね」

 話しをしている、とは言っても同じメンツでずっと乗り続けるわけで、話題というのはどこかで尽きる。スマホという文明の利器があったとしても起こりうることが、スマホがないこの世界で起こらないはずもないのだ。

「本があれば、また違うんだろうけどなぁ」

 ちなみに、パメラは疲れていたのか馬車が動き出してからしばらくしたら可愛い寝息を立てて寝てしまった。茅尋も寝ようかと思ったが、昼寝をしまくっている未来がガン見してきていたので、寝るに寝れなくなっていた。

「あんたさ、昼間寝てばっかりだから、こういうときに寝れないんじゃないの?」
「んー、どうだろうね。単純に、この道じゃ寝れないだけかも」

 先ほども説明したが、道は現代の日本のように舗装されているわけではない。多少は整備されているものの、決して乗り心地がいいとは言えないほどガタガタと揺れている。
 現代の整備されきった日本の道路になれている2人は、このデコボコ道では中々落ち着けなかった。そのため、こんな道でもスヤスヤと眠れるパメラは、正直すごいと思ったのは言うまでも無い。

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